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他人の名前と身分を奪って15年=政府機関幹部にまでなった女性の数奇な人生

2010年08月31日

現在、中国では10年に1度の国勢調査を実施中。戸籍がない子どもなど、ひそかに暮らし続けていた人が数多く発見されることになるでしょう。今回の話は中でもとびきりの不思議なエピソード。15年間も別人の名前で生活し、国家機関の幹部にまで昇進していた女性の話です。

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*写真は天津市の南開大学。

「若いうちは誰もが過ちを犯すものです。私もそうでした。今、その償いをする時がきたのです。」

取材を受けた趙小玲(仮名)はこう話し始めた。彼女は1974年、山東省淄博市の農村で生まれた。

「高三の旧正月のことでした。山西省の親族を訪ねたのですが、あそこでは大学入試の合格ラインが山東省よりもだいぶ低いと聞きました。そこで山西省で受験したいと思うようになりました。」

親族は趙と同じ年頃ですでに高校を辞めていた女性・古月栄(仮名)さんを探し当てた。古さんが住む村の幹部を訪ね、趙のために「常住人口証明」を発行してもらった。その証明書を持って、今度は派出所で身分証を発行。趙は古さんの名前と身分を手に入れたのだった。

1995年3月、趙は「古月栄」の名前で、山西省臨汾市の高校に転学した。最初は名前を呼ばれてもなかなか反応できなかったという。同年、天津の大学に合格した。合格後、趙は大学に名前と身分証番号を変えられないかと何度も問い合わせたが、名前はともかく身分証番号は無理だと拒絶されてしまった。

「いつも学校に問い合わせた後数日は、『受験移民』がばれて退学させられるのではないかと恐れていました。まさに悪夢でした。」

古栄月としての名前と身分を変えられないまま大学を卒業した趙。1999年、圧延工場に技術者として配属された。しかし、当時、工場の経営状況は悪かった。そこで2か月後には辞職し、大学院に進学した。

「別人の名前が書かれた合格通知書を受け取って泣きました。どこまでこの辛い日々が続くのか、と。」

大学院生として所属したのは北京市のある政府機関旗下の研究所だった。こうして趙は北京市の戸籍を手に入れ、さらには国家幹部という身分を手に入れた。北京での生活を続けた趙は、夫とめぐりあい、子どもにも恵まれた。しかし、その夫ですら、趙の本当の名前は知らないままでいた。

「結婚式に両親を呼ぶ勇気はありませんでした。ついつい本当の名前で呼んでしまうのではと恐れたのです。」

2003年に両親が亡くなったが、その時すら夫には秘密にしていた。出張といつわって故郷に帰ったという。

「両親には申し訳なく思っています。彼らの最後の望みは、一目、娘婿を見ることでしたのに。夫に秘密がばれることを恐れて、私は夫を連れて故郷に戻ることはなかったのです。」

趙の仕事は順調だった。所属機関でも優秀な人材として活躍、重要な特許を何件も取得している。古月栄という名前を手にして15年、ばれないように日常生活でも細心の注意を払い、趙は生活を続けていた。

しかし、ついに恐れていた時が訪れた。国勢調査を期に、山西省臨汾市で暮らす本物の古月栄は、全く同じ身分証番号を持つ自分のクローンに気づいてしまったのだった。

「もし今回の国勢調査がなければ、秘密はまだ隠し通せたでしょう。でも、私は感謝しているんです。ついに終わりにすることができましたから。」そう、趙は話している。

2010年8月30日付重慶晩報「山東省の女性、大学進学のために『受験移民』に=偽名での生活15年」から抄訳。
昨年、発覚した羅彩霞事件(文末参考記事参照)とまったく同じ、他人の名前と身分を奪っての「受験移民」事件。ただ15年間まったくばれなかったというのは驚きです。前回の国勢調査もばれずに済んだわけですし。

中国の身分証は偽造防止のためにICチップを埋め込んだり、ネットでのオンライン検索が可能になるなど、機能が強化されてきています。趙さんのように、身分をごまかした上で正職についている人は戦々恐々としていることでしょう。

ただし非正規雇用などの場合にはまだまだいくらでもごまかせるはず。今後、第6回国勢調査の進展にともない、こうした事例はいくらでもでてくると思いますが、それでも発覚しない事例はごまんとあるかと。

それともう一つ、気になるのが趙さんの処分。国勢調査がきっかけで秘密が暴かれ処分されるようなことになると、調査に協力しない人が増え、調査の正確性を担保することが難しくなりそうです。実名報道でないのはそのあたりを配慮してのことでしょうが、では罰則ゼロで済ませられるのかといえば、そのあたりもまた難しい問題です。

(Chinanews)
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