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UPQ問題から考える「信頼」の日本モデルと中国モデル(高口)

2017年04月29日

日本家電ベンチャーのUPQ(アップ・キュー)が販売したディスプレイの「仕様誤表記」問題が話題になっています。すでにさまざまな記事が出ているこの話題に触れるつもりはなかったのですが、今日、ツイッターのタイムラインで以下のようなやりとりを見かけました。












■信頼の最低基準がある日本、ない中国

このやりとりに触発されたので、UPQ問題とは直接関係がないかもしれませんが、日本と中国の「信頼」についてちょっと書いてみたいと思います。

池澤さんの問題提起は非常によくわかりますし、重要です。ただ中国は一概に「ミスに寛容な社会」とは言いがたかったりします。ネットショップを運営している知人の話を聞くと、モンスターカスタマーの比率も相当いますし、そもそも母数が多いので数でいうと圧倒的に多くなります。ではなぜ「ミスに寛容な社会」に見えるのか、それは「信頼の最低基準がないから」ではないかと考えています。

昨年、知人の中国人がネットショップでLeEco(楽視)のローエンド・スマートフォンを買いました。ところが届いてみるとびっくり。スマホを手に取るとカラカラ音がするのです。中の部品が固定されておらず、動いているんですね。持ち上げただけでわかるミスなのにどういう検品をしているんだと日本人ならばキレる人が多そうですが、その知人は何も気にせずカスタマーサービスに連絡。すると翌日には同機種の新品が送られてきました。

「iPhone買って同じことが起きたらキレるけど、LeEcoの900元ぐらいで買った携帯だから。これぐらいのミスあっても不思議じゃないし、交換してくれたからそれでいいや」と平然としています。

日本だと時々、「商売ってレベルじゃないぞ!」という言葉を聞きますが、それは商売ならば一定基準以上が確保されているという前提条件があるためです。一方で中国にはそのラインがなく、「どこまででも安いものがあるが、お値段相応に信頼性も下がっていく」のです。日本でも「安物買いの銭失い」
と言いますが、100円ショップであってもある程度の信頼性が確保されています。一方の中国では安すぎるものを買うと、「購入翌日には確実に壊れる時計」「一回洗うと10分の1に縮むTシャツ」などなど、ステキすぎる商品が出てきます。お値段とリスクをよくよく考えて、自分にあったレベルの商品を買うことが求められるのです。

ただし露店などはいざしらず、中国の場合ですとかなり気軽に返品交換には応じてくれます。初期不良や故障が前提なのでそれは当然なのでしょう。その意味ではUPQの対応は中国的にもアウトかもしれません。


■中国人も日本モデルが好き?

ただしいちいち購入時に考えるのはきわめて疲れる作業なので、お金があれば安心できるものを買いたいし、売られている商品は基本的に安心できる日本はすばらしいという話に。中国人がわざわざ日本に来て、日用品の類までごっそり買っていくのはそのためです。日本の品質基準はすばらしいのですが、その基準を満たす零細企業はなかなか生き延びられないという問題もありますし、過剰品質になって価格面で太刀打ちできないという悩みもあります。

日本のネットで流行っているものに「不良品ジョーク」というものがあります。

あるアメリカの自動車会社が、ロシアと日本の部品工場に以下のような仕事の発注をした。
「不良品は1000個につき1つとすること」
数日後、ロシアの工場からメールが届いた。
「不良品を1000個に1つというのは、大変困難な条件です。期日にどうしても間に合いません。納期の延長を御願いします」
数日後、日本の工場からもメールが届いた。それにはこう書かれていた。
「納期に向けて作業は順調に進んでおります。ただ、不良品用の設計図が届いておりません。至急に送付して下さい」

これを日本すごい!と考えるのは危険です。「不良品1個まで許容範囲ならば、そのミスを許容することでどれだけコストを下げられるか」という発想にならないと、価格競争に負けてしまうわけです。


■日本モデルと中国モデル、「今」だけ見ていても優劣は決められない

さて、この「最低限の信頼ハードルが高い」日本モデルと「ハードルがない」中国モデルとどちらが優れているのかというと、一概には結論が出せません。なんとなくいろんな分野で中国のほうがイケてるので日本モデルはあかんと言いたくなってしまうのですが、結局のところそのマーケットや技術など多くの要素によって、どちらが優位なのかは異なるからです。

再び携帯電話を例にあげましょう。2000年代後半、中国では「山寨機」と呼ばれる、ノンブランドのフィーチャーフォンが大流行しました。これは台湾のメディアテック社が提供したSoCが大変な優れ物で、有象無象のメーカーが作った製品でもそこそこの品質にある、コスパで見合う状況が出現したためでした。ところがその後、スマートフォン時代になると技術環境が一気に代わり、零細企業の作る製品はとても使い物にならないとまったく売れない時代に。そして現在、再び零細メーカーでもそこそこの基準のものが作れるようになったけど、アフターサービスなどを考えるとそれなりの規模がある中国国産メーカーがコスパ的にいいよねの時代に突入しました。

時代の風が吹くのを待つべきか、それとも時代に合わせて方針を変更していくべきなのか、難しい悩みだとは思います。もちろん後者のほうがいけてるように見えるわけですが、そんな柔軟な対応が取れる企業はどれほどいるのかと思うわけです。

先日、過去40年ぐらいの中国経済の歩みを企業家の視点から追った『現代中国経営者列伝』という本を出版しましたが(宣伝)、それなりの期間を通して見ると時代の風に乗って成功する企業は必ず出現するわけですが、時代の変化に合わせてかわれる企業は少ないなということを改めて実感しました。

*拙著『現代中国経営者列伝』が出版されました。「中国企業の経営戦略やエピソード、そして創業経営者の生い立ちや人となりをまとめた一冊。これまでに、ありそうでなかった中国経営者たちの「伝記集」というスタイル」です。本エントリーで取り上げた芝麻信用についても軽く触れています。よろしければお手にとっていただければ。試し読みもあります。

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