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「大卒はエリートなのか?」蟻族、教育大衆化の帰結―金ブリ浪人のススメ

2010年11月19日

今回は、ブログ「大陸浪人のススメ」と「Kinbricks Now」のコラボ企画第一弾をお送りします。企画名はまだ未定(笑)。安田さんの提案を受け、「金ブリ浪人のススメ」にしてみます。一つのネタについて、迷路人(安田峰俊)さんとChinanewsが別々に解説してみようという趣旨です。迷路人さんと比較されるのは気が重いのですが、ご笑覧ください。

さて、第一弾のテーマは「蟻族」(ウィキペディア)。「2000年代後半以降急増している、大卒でありながら良い給料の職に就けない若年者層」の話です。


四川路 / fotoworm_sh


日本のワーキングプアの引き合いに出されることが多いが、果たして本当にそうなのか?というのが迷路人さんの問いかけ。中国ポータルサイト最大手・百度のネット掲示板「蟻族」板の書き込みを補助線に、私も考えて見たいと思います。

*以下、引用部分はブログ「大陸浪人のススメ」の許可を得て転載したものです。

【蟻族ども!おまえらは永遠にバカにされる対象だ!】
原題「蟻族 永遠被蔑視的一個人群!」 蟻族板
http://tieba.baidu.com/f?kz=723397123

1 名前:名無し人民@蟻とコミュニズム 2010-3-4 11:38
例のイケメンホームレスだって物乞いをやらずに暮らせるってのに、おまえらは陰でこっそり(現状を)嘆くだけで何もしようとしない!俺の弟は中卒だが、広東省で肉体労働して月収4000元(約4万8000円)。家族を養って、自分で稼いだカネで3階建ての家まで建てた。いっぽうでお前らはどうなんだ?他人に憐れみを乞い、自分で自分の傷を舐めていやがる。お前の家族がお前を学校に行かせたのは、理想だけ高くて能力が伴わない廃棄物を抱えるためだったってのかい?おまえら蟻族にはこんなにたくさん男がいるくせに。ちゃんと立ちションくらいはできるんだろうな?ほれほれ、引き続き自分の傷を舐めてろよ、クソ野郎ども!お前らは永遠にバカにされる対象なんだよ!

※中国の月収…「平均」額が2000元(約2万5千円)と言われがちだが、いかんせんジニ係数0.48の国。実際はこの月収なら「まだまだ貧乏」という感じである。蟻族の月収は、職があるにも関わらず1000~2000元程度とされる。


2 名前:名無し人民@蟻とコミュニズム
>>1バカはお前だよ……。首括って死ねと言いたい。蟻族はリベンジを考えていないってわけじゃない。理想をもっていないわけでもない。ただ、抑圧を受けているグループなんだ。人生の過渡期に(そういうことになっているけれど)、やがては抜け出していく人々なんだよ。>>1にはそんなふうに彼らを語る資格はない。クソはお前だ。

4 名前:名無し人民@蟻とコミュニズム
>>1が言っているのは社会の大部分の人間の本音だよ。本当に心ある人間は、自分のことを蟻族だなんて考えたりはしない。(そう考えることは)自分の無能を証明しているだけで、タナボタなんてありえないのないのさ。

7 名前:名無し人民@蟻とコミュニズム
「蟻族」の出現は、1990年代末の教育の商業化と大学の拡張に起源がある。それがしだいに社会問題へと広がっていったのだ。人々が高等教育に投資する際、(対象の人材に)期待される未来の収入は、彼が卒業後に労働市場に入って「再度の定価がつけられた」実際所得額よりも高い。社会的に向上する機会が少ない、各種の「蟻族」たちはどんどん増え、不満を(社会に)広げていき、どんな社会衝突にもありがちな「ナンセンスな参加者」となる。「蟻族」が意味するのは、これが教育の商業化が直接生み出した不健康な因子だということだ。大学生の就職問題は、高等教育機関の業務上、非常に重要な問題だ。だが、「蟻族」問題は、大学卒業後の状態に警鐘を鳴らすものだ。高等教育機関や教育関係の部局は、就職問題について(就職率という)数字だけ見るのではなく、数字のウラにある、卒業生たちの本当の生活状況や、彼らが教育体制の改良を願って無力ながらもあがいている様子もしっかりと見る必要がある。

8 名前:名無し人民@蟻とコミュニズム
本当に尊厳を持つ人間は蟻族になんかならない。
精神面での萎縮が能力を失わせ、人格上の喪失は自身を物乞いへと変えてしまう!

10 名前:名無し人民@蟻とコミュニズム(河南省鄭州 21歳♀)
どんな事情にせよ、努力するしかないよね。実際のところ、蟻族はこのスレで言われるほどには耐えられない生活をしているわけじゃない。問題を見るときは一面的な視点でだけ見ない方がいいと思うの。

11 名前:名無し人民@蟻とコミュニズム
俺は農村から出てきて肉体労働をしている。学歴は高くない。出稼ぎに出た当初に考えていたのは、とにかくお金を稼いで弟を学校に通わせて、両親の負担を減らそうということだった。すごくがんばった。それでお金を得たんだ。それに随って欲も深くなってきたなあ。でもな、俺はわかるんだけど、ゆっくり一歩一歩前進することが大事だと思うんだ。

12 名前:名無し人民@蟻とコミュニズム(四川省成都 30歳♀)
>>1の弟はいわゆる「鳳凰男」ってやつか?でも鳳凰男は、一般に高等教育を受けた人だよね。>>1の弟は中卒となると、(鳳凰ならぬ)「オンドリ男」くらいだろか。

※鳳凰男…農村部などの貧しい家庭から、都市でホワイトカラーになることに成功した男性。結婚などの際に、都市部の女性から差別を受ける場合がある。

13 名前:名無し人民@蟻とコミュニズム(遼寧省瀋陽♂)
蟻族なんて人生の旅の途中での(一時的な)役割に過ぎないよ。まだ白い羽毛が生えていない白鳥さ。時期が悪いだけだ。俺たちが努力していないってわけじゃない。で、>>1の人生は順調なのかよ?オマエはどれだけ偉いんだい?お前がスゴい奴なら、なんで仕事上の地位を通じて社会に貢献しないんだ?やれやれ。苦労知らずで脳ミソの足りない野郎だぜ。

19 名前:名無し人民@蟻とコミュニズム(河北省石家荘 22歳♂)
>>1とほかの蟻族をバカにしてる奴ら、ちょっと黙れよ。
蟻族はゴミなんかじゃない。ただ、一時的に失意の状態にある人たちだ。社会はそう多くのエリートを容れられるもんじゃないだろ?あらゆる人間に高収入を保たせるわけにだっていかないだろ?言わなくてもわかるよな?現在は、もともと労働力が過剰なわけだし、資本家以上にエゲつない、エリート死刑執行人みたいな連中が虎の威を借りてのさばっている。
蟻族はそうして生まれたんだ。だから蟻族は自分に対してだけ不満を抱くことになる。
(略)

27 名前:名無し人民@蟻とコミュニズム(広東省 33歳♂)
蟻族は中国の教育部門の詐欺に遭った情弱集団さ。

28 名前:名無し人民@蟻とコミュニズム(24歳♂)
現在の俺たちには何もないけどさ。でも、これは永遠に何も持てないって意味じゃない。

32 名前:名無し人民@蟻とコミュニズム
>>1めっちゃムカつくんだが。蟻族は何もできない、国家と家族に必ず面倒をかけるだなんて!これはお前らがそう考えたい考え方、と言うだけだ。俺たちには俺たち自身の仕事がある。お前のご心配には及ばんよ、脳ミソが働く人間なら自分を生かすくらいはできるさ。俺たちは現在カネがないとはいえだな、脳ミソはあるんだ。俺たちは頭を使ってメシを食う。俺たちは他人に憐れんでもらおうとは思わない。>>1よ。いつかお前に収入が無くなって貯金を食いつぶすようになったら、俺たち「蟻族」が助けてやるよ。

36 名前:名無し人民@蟻とコミュニズム
世間のある者は、私を謗り、欺き、辱め、笑い、軽んじ、見下し、騙すかもしれぬ。ならば、かの者に耐えよ、譲れ、勝手にさせよ、避けよ、耐えよ、敬え。そして相手にするな。数年を待ち、ふたたびかの者を見よ。

※禅僧の寒山と拾得の問答からの引用らしい。ちなみに上記二行が寒山、下記四行が拾得のセリフである。
冒頭に引用したウィキペディアの定義をもう一度引用しよう。

「2000年代後半以降急増している、大卒でありながら良い給料の職に就けない若年者層」

いやいやいや、大卒でもいい仕事につけない奴なんてごまんといるぜ。スレ主は正しいと思う人がいるかもしれない。確かにその通り。大卒=いい仕事、っていうのはある意味、幻想でしかない。ただ、なぜ「蟻族」の出現が中国ではこれほど衝撃的な存在として受け止められたのかを理解するには、中国にどんな幻想があったのかを知る必要があるんじゃないか、と。

その意味で、27の「蟻族は中国の教育部門の詐欺に遭った情弱集団さ」という書き込みは象徴的なもの。かつて中国では大学入学は途方もなく狭い門であり、大卒資格は社会上昇を実現する確かな道だった。その社会エリートとしての大学生の地位が変化し始めたのは20世紀末、江沢民時代のこと。大学定員が一気に拡充され、高等教育は大衆化へと舵を切った。
21世紀を目前に控えた1999年、前年度108万3600人だった募集定員が159万7000人に引き上げられた。2002年度になるとさらにその倍近い320万5000人に増員され、2006年度には546万1000人にふくれ上がった。1999年度対比では実に5倍強である。上記したように、2008年度は前年度より5%増えたから、大学への新入生600万人時代が到来した。
リベラル21 中国で大学入試、最多の受験者数記録
わずか10年で大学定員は約6倍に急増。これでは大卒の価値が暴落するのは無理もない。しかし、「大学に入ればいい人生が約束される」という社会の幻想はまだ現実に追いついていない。それゆえに「蟻族」の出現に驚くのだろう。

中国語ニュースをあさっていると、定期的にでくわすのが「大卒がこんな職業に!」というニュース。屋台のチャーハン屋、肉屋、焼き芋屋など職業は違えど、いつもおなじことに驚いている。実際、かなり大都市の名門大学を出ても、文学など不人気の専攻だったりすると初任給2000元(約2万4000円)以下のケースも少なくない。そうなると、うまいこと屋台を成功させた人間のほうがもうかるというケースも出てくる。

また、大学を出てもかつかつで暮らしている自分を尻目に、高卒でもコネで国有企業や銀行に入社。どっさりボーナスをもらって暮らしている人間を見て、「死ぬ気でがんばった俺の受験勉強はなんだったんだ……」と挫折感を感じるケースも少なくないようだ。

一方、日本のワーキングプアの衝撃もやはり「幻想の崩壊」に根ざしているように思う。大学を出て会社に入れば、年功序列、終身雇用で誰もがそこそこの人生は送れる。実際にはそうしたラインとは無縁の人間がごまんといたにもかかわらず、なぜかはびこった「一億総中流」幻想の瓦解こそが衝撃ではないか。

蟻族とワーキングプア。この新たに出現した社会集団に対する人々の驚き。そこからは日中両国の社会の変化とそれによるきしみが透けて見える。


*引用部分はブログ「大陸浪人のススメ」の許可を得て転載したものです。

(執筆者:迷路人&Chinanews) Twitter:迷路人Chinanews
*記事についての情報や間違いなど教えて頂けると大変助かります!コメント欄か、メール(kinbricksnow●gmail.com、●を@に変えてください)でお願いします。


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 コメント一覧 (4)

    • 1. 明天会更美好
    • 2010年11月20日 08:45
    • 5 蟻族はわたしも、以前ブログで紹介してみました。
      http://zhongwenfanyi.blog69.fc2.com/blog-entry-110.html

      国もかなり気にしているみたいで、今年の全人代では新卒浪人の問題が取り上げられたみたいですね。でも・・

      まだまだ根本的な解決までは行ってないみたいです。

      日本も昔は大学にいける人はほんの一握りで、「猫も杓子も」大学生という状況は最近になってからです。

      中国も日本に近づきつつあるということでしょうか。
    • 2. Chinanews
    • 2010年11月20日 16:15
    • >明天会更美好さん
      コメントどうもです。
      ブログ、拝見しました。高等教育を修了した人間の過剰と非熟練労働者の不足というミスマッチは、たぶん世界的な現象ですよね。急速に改革、キャッチアップを進める中国は、この面でも他国以上のペースで問題が深刻化しているのかもしれないですね。
    • 3. しちやん
    • 2010年12月06日 20:20
    • 4 >大学を出て会社に入れば、年功序列、終身雇用で誰もがそこそこの人生は送れる。実際にはそうしたラインとは無縁の人間がごまんといたにもかかわらず、なぜかはびこった「一億総中流」幻想の瓦解こそが衝撃ではないか。

      おっしゃるとおりだと思います。
      中国の学生も就職活動を控えた現在の自分とさして変わらないのでしょうね。

      もうすぐ一年間の北京留学が終わりますが、来たばかりのころは王府井や三里屯でショッピングに熱中する人民に些か羨望して本質がまったく見えてませんでした。

      どうでもいいですがこの蟻族という言葉、現在私が留学中の大学の副教授の造語なんですね、驚きました。

      ブログお気に入りに登録さしてもらいます。
    • 4. Chinanews
    • 2010年12月07日 02:45
    • >しちやんさん
      蟻族はなかなかグッドな言霊だと思います。先生、えらい。

      私は2008年に日本に帰国しましたが、中国のむせかえるような熱気の影にはいろんな人々の姿がありますね。明るすぎる光の影が見られるような人になりたいな、と願うばかりです。

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