中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2010年08月04日
「三丁目の夕日」と言えば、西岸良平が昭和30年代の失われた日本ノスタルジアを描いた名作漫画です。昨今、映画化されヒットしたのも記憶に新しいですね。
作中、一番しびれたのはCGで再現された建設中の東京タワーの映像です。フランスのエッフェル塔を模した形状で建設、見事に世界一の高さを達成しました。この巨塔の建設は日本が超高層ビル建築戦争をリードする存在になったことを示すものとなりました。高度経済長期の日本にとって、日々大きく、高くなっていく東京タワーが明日の労働への活力になったことでしょう。
東京タワー / 柏翰 / ポーハン / POHAN
それから半世紀が過ぎた今、高さでは次々と追い抜かれてしまいましたが、それでも日本では最も高い建築物としての座を保持しています。しかし今回、ついに東京スカイツリーにその座を明け渡すこととなりました。
今なおランドマークとして君臨する東京タワーですが、その意義は時代とともに変化したのではないでしょうか。かつて躍進を象徴したこの塔は、今や日本人のノスタルジアを象徴する存在です。
自分が「三丁目の夕日」の建設シーンを観て感動したのもこの点です。東京タワーは激動の経済成長を遂げた日本、その間の物質的変化と価値観の変容をすべて見守ってきたのですから。
経済発展の象徴がいつしかノスタルジアの象徴に変わる。ありふれた話かもしれません。しかし、今まさに経済発展の爆心地である上海は、日本人が通り過ぎた道を再び歩もうとしています。
日本の森ビルがプロデュースしたSWFC。今や天を突く勢いで上り続ける、魔都上海の象徴です。東京タワーよりはるかに高いだけに、巨塔を見上げる上海人は首がこって仕方ないでしょう。
話が飛ぶようですが、「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」という伝説的な日本映画があります。2001年公開の子供向けアニメですが、多くのメッセージがちりばめられた重厚な作りから、日本アニメーション史に残る名作として、今も根強い人気です。
(音楽のみです)
テーマが難しいと思われている方も、少ないないかもしれませんが、物語の核を端的に言い表す言葉が序盤で登場しています。しんちゃんの友達、風間くんが、ノスタルジアに浸るオトナたちを見ての一言。
「懐かしいって、そんなにいいもんなのかなぁ?」
郷愁だけで生きて行けるのか?ノスタルジアの巨塔の国から来た自分が、繁栄の象徴であるSWFCを見ての感想です。あるいは「バブルの象徴だ。100年後には中国の墓標となっているだろう。」と一笑に付す日本人も少なくないかもしれません。なるほど、中国が転落する可能性は十分にあります。この巨塔も傲慢と虚栄の象徴に終わるのかもしれません。しかし、今、上海には熱い何かが息づいていることもまた事実。
日本経済が低迷する中、2012年に完成する東京スカイツリーは、TOKYOのランドマークたりえるのでしょうか?どのような象徴となるのでしょうか?かつての東京タワーが持っていたような意味合いを持つことは難しいかもしれません。
しかし、「失われた20年」に青春を過ごした自分としては、もう一度、視線を上にあげ、首がこった日本人たちと仕事がしてみたい。そう、思っています。
※SWFCの左隣に「上海タワー」という、632mの更に高いビルが一昨年より建設中です。おそらく東京スカイツリーの634mを超える為、スケールアップさせることでしょう。天空を目指す無益な戦いは永劫に続く…… 。