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政府に逆らうと「住宅ローンの利子があがる」?ビッグデータで新型監視社会を目指す中国(高口)

2017年04月28日

ここ1、2年、「ビッグデータ」という言葉が話題ですが、じゃあ具体的にビッグデータで何が起こるのか、何ができるのかというのはまだまだよく分からないという人がほとんどじゃないでしょうか。ですが、お隣の中国ではちょっと信じられないような勢いでビッグデータの活用が進んでいます。

中でも話題となっているのが「社会信用システム」です。まだ構築過程なのですが、すでにリリースされているのが芝麻信用(アリババ)や騰訊信用(テンセント)といったIT企業の個人信用評価サービス。「ネットショップで月に何回買い物した」「ちゃんと料金を払った」「返品を何回した」といったさまざまな情報をビッグデータとして解析、個人の信用を点数として表示します。この点数が高いとホテルに泊まるときに保証金が要らない、シンガポールのビザがとりやすくなる……といった特典も。詳しく知りたい方は、田中信彦「「信用」が中国人を変える スマホ時代の中国版信用情報システムの「凄み」」、山谷剛史「国の社会信用スコア「芝麻信用」で高得点を狙うネットユーザー」をご覧下さい。

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*騰訊誠信のトップページ。かわいらしい女性が2人並んでいますが、右は星5、左は星4と格差が……。

また消費者金融でもビッグデータが使われ始めているとのこと。

中国で広がるAI融資審査、不在着信多い人はNG
ウォールストリートジャーナル、2017年4月10日

中国で融資アプリを手がける「用銭宝」は、申込者の信用力を診断するために、銀行カード番号のような通常の信用情報のほか、どんな携帯電話を使っているかや不在着信の件数など1200以上のデータを収集する。

(…)数億件の融資申込書を調べた結果、次のような傾向が見られた。iPhone(アイフォーン)利用者はアンドロイド搭載スマホ利用者よりも延滞率が低く、不在着信が多い人(受信・送信含む)はデフォルト率や不正のリスクが高かった。申込書の内容を何度も書き換える、バッテリーの充電切れを起こす、たびたび機種変更するのは危険なサイン。1カ所のWi-Fi無料スポットで複数のアプリをダウンロードするのも危険だ。資金の借り入れと使用を別の都市で行う人は、リスクがより高くなる。

ネットショッピングの情報どころか、スマートフォンのありとあらゆる動作について情報を収集し、それを消費者金融の融資という実務に使用する段階に突入しているわけです。

ここまででも「監視社会中国恐るべし」という思いを抱かれた方は多いと思いますが、本題はこれからでして。冒頭で述べた「社会信用システム」なのですが、これは中国政府が提唱したもの。政府が持つ情報から、上記のような民間企業が持つ信用評価システムまで相互接続して、人民一人一人の信用数値を弾き出そうという壮大な試みです。2014年から検討が始まったばかりでいつ完成するかは定かではありませんが、実際に動き出しているプロジェクトなのです。中国共産党の第13期5カ年計画(2016~2020年)には、国家人口基礎情報データベースの一環として、「健全社会心理サービス体系」を構築するとの目標が定められています。これは人民の政治動向を含めた精神面をも数量化、データベース化する試みになると予測されています。

「ジョージ・オーウェル『1984』で描かれているディストピアは現在の中国そっくりだ」などと言う人がいますが、正直『1984』よりも中国のほうが進んでいるのではないでしょうか。

2017年4月25日、国際NGO「ジャーナリスト保護委員会」の王亜秋研究員は「Discredited」というコラムを発表しています。「社会信用システム」が発展していったその先には、ネットでデマ(と政府が認定した情報)を発信した記者は信用評価が下げられ、住宅ローンを借りる時に高い金利になる可能性がある、という指摘です。

これはなかなか面白い着眼点です。今でも中国の記者は厳しい管理下に置かれていて、一発でクビ、あるいは投獄といったことすらあるわけですが、始末書書いて終わりレベルの問題もあるわけで。今までならば「怒られてもこの記事は世に出す!」という考えだったのが、「怒られたらマイホームが遠のく……とほほ」に変わってしまうわけでして。一般庶民にしてもSNSでさまざまな情報を発信したあげく、「派出所に呼び出されて説教された」体験をした人はごまんといるわけですが、個人信用評価に響くとなれば大事です。

中国の「社会信用システム」はもともとアメリカなど各国で使われているクレジットヒストリー(クレジットカードの利用、返済履歴から個人の信用度を測るもの)に範を取ったものなのですが、スマホの使用履歴(着信を取らなかったことまで含め!)から、さまざまな行政手続きや警察に怒られたことなどすべてが統合される、より広範な情報を扱ったものとなります。

アメリカでも住宅ローンを借りるためにクレジットヒストリーを必死に作るのが一般的だと聞きますが、中国の場合ですと生活のすべてにおいて清く正しく、政府の言うことを聞かなければ「損をする」社会になっていくことに。人民がみなみな正しく生きようとするという意味ではプラスの面もあるでしょう。例えば「週にラーメンを2回以上食べると評価ポイントが下がる」「深酒ダメ、絶対」といったヘルス関係のデータベースと接合したりすると、健康寿命が伸びる可能性もあります。

その一方で、政府にちょこっと逆らうと、弾圧・迫害というレベルではなく、ちょこっとした不利益を被るというシステムが整うと、社会のあらゆる局面で不自由になることも否めません。ジョージ・オーウェル先生もびっくりの超監視社会が今、誕生しつつあるのです。

*拙著『現代中国経営者列伝』が出版されました。「中国企業の経営戦略やエピソード、そして創業経営者の生い立ちや人となりをまとめた一冊。これまでに、ありそうでなかった中国経営者たちの「伝記集」というスタイル」です。本エントリーで取り上げた芝麻信用についても軽く触れています。よろしければお手にとっていただければ。試し読みもあります。

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