中国紙の社説など長文記事の翻訳紹介を積極的にやっているブログ「
中南海ノ黄昏」の17日付エントリー「
良性の軍事クーデター」が面白い。
今回紹介されているのは、「中共解放軍の建軍記念日に当たる8月1日付の胡錦濤の御用新聞『中国青年報』が掲載した記事」。詳しくは「中南海ノ黄昏」を見ていただくとして、簡単な概要をご紹介します。
まず記事の下敷きとなっているのは、ポール・コリアー『
民主主義がアフリカ経済を殺す』。原題は「Wars, Guns, and Votes」(戦争、銃、票)。中国やアフリカを対象にした本はおどろおどろしいタイトルをつけないと売れないのでしょうか。
本書の大枠ですが、白石隆氏の毎日新聞書評は次のように説明しています。
こういう危ないところ(世界経済の最底辺にある10億の人々が住むアフリカ:Chinanews注)で、かりに人々が銃を捨て、選挙で投票によって政府を選ぶようになれば、問題は解決されるのか。データを見ると、どうもそうではない。こういうところでは、現政権が選挙によって政権を維持する確率は、先進国におけるよりもかなり高い。また民主制の基盤のないところで選挙をやっても、 国民に対ししかるべき責任をとれる正統な政府をつくることはできない。民族的・宗教的に分裂したところでは特にそうである。そういうところでは民主化は経 済政策とガバナンス改革にまったく役に立たない。民主的選挙が失敗国家を救うというのは、その意味で、まるで誤りである。しかし、民主制がだめだから、中国のような「良い独裁」がうまくいくということにはならない。経済的に貧しく、民族的に多様なところでは、「良い民主制」も「良い独裁」もうまくいかない。
今週の本棚:白石隆・評 『民主主義がアフリカ経済を殺す』=ポール・コリアー著 - 毎日jp(毎日新聞)
中国青年報の記事は、腐敗に抵抗しある意味では民意を体現する「良性の軍事クーデター」というコリアーの説が紹介された後、「でもね、軍事クーデターで成立した政権が民選政府に転換するのは難しいよ」としめくくっています。
積ん読でまだちゃんと読んでいないコリアーの話も面白いのですが、なぜ中国青年報がこの記事を載せたのか、という背景もいろいろ妄想したくなるところ。「中南海ノ黄昏」も「どうして8月1日に記事にしたんですか?他の日じゃダメだったんですか?」とつっこんでいます。
白石隆氏の書評では「良い独裁」の代表例として挙げられている中国。この30年で国民生活が大きく向上したことは誰もが認めるところでしょう。しかし、独裁政権が存在し民主的なプロセスでの政権交代は絶望的、汚職や格差など社会の不満が高まっているという点では、程度の差こそあれアフリカ諸国と共通しています。
8月1日は中国の「八一建軍節」。1927年に中国共産党が起こした武装蜂起「南昌起義」の記念日です。その日に「軍事クーデターはいまいち良くないよ、民主化にはつながらないよ」という記事を掲載するなんて、ちょっと笑えるのですが、記事を書いた偉い人は中国に再び暴力革命が到来する日を本気で心配しているのかもしれません。
(Chinanews)
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