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2010年10月13日
その暮らしが脅かされ始めたのは2006年のこと。市政府はリゾート開発を推進するべく、白虎頭村などの土地収用を決めた。その手段は強引きわまるものだった。村民の同意を得ず村民委員会委員長と契約を取り交わしたばかりか、提示した補償金もきわめて安いものだった。村民らは新たな村民委員会委員長を選出し合法的な対応策を模索するも、新任の村民委員会委員長は共産党を除籍され、また「違法経営に関与した」との罪で拘留処分を受けている。
また、村民が市政府と協議する過程で、大規模再開発プロジェクトに必要な国務院(日本の内閣に相当)の認可を得ていないことも判明している。本来は一つのプロジェクトを6つに分割することで、国務院への申請が不要な規模にしていた。これは「以整化零」(全体を小分けする)と呼ばれる、典型的な違法開発の手法だ。さらに村民の抵抗に業を煮やした市政府は、公務員や国有企業従業員の職にある村民に家族を説得するよう指令。説得できなければ、解雇するとの脅した。
政府の強圧的な姿勢により村民の約90%は立ち退き同意書にサインしたが、現在もなお70戸余りがまだサインしていない。今年10月、北海市政府は警察や司法機関等関連部局を集め、「あらゆる代価を惜しまないで」強制土地収用を敢行すると決議した。
当初は合法的な手段での解決を図っていた村民たちも、「命を賭けて家を守る」と誓い、ガソリンと手製のパチンコで武装を始めた。あるいはガソリンは武器ではなく、焼身自殺用に準備された可能性もある。日本ではほとんど報道されていないが、今年9月、中国中の注目を集めた強制土地収用事件が江西省宜黄県で起きている。県政府の強引な手法に抗議する住民3人が焼身自殺を図り、1人が死亡した。自殺にまで住民を追いやった当局の手法は厳しく批判され、宜黄県共産党委員会書記と県長が罷免される事態に発展した。
断固戦う姿勢を見せた白虎頭村の村民たち。彼らのもう一つの武器がインターネットだった。2008年に村民委員会委員長に就任した許坤氏は、刑事拘留処分を受けるまでの間、ネット掲示板に1000以上のスレッドを立てた。その妻・馮広梅氏はマイクロブログサービス・ツイッターで土地収用に関する情報を流し続け、ネットユーザーに注目してもらうよう呼びかけた。
いくつかその発言を紹介しよう。
「一昨日、店に工商局の役人2人が来ました。営業許可がなければ、店を運営することはできないという通知を持ってくるためです。もともと許可書はあったのですが、2009年の検査を受けさせてもらえず、全ての営業許可証(工商、税務、衛生、消防など)が執行したのです。工商局は、私たちの店はすでに土地収用区画に指定されており、新たな営業許可証の発行はできないと言っています。」(2010年5月18日)
「こんにちは今日は許坤が拘束されて18日目です。現在、彼がどんな状況に置かれているかはわかりません。手紙や服、お金を贈っていますが、受け取ったかどうかもわかりません」(2010年6月1日)
10月に入り、ついに強制取り壊しが始まった後も、馮広梅氏のツイートは続く。「今朝午前5時前後、武装警官、消防隊員、警察など数千人が許坤の家を囲みました。武装警官は2~3メートルおきに1人。また犬も連れて来ています。」(2010年10月8日)
馮広梅氏だけではなく、村を支援する人権派弁護士もツイッターで生々しい状況をリアルタイムで伝えている。「朝7時50分、外にあるエアコンの室外機が壊された。強制取り壊しのスタッフのガスカッターによるもの。」(10月8日)「午前8時、許振奮宅の玄関には大量のガソリンが積み上げられ、いつでも日をつけれるようにしている。8時5分、許振奮の息子の妻によると、武装警官は長い棍棒を持って階下を走り回っている。」(10月8日)
これらのツイートは他のネットユーザーによって転載され、瞬く間に広がっていった。白虎頭村の人々と支援者はたんに他の人々に状況を知ってもらいたかったわけではない。ネット世論を動かし、マスメディアの報道が始まり、一般世論にまで火をつけることができれば、現在進められている強制取り壊しを中止させることができるのではと期待したためだ。(<2>へ続く)