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76歳の農民、当局執行者に平手打ちされる=息子の薬代のためにさつまいもを売っていた(2010年11月10日大河網)
張全会さん(76歳)とその妻・陳桂香さん(76歳)。河南省鄭州市中牟県に住む農民である2人は、収穫したサツマイモとニンジンをロバが引く車に乗せて、鄭州市市内までやってきた。移動にかかる時間はなんと8時間。8日早朝に出発し、深夜にようやく到着したという。その夜は道ばたで眠り、9日早朝に市場にやってきた。
ところが市場入り口まで来た時、事件が起きた。突然、一台の城管(都市管理局、詳しくはこちらで)の車があらわれ、車から降りた40歳前後の城管局員が張さんのサツマイモを地べたに捨て始めたという。止めようとする張さんの顔を、局員は平手打ち。周囲の人々から「城管の車をぶち壊せ」などと怒りの声が上がると、車に乗って逃げ出していった。
張さんの話によると、前回、野菜を売りに来た時にもこの局員と会ったという。ロバが引く車を炉端に止めて、市場入り口で食事をとっていたところ、この場を立ち去れと言ってきたのがこの局員。張さんと口げんかになったことが今回の事件のきっかけではないかと話している。
今回運んできた野菜はサツマイモ、ニンジン、ジャガイモなど400キロあまり。売値は全部で500~600元(約6000~7200円)になる。76歳という高齢ながらもはるばる8時間もかけて、野菜を売りに来るのは息子の薬代を稼ぐため。自宅には2年前に転んでから動けなくなってしまった息子がいると張さんは話した。
事件後、張さんは問題の局員を捜し回った。だが、それは仕返しをするためではないという。「あの城管局員に恨みがあるわけではないんです。ただ、うちの家の事情を話して、理解してもらいたい。どこの家にだって苦しい事情はあるでしょう。私たちは鄭州市に来て、少しでもいい値段で野菜を売りたいだけ。動けなくなった息子の苦しみを減らしたいだけなんです。うちの畑にはまだ大根があります。また売りに来ますから」と話した。
記事だと、城管局員が何を取り締まろうとしたのかわかりづらいですが、推測するにロバが問題だったのではないか、と。中国ではちょっと田舎にいくと、まだ多くの馬車やロバをみかけることができますが、市中心部への立ち入りは禁止されています。
老人の年金問題、医療保険の未整備、農村と都市の格差、城管の暴力的法執行……。たんに老人が殴られただけではなく、中国の社会問題を凝縮させたような事件に、新浪微博ユーザーも強く反応したのでしょう。
なお14日付京華時報が続報を掲載しています。張さんを殴った城管の張国選は行政拘留10日、500元(約6000円)の罰金に。管理職である鄭州市金水区城市管理執法局の顧吉安分管副局長及び未来路街道弁事処共産党工作委員会の任景剛委員は停職処分を受けました。
なお張国選は正規の城管局員ではなく、鄭州市衆邦不動産サービス有限公司に雇われている非正規職員だったとのこと。常套句である「非正規職員への教育がしっかりしてなかった」で報じているメディアもありますね。当局の汚れ仕事を引き受ける城管。その委託を受けた企業。その企業に雇われた非正規職員。と、下に下に汚れ仕事を押しつけていく構図……。暴力を振るった張国選が悪いことは間違いないのですが、彼の立場にも中国の厳しい現実が透けて見えます。
*写真は大河網の報道。
ネットの時代になり、さすがの中国でも役人の無法がまかり通らなくなりつつあるのでしょう。
年寄りが大切にされる国になれば良いですね。