中国的には凄まじく注目のビッグニュースなのに、日本ではさっぱり報道されないというネタがあります。今回、ご紹介する話もその一つです。
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2010年11月23日、甘粛省図書館補佐館員の王鵬さんは職場で、寧夏回族自治区呉忠市公安局に連れ去られた。わざわざ管轄外の甘粛省まで警察が出張して逮捕したのにはどのような理由があったのか。その背景は3年前にさかのぼる。

兰州大学 / Lanzhou University / livepine王鵬さんは2003年、甘粛省蘭州市の蘭州大学中国語学部に入学した。クラスメートにいたのが馬晶晶。
在学期間中、まったく勉強せずに学科試験に落第することもしばしばの遊び人だった。まじめな王さんとはいさかいが絶えなかったという。2007年6月、同級生の就職先をまとめる仕事を担当した王さんだが、馬の解答を見て仰天した。就職先には共産党青年団銀川市委員会と書かれている。なによりも不思議なのは、寧夏回族自治区の公務員試験は7月10日に申し込みが始まる。
申し込みまで1カ月以上あるその時点で、馬は自分が難関の公務員試験に合格すると知っていた。
馬が受験したのは共産党青年団銀川市委員会学校部科学委員のポスト。わずか1人の枠に400人以上が応募した。普段、勉強などしたことがない馬だが、筆記試験、面接共に第1位の成績で見事に公務員試験に合格している。馬は親のコネを使って合格した、というのが王さんの読みだ。馬の父親は寧夏回族自治区救貧弁公室副主任、母親は呉忠市共産党委員会常務委員、市政治協商会議主席の要職にある。
それから3年、王さんはネット掲示板に告発の書き込みを掲載したほか(
告発書き込みの一つ)、紀律委員会などの監督機関に手紙を送った。しかし馬のコネ就職が罰せられることはなかった。さらに王さんは馬の両親が汚職しているとの告発まで行っている。呉忠市警察は筆跡、指紋から匿名の告発状は王さんの手によるものであると特定していた。
23日、呉忠市の警察は自治区外の甘粛省まで出張。王さんの身柄を拘束した。30日、消息筋は拘束の要因は馬の両親に対する誹謗であると明かした。2人の戸籍が呉忠市にあるため、自治体の枠を超えて呉忠市警察が動いたのだという。
親のコネで就職したどら息子。警察を使って罪を告発した同級生を拘束できる権力。「中国の汚職官僚はやっぱりひどい」と
中国のネット世論は沸騰。その力が一気に事態を変えた。12月2日午前0時、呉忠市は、王鵬刑事勾留事件は誤りであったと発表。担当者の呉忠市利通局公安分局局長・何沢祥、利通区公安分局党委副書記、政治委員の汪紅東が罷免されたという。
*以下の記事を参照した。
挙報同学考公務員舞弊 青年遭遇“誹謗罪”拘捕_財新網馬晶晶父母被挙報“経済問題” 青年被“跨省追捕”另有主因_財新網寧夏“跨省追捕案”糾錯 呉忠公安副局長被免職_財新網―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・
裁判や告発といった正規の解決手段は、結局のところ共産党と行政が握っているわけで。こうした事態を変えられるのは人々の「義憤」「公憤」だけということになろうかと。今回は特に公務員試験の不正合格という人々の琴線に触れる話題だったのが大きいのではないでしょうか。
「食いっぱぐれない」「給料はともかく、経費で飲み食いしたり、旅行したり、欲しいモノを買ったりいろいろ使えるのが魅力」「付け届けをもらったり、低所得者向け住宅の購入権をこっそりもらえる」などの魅力あふれる職業、それが中国の公務員。というわけで、公務員試験は山のような受験者が殺到する難関となっています。で、社会にいろいろな不公正があふれるなか、せめて大学受験、公務員試験ぐらいは公正さを担保しろよな、と思っている人は多いわけで。その気持ちをいとも簡単に踏みにじった馬一家に怒りが爆発したというところでしょうか。
さてさて、今回のような事件があると、「中国の熱い世論、「義憤」「公憤」はすごいぜ。世論で中国は変わっていくのでは」と思う人が結構増えるのですが、私は否定的な見方。そのあたりは過去記事「中国社会のニューパワー「ネット世論」は中国を変えるのか?正反対の意見をご紹介」で書きました。
で、新快報の記事「機を見るに敏な官僚=王鵬誹謗事件は楽観できない」がこの問題できわめて示唆的だったので、ちょろっとご紹介。
王さんを拘束した公安分局トップが罷免されるなど、事件はよい方向に向かっているかのように見える。しかし、最終的に事件がどのような結末を迎えるのか、いまだ楽観視できない。
王さんの拘束については公安分局内部でも反対意見があったという。世論の批判を招くことは理解していたはずだ。たんにこれほど多くの反響を呼ぶとは理解していなかっただけ。当初は拘束を正当化していた市政府も、事態が拡大し上級市・省が動く可能性が高まるなか、方針を転換したのであった。つまり、呉忠市は「間違いを認めた」のではなく、「(世論の先を読む)賭けに負けたことを認めた」だけである。
呉忠市を正しい方向に導き続けるためには世論の圧力が必要だ。しかし、これほどの注目が長期間続くとは考えがたい。世論の注目が薄れた時に、呉忠市がどのような行動をとるのか。こうした懸念はこれまでの無数の事件で証明されている。
王鵬誹謗事件がどのような結末を迎えるのか、いまだ楽観はできない。事件への注目と喧噪が去った後、人々には恐怖以外のなにもも残されないであろう。
新快報(12月3日)を抄訳。
(執筆者:Chinanews)
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単に声の大きさに折れただけで、中国が掲げる「依法」とは程遠いかと。中国唯一にして最大の圧力団体「ネット世論」にはぜひ頑張ってもらいたいものです。