中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2010年09月02日
――――――――――――――――――――――――――――
2010年第2四半期、中国のGDPは日本を超えた。海外メディアが里程標的な事件として注目する一方、中国メディアはさほど注目していない。中国世論は自然災害や環境問題、不動産バブルに注目しており、GDPの数字上の変化をさほど気にかけてはいない。また、GDPで2位になったものの、一人当たりGDPではなお日本の10分の1以下に過ぎない。
とはいえ、これを機に中国が歩んできた道を振り返り、将来のリスクを分析してみるべきだろう。今、克服しうる課題を研究しさえすれば、中国は今後10年にわたり、さらなる成長が可能となるだろう。
中国の競争的優位
長年にわたる成長は巨大な成果となった。経済成長の規模から見れば、中国経済の奇跡は加速している。中国とインドのGDPは20年前、ほぼ同規模。そして2010年、中国のGDPはインドの4倍に達している。インドをはじめとする他の新興経済体と比較して、中国は多方面でよりうまくやってきた。
過去30年間、中国の核心的政策であり続けた「改革開放」こそ、成長をもたらした最大の要因である。30年前にはほぼ皆無に等しかった輸出額は今や世界一。10年前と比べても5倍にふくれあがり、「世界の工場」の地位を手にするまでになった。
輸出の成功をもたらしたカギは、「WTO加盟」だった。多くの多国籍企業が安心して中国に進出できるようになったためだ。中国国内市場の成長も多国籍企業が生産拠点を置く要因となった。中国ほど経済力が大きく、国内の販売がさかんで、輸出が多く、また生産コストが安い国は存在しない。
もっとも中国の生産コストは、すでに世界最低ではなくなっている。バングラディシュのコストは中国の4分の1。インドネシアの生産コストは1997年時点で中国のほぼ倍だったが、現時点では同水準となっている。一部の産業はサプライチェーンと生産拠点が接近している必要がないため、生産コストの上昇に伴い、中国から移転することになるだろう。靴や衣料品がその典型となる。しかし、それでも大部分の産業は中国にとどまるあろう。
インフラ建設は中国にとって第2の競争的優位である。各種資源を動員してインフラ建設を推進することにかけて、中国政府は異常なまでに強大な能力を持っている。高速道路がその好例となろう。四方八方に張り巡らされた道路は「ネットワーク効果」により経済効率を高めている。過去十数年間で、中国は6万キロ以上の高速道路を建設。なお3万キロが建設中だ。高速道路の整備は人口流動を加速させた。農村と小都市は国民経済に組み込まれ発展し、物流コストを大きく下げることになるだろう。
港湾と工業園区の建設はOEMメーカーを中国に呼び寄せた。高速道路の効果とともに中国を世界最大の輸出国とする要因となった。多くの発展途上国はインフラ建設を早急に進められないことがボトルネックとなっている。資金的な問題もあるが、最も重要な要因は土地収用の困難と政府の執行力である。
伝統的なインフラ以外でも、中国が比較的早期にインターネットを整備したことは注目に値する。ネットは現代経済における最新にして不可欠なインフラである。1990年代、中国政府はグローバル経済に参加するため、インターネットの整備を進めることを決定した。もしインターネットがなければ、現在の中国がどうなっていたのか、想像することは難しくない。おそらく経済規模は現在の半分にとどまっていただろう。
第三に中国は大量の労働力を抱えている。他のあらゆる要素以上に、豊富な労働力は中国経済の発展に寄与した。過去5年弱の間、中国の生産性は年10%弱のペースで成長している。全要素生産性も年4%超の伸びを示している。一方で、ドルベースでの名目給与は過去十数年間、まったく変化していない。つまり、生産性の上昇は欧米の消費者がますます安く中国製品を購入でき、多国籍企業の利益が増え、中国政府の税収が増えることを意味していた。なぜ多くの多国籍企業が中国に進出するのか、なぜ中国政府がインフラ建設に力を入れ多国籍企業を招致しているのか、こうした構造が理由となっている。
今では中国人労働者の給与も上昇しつつある。中国の競争力が衰退するのではと懸念する声もあるようだ。前述したように、靴産業や衣料品産業は移転することになろうが、その他の産業はそう簡単には移転しないだろう。製造企業はコストの増加を消費者に転嫁することで埋め合わせるものと見られる。つまり、企業は下落した価格をもう一度上昇させなければならず、また多国籍企業は利潤の目減りを受け入れる必要がある。中国から輸出されるコンシューマー製品の小売価格は工場出荷価格の3~4倍。労働コストの上昇を吸収することは十分に可能だ。
以下、Kinbricks Now:<日中GDP逆転>中国成功の秘密と未来の不安―謝国忠論文(2)に続く。