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情報を売ったのは誰か?ちょっとだけ見えてきたリオ・ティント事件

2010年04月11日

謎に包まれたリオ・ティント事件。先月、一審判決が下されたが、ようやくどんな事件だったのか、おぼろげに見えてきた感がある。残念ながら日本語メディアではこうした事情を説明する記事はないようだ。

まず事件の概要を簡潔にまとめよう。昨年7月、中国当局は英豪資源大手リオ・ティントの上海事務所社員4人を贈賄と国家機密侵犯容疑で逮捕した。こうした事件ではきっちりと裁判が終わるまで事件の詳細が明かされないのが中国の常だ。

事件は謎に包まれていたが、その直前に中国アルミによるリオ・ティント社への出資案が頓挫していただけに、「さあ、いつもの報復措置だ」と思った人も多かったのではないだろうか。少なくとも自分はそう考えていた。ところが、事件はもう少し面白い内容だったようだ。9日付財新網は記事「リオ・ティント事件『商業秘密』の詳細解読」に詳しい。これに自分の妄想を加えて、事件を整理したい。

ここ数年というもの、あらゆる資源価格は高騰が続いていた。その最大の要因は中国を始めとする新興国の需要増。とりわけ過剰な鉄鋼生産能力を抱える中国にとって鉄鉱石はきわめて貴重な資源となっていた。一方で供給側はリオ・ティント社、ヴァーレ社、BHPビリトンなど独占的な国際企業が強い価格支配力を握っており、中国と対立していた。

ところが2009年、世界金融危機の影響で資源価格は暴落。鉄鉱石の価格もどれだけ下がるかが焦点となった。中国の交渉窓口である中国鋼鉄工業協会は40%カットという高い目標を掲げ、リオ・ティント社と対峙した。

こうした状況で相手の交渉カードを読むための情報が必要と動いていたのが、リオ・ティント社上海事務所だったもよう。裁判所は社員4人が2008年12月から2009年6月にかけ、中国とリオ・ティント社の鉄鉱石価格交渉に関する機密資料を不正に入手していたと認定した。その情報源はなんと莱鋼集団有限公司、首都鋼鉄集団、邯鄲鋼鉄集団有限責任公司などリオ・ティント社と長期契約を結ぶ中国鉄鋼企業だった。中国鋼鉄工業協会の会議内容などを逐一報告していたもようだ。特に66号文書と呼ばれる方針を定めた資料を手渡したことが、価格交渉で中国の敗北につながったと見られている。

面白いのは情報をわたした側の動機だ。担当者が金で抱き込まれたとかではなく、情報と引き替えに「輸送船一隻分の鉄鉱石」を要求しているとの記述がある。個人的な私利私欲ではなく、会社レベルでの裏切り行為だったわけだ。

普通に考えれば、情報を提供した中国企業も価格交渉に成功すればメリットを受けられるはずだ。ではなぜ機密情報を流したのか。おそらく「リオ・ティント社との長期契約」が読み解くカギとなる。これらの企業は市場価格より安く鉄鉱石を入手することが可能であり、他の中国企業に転売することで巨額の利益をあげていた。ゆえに中国鋼鉄工業協会が高値で輸入契約を交わせば、むしろ利益を得る立場にある。

中国との価格交渉を優位に進めたいリオ・ティント社、転売利益の確保と見返りの鉄鉱石供給が得られる長期契約の中国企業、両者の利害は一致していた。こうして商業機密が流出する構造が完成した。

中国と大手資源企業、といった二項対立的図式を描きたくなるのは人情だが、中国内部はばらばらというのが実情ではないだろうか。特に鉄鋼企業は過剰な生産能力を抱え、鉄鉱石確保とチキンレースの設備拡大・安売り競争を続けているという印象だ。

情報を流出させた中国企業への処罰はいまだ明らかとなっていないようだが、リオ・ティント事件の本質は、海外企業へのバッシングというよりも統制が取れない国内鉄鋼業界への怒りの一撃のようにも見える。もっともまだまだ不透明な部分が残るのも事実。今後の展開をワクテカしながら見守りたい。

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