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「中央銀行自らが中国バブルを認めた!」中国ネット民を騒がす43兆元騒動を考える

2010年11月04日

やっぱり中国はバブルやったんや!
中央銀行(中国人民銀行)も認めたで!
43兆元(約521兆円)も通貨の発行超過をしとったんや!
中共が作り出した繁栄は虚構やったんや!



中华人民共和国 人民币元 / ComerZhao


となにやらかしましい中国語圏ツイッター。

私、経済というかお金の話は大好きなのですが、ともかく経済学について体系的な勉強をしたことがないので、この話題を取り上げることをためらっておりました。誰かが解説してくれるのを待っておりました。が、中国ツイ民はわいわい話題にしているのに、日本語でこの話題がさっぱり扱われていない状況がどうにも悔しいっ!

で、蛮勇をふるってエントリーを書くことを決意した次第。ど派手な勘違い記事を書くかもしれませんが、呼び水になってわかっている人が解説してくれたらいいのです。俺の屍を乗り越えていけーっ!

あ、ちと面倒な経済ネタなので、興味ない人はスルー推奨です。

発端となったのは、「中央銀行、43億元を超過発行=インフレを誘発させる」という短い記事。日本語訳を紹介すると、


中央銀行の統計によると、今年9月末時点で、マネーサプライ(M2の統計)は69兆6400億元(約844兆円)に達した。国家統計局が発表した第3四半期時点のGDP26兆8660億元(約326兆円)を元に計算すれば、通貨の超過発行額は42兆7740億元(約521兆円)に達している。

全国人民代表大会財経委員会副主任、中央陸家嘴国際金融研究院院長の呉暁霊氏は、「過去30年間、我々は過剰な量の通貨供給によって経済の急速な発展を推進してきた」と率直に話す。

ある学者は近年の通貨超過発行の最大の要因は、金融危機後のデフレを懸念してのものだったと考えている。

超過発行現象の解決策について、周其仁氏(北京大学教授、中央銀行貨幣政策委員会委員)は、比較的合理的な政策の組み合わせとして、さらに多くのリソースを市場に動員することで、絶え間なく超過発行が続く通貨を消化することだと指摘した。
というもの。この記事を受け、「中国は異常やでー」「白菜の値段が上がったのも、住宅価格高騰が停まらないのも、中央銀行が紙幣印刷機をフル回転させているからないけ!」というネットの声、追いかけ記事があふれまくることに。

やっぱりバブルやったんや!中国は滅亡する(キリッ

と、私も中国ツイ民と一緒に騒いでもよかったのですが……。お馬鹿な私にはこの記事が本当に大変な話なのか、どうにもよくわからなくて。そもそもググっても、「M2マイナスGDP」という話を説明している日本語サイトが全然ないんですよね。

と悩んでいたら、11月4日付財新網に解説が。日本語で解説されても理解できるか怪しい話の上に中国語、しかもテキストじゃなくてビデオということで、理解できたかかなり怪しいのですが、ご紹介。
雑誌・週刊『新世紀』マクロニュース部の朱長征主任の説明。
・GDPはフロー指標。M2はストック指標。両者の間に直接的な関係はない。

・でもね、M2・GDP比(M2の伸び率をGDPの伸び率で割ったもの)はインフレ状況をはかる国際的な比較指標として使われている。

・中国のM2をGDPで割った比率は1993年に100%を突破。2002年に150%。2009年に180%。米国など先進国と比べると高すぎ。現在の米国は60%程度。中国の比率は過去10年間、高水準で推移してきた。

・となれば、資産価格の上昇やインフレにつながるんじゃないかと心配していますわ。
って感じのはず。

Chinanews的理解で今回の43兆元騒動をさらに単純化すると、
・43兆元という数字は一人歩きしているよ。使う物差し間違えているよ。
・でもマネーサプライはやっぱり多すぎだよ。怖いよ。

ってことですかね。中国の経済学者・謝国忠氏も、実体経済以上に通貨発行量が増大し、資産バブルを引き起こしている可能性を指摘しています(過去記事「Kinbricks Now:<日中GDP逆転>中国成功の秘密と未来の不安―謝国忠論文(3)」を参照)。と考えると、騒いでいるポイントが間違っているだけで、まあ普通の話なのかと。

大山鳴動して鼠一匹みたいな結論になってここまで読んでいただいた方はがっかりしているかもしれませんが、ちょっと面白いのはなんで「43兆元騒動」がここまで盛り上がっているのかという背景。結局、今回の騒ぎは「過剰な通貨発行による経済の水ぶくれ、インフレ誘発を中国中央銀行の統計が認めた」という点にあるわけで。

「くそったれ中共が本当の経済繁栄をもたらすはずなんかなかったんだ!景気がいい実感ないし。」
「ぎゃー、また牛乳値上がりしている。それもこれもクソッタレ当局の仕業か!」


と、怒りをぶつけられためのガソリン、ネタとして格好だったために、みなが飛びついたというのが本当のところでは。当局への不信感、日常生活でためた不満が改めて表面化した騒動と言えるのではないでしょうか。

*蛇足
日銀のマネーストック速報(PDF注意)によれば、2010年9月時点の日本のM2は779兆円。中国の69兆6400億元(約844兆円)よりはちょっと少ない程度。現時点では日中のGDPはほぼ同じぐらいのはずなので、43兆元騒動の数字で「中国は終わりや!」とか言うと、ブーメランのように帰ってきて、「日本も終わってますなー」ということになるんですよね。合っているのかな?教えて、エロい人!

*追記
ブログ「梶ピエールの備忘録」の梶ピエールさんから早速のコメントをいただきました!ありがとうございます。
3. Posted by 梶ピエール   2010年11月05日 01:00

結論から言うと財新網の解説が正しいと思います。M2マイナスGDPという数字に経済学的な意味は まったくありません。貨幣数量説によればMV=PQ(Mはマネーサプライ、Pは物価水準、Qは取引量、Vは貨幣の流通速度)となり、VとQが一定ならばM の増加はインフレをもたらしますが、Qが増えていたり流通速度が低下している場合は必ずしもそうではありません。

財新網で出てくるM2とGDPの比率はマーシャルのkとも言い貨幣の流通速度の逆数ですので、これは意味のある数字です。Vの低下は、一般に取引が銀行 預金を通じて行われるなど「貨幣深化」を通じて生じますが、資産バブルなどが生じ、貨幣の発行増が物価水準の上昇に反映されにくくなることも要因のひとつ です。ですので、あまりに過大なM2/GDP比率はバブルを懸念してよい状況だ、というのはその通りかと思います。

4. Posted by 梶ピエール   2010年11月05日 01:03
なお、M2の過半は銀行預金なので、特に金融危機後これが増えているのは、政府の景気刺激策に呼応した地方政府が「融資プラットフォーム」などを利用することを通じ、銀行貸し出しの拡大に歯止めがかからなくなったからです。ですので、「中央銀行が紙幣印 刷機をフル回転させている」こととは直接の関係はありません。

5. Posted by 梶ピエール   2010年11月05日 01:15
上のコメント。「直接の関係はありません」というのは言いすぎでした。ただ、重要なのは銀行貸し出しが増えることなので、「紙幣印刷機をフル回転させているからマネーが増える」というのはイメージとしてややミスリーディングだと思います。
「マネーサプライとは金融機関と中央政府を除いた経済主体(一般法人、個人、地方公共団体等)が保有する通貨の合計」(ウィキペディア)。なので銀行融資が増えればマネーサプライは増加するのであり、現在の中国はそれが主要因。ゆえに中央銀行を責めるのはおかど違いという話をいただきました(多分)。

なお地方政府の「融資プラットフォーム」を通じた資金調達・投資の構造については、梶さんの記事『「壁と卵」の現代中国論 第4回 中国とEUはどこが違うのか?――不動産バブルの政治経済学」に詳しいので、興味ある方はぜひご一読を。

(Chinanews) Twitterアカウントはこちら
*記事についての情報や間違いなど教えて頂けると大変助かります!コメント欄か、メール(kinbricksnow●gmail.com、●を@に変えてください)でお願いします。


<過去記事>
Kinbricks Now:<日中GDP逆転>中国成功の秘密と未来の不安―謝国忠論文(1)

Kinbricks Now:2011年中国不動産バブル崩壊=著名エコノミスト・謝国忠氏の予言

Kinbricks Now:中国経済は間もなく崩壊する?!間違え続ける中国経済悲観論者はなぜ絶滅しないのか?―米誌

Kinbricks Now:目覚ましい成長遂げた中国の科学技術=国家主導モデルに懸念も―米メディア

Kinbricks Now:世界2位の経済大国中国に支援は不要=英独が対中援助中止・削減へ―米メディア

 コメント一覧 (7)

    • 1. (* ̄・ ̄)ノ ≡旦~~
    • 2010年11月05日 00:25
    • 大都市部の億ションとか一年以上前から焦げ付いてるのに、今更って感じですね・・・
      情報が透明な社会だったら万博前にバブル弾けてるのバレテたと思います。
    • 2. Chinanews
    • 2010年11月05日 00:34
    • >(* ̄・ ̄)ノ ≡旦~~ さん
      コメントどうもです。
      おっしゃるとおり、誰の目から見ても中国経済のバブル模様は明らか。
      ただ、問題はいったいそれをどうやって計るのかという部分にあるのかなー、と。住宅の空き室率も一部では調査したそうですが、公表していませんし。GDP統計も水増しあるし。下手すると、中国政府のえらい人すら把握しきれていないのではという状況なので、「43兆元」というわかりやすい数値が一人歩きしたのかも、です。
    • 3. 梶ピエール
    • 2010年11月05日 01:00
    • 結論から言うと財新網の解説が正しいと思います。M2マイナスGDPという数字に経済学的な意味はまったくありません。貨幣数量説によればMV=PQ(Mはマネーサプライ、Pは物価水準、Qは取引量、Vは貨幣の流通速度)となり、VとQが一定ならばMの増加はインフレをもたらしますが、Qが増えていたり流通速度が低下している場合は必ずしもそうではありません。
       財新網で出てくるM2とGDPの比率はマーシャルのkとも言い貨幣の流通速度の逆数ですので、これは意味のある数字です。Vの低下は、一般に取引が銀行預金を通じて行われるなど「貨幣深化」を通じて生じますが、資産バブルなどが生じ、貨幣の発行増が物価水準の上昇に反映されにくくなることも要因のひとつです。ですので、あまりに過大なM2/GDP比率はバブルを懸念してよい状況だ、というのはその通りかと思います。
    • 4. 梶ピエール
    • 2010年11月05日 01:03
    • なお、M2の過半は銀行預金なので、特に金融危機後これが増えているのは、政府の景気刺激策に呼応した地方政府が「融資プラットフォーム」などを利用することを通じ、銀行貸し出しの拡大に歯止めがかからなくなったからです。ですので、「中央銀行が紙幣印刷機をフル回転させている」こととは直接の関係はありません。
    • 5. 梶ピエール
    • 2010年11月05日 01:15
    • 上のコメント。「直接の関係はありません」というのは言いすぎでした。ただ、重要なのは銀行貸し出しが増えることなので、「紙幣印刷機をフル回転させているからマネーが増える」というのはイメージとしてややミスリーディングだと思います。
    • 6. Chinanews
    • 2010年11月05日 01:53
    • >梶ピエールさん
      丁寧なコメントありがとうございます。そんなに的を外していなかったようで、ほっとしましたw また銀行融資の増大が主要因であり、M2の拡大は地方政府の融資プラットフォームの問題として見るべきというご指摘、大変勉強になりました。
      コメント、記事に追記という形で掲載させてください。ありがとうございました。
    • 7. ブログ 経済参謀 シャーロック
    • 2011年11月27日 03:19
    • インフレ = 供給 < 需要。 デフレ = 供給 > 需要。 地方政府らが、 銀行らの拵えた、 不動産開発の為の会社らを通して、 中央政府の規制した枠組みを超えた金額での融資を、 銀行らから得て、 不動産をばかすか造り続けて来たために、 フローである、 GDP は増大したが、 それは、 『転売利益の獲得』を主目的とする、 取り引き主体らの大発生を伴う、不動産バブルを引き起こし、 今は、バブル崩壊の過程に入っており、 それがもたらす、デフレ・スパイラルへの促進圧力を解消する意味でも、 中央政府が、 公共投資をばかすかやって、 中国国内での所得水準を引き上げると共に、 所得水準の上がり下がりに応じて上下する、消費の可能的な幅を拡大してゆく事 ; 内需拡大 により、 海外への輸出の減少 と 不動産バブルの崩壊進行とから生ずる、 失業者らを 公共事業ら と それらに関連して 賑わい得る 事業らの 仕事らの枠 へ 吸収して、 体制と体制上の利権とを保持していこう、としているのが、 今現在の中共である、と思われますが、 いざとなれば、 中共には、貧困層を始末する事で、 貧困問題を解消する、という、民主国家ではあり得ない、 歴代王朝の棄民思想に則った、奥の手があるので、 国としては、 経済力を増大させてゆくでしょう。

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