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勉強ゼロで難関公務員試験に合格した官僚のバカ息子=警察が告発者逮捕で世論動かす大事件に―中国・甘粛省

2010年12月04日

中国的には凄まじく注目のビッグニュースなのに、日本ではさっぱり報道されないというネタがあります。今回、ご紹介する話もその一つです。

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2010年11月23日、甘粛省図書館補佐館員の王鵬さんは職場で、寧夏回族自治区呉忠市公安局に連れ去られた。わざわざ管轄外の甘粛省まで警察が出張して逮捕したのにはどのような理由があったのか。その背景は3年前にさかのぼる。


兰州大学 / Lanzhou University / livepine


王鵬さんは2003年、甘粛省蘭州市の蘭州大学中国語学部に入学した。クラスメートにいたのが馬晶晶。在学期間中、まったく勉強せずに学科試験に落第することもしばしばの遊び人だった。まじめな王さんとはいさかいが絶えなかったという。2007年6月、同級生の就職先をまとめる仕事を担当した王さんだが、馬の解答を見て仰天した。就職先には共産党青年団銀川市委員会と書かれている。なによりも不思議なのは、寧夏回族自治区の公務員試験は7月10日に申し込みが始まる。申し込みまで1カ月以上あるその時点で、馬は自分が難関の公務員試験に合格すると知っていた

馬が受験したのは共産党青年団銀川市委員会学校部科学委員のポスト。わずか1人の枠に400人以上が応募した。普段、勉強などしたことがない馬だが、筆記試験、面接共に第1位の成績で見事に公務員試験に合格している。馬は親のコネを使って合格した、というのが王さんの読みだ。馬の父親は寧夏回族自治区救貧弁公室副主任、母親は呉忠市共産党委員会常務委員、市政治協商会議主席の要職にある。

それから3年、王さんはネット掲示板に告発の書き込みを掲載したほか(告発書き込みの一つ)、紀律委員会などの監督機関に手紙を送った。しかし馬のコネ就職が罰せられることはなかった。さらに王さんは馬の両親が汚職しているとの告発まで行っている。呉忠市警察は筆跡、指紋から匿名の告発状は王さんの手によるものであると特定していた。

23日、呉忠市の警察は自治区外の甘粛省まで出張。王さんの身柄を拘束した。30日、消息筋は拘束の要因は馬の両親に対する誹謗であると明かした。2人の戸籍が呉忠市にあるため、自治体の枠を超えて呉忠市警察が動いたのだという。

親のコネで就職したどら息子。警察を使って罪を告発した同級生を拘束できる権力。
「中国の汚職官僚はやっぱりひどい」と中国のネット世論は沸騰。その力が一気に事態を変えた。

12月2日午前0時、呉忠市は、王鵬刑事勾留事件は誤りであったと発表。担当者の呉忠市利通局公安分局局長・何沢祥、利通区公安分局党委副書記、政治委員の汪紅東が罷免されたという。

*以下の記事を参照した。
挙報同学考公務員舞弊 青年遭遇“誹謗罪”拘捕_財新網
馬晶晶父母被挙報“経済問題” 青年被“跨省追捕”另有主因_財新網
寧夏“跨省追捕案”糾錯 呉忠公安副局長被免職_財新網

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裁判や告発といった正規の解決手段は、結局のところ共産党と行政が握っているわけで。こうした事態を変えられるのは人々の「義憤」「公憤」だけということになろうかと。今回は特に公務員試験の不正合格という人々の琴線に触れる話題だったのが大きいのではないでしょうか。

「食いっぱぐれない」「給料はともかく、経費で飲み食いしたり、旅行したり、欲しいモノを買ったりいろいろ使えるのが魅力」「付け届けをもらったり、低所得者向け住宅の購入権をこっそりもらえる」などの魅力あふれる職業、それが中国の公務員。というわけで、公務員試験は山のような受験者が殺到する難関となっています。で、社会にいろいろな不公正があふれるなか、せめて大学受験、公務員試験ぐらいは公正さを担保しろよな、と思っている人は多いわけで。その気持ちをいとも簡単に踏みにじった馬一家に怒りが爆発したというところでしょうか。

さてさて、今回のような事件があると、「中国の熱い世論、「義憤」「公憤」はすごいぜ。世論で中国は変わっていくのでは」と思う人が結構増えるのですが、私は否定的な見方。そのあたりは過去記事「中国社会のニューパワー「ネット世論」は中国を変えるのか?正反対の意見をご紹介」で書きました。

で、新快報の記事「機を見るに敏な官僚=王鵬誹謗事件は楽観できない」がこの問題できわめて示唆的だったので、ちょろっとご紹介。

王さんを拘束した公安分局トップが罷免されるなど、事件はよい方向に向かっているかのように見える。しかし、最終的に事件がどのような結末を迎えるのか、いまだ楽観視できない。

王さんの拘束については公安分局内部でも反対意見があったという。世論の批判を招くことは理解していたはずだ。たんにこれほど多くの反響を呼ぶとは理解していなかっただけ。当初は拘束を正当化していた市政府も、事態が拡大し上級市・省が動く可能性が高まるなか、方針を転換したのであった。つまり、呉忠市は「間違いを認めた」のではなく、「(世論の先を読む)賭けに負けたことを認めた」だけである。

呉忠市を正しい方向に導き続けるためには世論の圧力が必要だ。しかし、これほどの注目が長期間続くとは考えがたい。世論の注目が薄れた時に、呉忠市がどのような行動をとるのか。こうした懸念はこれまでの無数の事件で証明されている。

王鵬誹謗事件がどのような結末を迎えるのか、いまだ楽観はできない。事件への注目と喧噪が去った後、人々には恐怖以外のなにもも残されないであろう。

新快報(12月3日)を抄訳。

(執筆者:Chinanews) Twitterアカウントはこちら
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<過去記事>
Kinbricks Now:高まる反日世論に後押しされ、中国政府はさらに強硬な態度に―中国

Kinbricks Now:ネットを駆使して戦う人々=白虎頭村の土地強制収用反対運動―広西チワン族自治区北海市<1>

Kinbricks Now:【最終回】13億人は日本のことをどう思っているの?「無関心」「あえて言えばキライ」―中国人民は日中対立をどう見ているのか?

Kinbricks Now:むやみな大学定員拡張でダメ学生量産=中国も「大学全入時代」に突入

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トラックバック一覧

  1. 1. 父親が学生宿舎に殴り込み(北京)

    • [政治学に関係するものらしきもの]
    • 2010年12月05日 11:50
    •  12月2日の『新京報』によると、北京電子科学技術職業学院で、生徒の父親が友人と、学生宿舎に殴り込みをかけ、21人の学生と寮の管理人に怪我をおわせるという事件があった ...

 コメント一覧 (9)

    • 1. aquarelliste
    • 2010年12月04日 20:43
    • 5 去年、国営工場が閉鎖されるとの噂で労働者が工場長を監禁し、挙句に撲殺した事件や、共産党員が普通のマッサージのおねいちゃんにサービスを強要して殺された事件がありましたが、後者は無罪判決、前者はどうなったか結末がわかりません。
      単に声の大きさに折れただけで、中国が掲げる「依法」とは程遠いかと。中国唯一にして最大の圧力団体「ネット世論」にはぜひ頑張ってもらいたいものです。
    • 2. yoshibon
    • 2010年12月05日 00:15
    • 中国の民衆は長い歴史の中、皇帝が交代すると法律が変わることや、権力者の好き勝手に法律が作られることを、嫌と言うほど経験してきました。

      結果「法律なんて信用なんねえ。見つからなきゃ何でもやっていいんだ」という考えが蔓延しています。

      おまけに「権力を握ったんだから、今日から俺が法律だあ」
      というおまけも付いています。

      権力の無い正直者が安心して暮らせるようなまともな法治国家になるには、後どれ位の年月が必要なのでしょうか。
    • 3. Chinanews
    • 2010年12月05日 00:26
    • >aquarellisteさん
      コメントどうもです。そういや、前者の事件は続報聞かないですね。ちゃんとは訳しませんでしたが、引用した新快報の記事のネット世論の「疲れ」の話はなかなか興味深かったです。
    • 4. Chinanews
    • 2010年12月05日 00:36
    • >Yoshibonさん
      コメントどうもです。知り合いに日本で法学を学ぶ中国人裁判官がいましたが、問題は法律じゃないですよね。三権分立、というか、司法の独立がなぜ必要なのか、中国を見ているとよくわかります。

      で、具体的にどうなると、それが達成されるかという話になると……。難しいですね……。
    • 5. 阿井
    • 2010年12月05日 04:42
    • はじめまして、いつも興味深く拝見しています。
      ネット世論や網民の力が中国を変えるなんて言葉を耳にするたびに訝しんでいましたが、その答えがわかった気がします。

      世論なんて移ろいやすい物、ましてやネット世論なんか遙かに大勢に流されやすいです。
      中国人や中国に期待する人たちが言うネット世論で国を変えるという言説は、安易な近道にしか思えず根本的な解決方法にはなり得ません。
      結局この事件も来年には忘れられているんだろうというネガティブな意見を払拭するには、熱しやすく冷めやすい網民自身が変わらなければいけないんでしょうかね。
    • 6.
    • 2010年12月05日 12:00
    •  いつも大変興味深く拝見させていただいております。

       実は自分の記事が書き終わった後で、こちらにおじゃまさせていただいたら、同じようなニュースで、本当に最近中国で、こうしたことが注目を集めているのだと、つくづく思いました。

       同時に、このままではネタが被ってしまう可能性も否定できないので、書く前に確認しようと本気で思いました。
    • 7. Chinanews
    • 2010年12月05日 16:56
    • >阿井さん
      はじめまして。コメントどうもです。ブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」も拝見。面白かったです。

      ネット世論についてですが、

      ・やたらと高く持ち上げる論者が気になる
      ・ネット世論の移り気さ。どんな問題にでも盛り上がるわけではないこと。
      ・ネット世論で盛り上がった問題をメディアが報道(←当局の許可、黙認が必要)してはじめて社会的な盛り上がりとなる。
      ・どんなに盛り上がったとしても、当局がどうしても認められない問題については、検閲や暴力を行使して封鎖しうる。

      といったことを考えていたり。個人的には期待していますし、注目していますが、過大評価は禁物だと考えています。

      >凜さん
      ブログ拝見しました。確かにネタがちょっとかぶり気味でしたね(笑)。私も記事書く前にチェックします。

      李剛事件の影響なのか、最近はこうした親の七光り事件に注目が集まっていますね。表に出てこない、事件になっていないものはどれだけの数に上るのかと考えると頭が痛くなったり。


    • 8. 油
    • 2011年01月02日 18:42
    • その都度生け贄の羊をネット世論に捧げる
      事で、本丸までダメージを及ぼさない裏技。
      ガス抜きと考えれば、共産党政権にとって
      それなりにメリットがあるのかもしれません。
      本気で体勢を揺るがしそうになったら、
      大本の回線を遮断するぐらいはするでしょうし。

      こういった一つ一つの事件が起きる毎に情報の
      流れ方を分析して、有事の際に優先的に
      処理する対象を絞っているのではないかとすら
      思います。
      情報の結節点になっている個人が特定できれば、戦車で不特定多数をひき殺すより楽ですし、表沙汰になりにくいでしょうから。
    • 9. Chinanews
    • 2011年01月03日 14:49
    • >油さん
      >本気で体勢を揺るがしそうになったら、
      >大本の回線を遮断するぐらいはする
      そうですよね。

      >情報の結節点になっている個人が特定できれば
      反日デモ、ノーベル平和賞絡みでツイ民が速攻拘束された経緯を見ると、リストぐらい作っていそうですね……。

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