中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2010年12月09日
AP通信などによると、中国の獄中の民主活動家、劉暁波(リウ・シアオポー)氏に対するノーベル平和賞の授賞式が10日に行われるのを前に、北京の大学教授らが中国独自の「孔子平和賞」を創設し、9日に台湾の連戦・元副総統に贈った。連氏側は授賞を関知していないとしており、授賞式では1人の少女が賞を受け取った。「ノーベル賞が気に入らないからって、自分で賞を作りやがった(www」と一部では大変な話題に。
中国、独自に「孔子平和賞」創設 ノーベル平和賞に対抗(朝日新聞、12月9日)
さて、孔子平和賞について簡単に流れをまとめておきますと、
11月15日付環球時報にスイス・チューリヒ州立銀行北京代表処の劉志勤(リウ・ジーチン)主席代表によるコラム「中国は『孔子平和賞』を設立するべきだ」が掲載。たいした内容はなくて、
「どんなに中国人が怒ってもノーベル平和賞選定委員会は受賞者を変えないよね。なら自分たちの賞を作っちゃおうよ!中国も経済力に合わせた発言権が欲しいじゃん。ほら、孔子学院(中国政府が各国の大学などと提携し、中国文化や中国語などの教育及び伝播のために設立した機関:日本語版ウィキペディア)も世界各国にあるし、孔子平和賞なんてどうかしら?」
という程度のもの。本来ならば、「環球時報らしい投げっぱなしコラムだね」で済みそうな話だったのに、「中国の反ノーベル平和賞の動きはますます過激化している」とか「欧米に支配されたノーベル賞なんか最初からイランかったんや!」みたいに言及されることが多く、「そこまで引っ張るネタかな?」と微笑ましく思っておりました。
が、そこでいきなり本気でやる気になった人たちが。12月9日付台湾紙・聯合報によると、孔子平和賞選考委員会が発足したのは今月初頭。委員長は北京師範大学の譚長流氏。他に羊滌生(清華大学教授)、趙振江(北京大学教授)、周桂鈿(北京師範大学教授)、李継興(北京大学研究員)がメンバーだったそうで(ただし譚氏以外の名前はネット掲示板の情報。参考リンク)。
「表向きの名前はこの人たちだけど、その影には中国共産党の強大なプロパガンダ戦があるのでは……」と不安に思う方もいるかもしれません。実際に一部では、孔子平和賞授賞式の招待状は文化部が送り主だったと報じられたようですし。
ですが、ここにもカラクリというか、笑える落とし穴が。12月9日付台湾紙・聯合報によると、招待状の送り主は「中国文化部中国郷土芸術文化保護部」。おお、省庁の一部やんけと思ってしまうところですが、一方で押されたハンコには「文化部」の文字はなかったとのこと。この中国郷土芸術文化保護部は今年設立されたばかりの新たな部局だそうで。とりあえずは1994年に文化部指導の下で発足した中国郷土芸術協会に全業務が任されているとのこと。
ここからは私の推測ですが、先に挙げた6人の大学研究者のうち誰かがこの協会に関係していて、その名前入りレター用紙とか封筒を借りただけなんじゃないか、と。少なくとも各国の取材に文化部は「知らん。なにそれ?」というあっけにとられた反応をしているそうです。
さてさて、こうした慌ただしく発足した孔子平和賞選考委員会は、1週間足らずの間に候補選定を終え、受賞者を決定したことになります。ちなみに候補者は、パレスチナのアッバス議長、南アフリカのマンデラ元大統領、米マイクロソフトのビル・ゲイツ氏、パンチェン・ラマ(ギェンツェン・ノルブ)、譙達摩氏、そして受賞した連戦元台湾副総統の6人。
この中で、「譙達摩って誰やねん?」というのがひっかかるところ。メディアは「中国の詩人」って報道しているけど……。と思ってググってみると、「譙達摩:中国郷土芸術文化保護部副部長」という肩書きが。うーむ。自分たちの上司というか、直接関係する官僚まで平和賞候補に入れちゃったの???
どたばた感がすさまじいので、学者たちの暴走という可能性が大きいように思いますが、中国政府がかんでいるとしてもせいぜい「中国郷土芸術文化保護部」まで。その上の「中国文化部」はさっぱり知らなかったという可能性が大きいんじゃないか、と。
そして、9日の受賞式。もちろん連戦氏がこれるはずもなく、よくわからん女の子を代理人にして賞を渡したのだとか。たんなる学芸会レベルのばか騒ぎだったわけですが、中国ネタに飢えている各国メディアが殺到。面白ニュースとして、ロイター、AP通信、CNNなどがばんばん世界に配信。孔子平和賞という怪挙は瞬く間に世界の民が知ることに。このニュースに一番びっくりしたのは、当の中国ではないでしょうか。
民間機関が孔子平和賞を設立、連戦氏に授与との報道=中台はともに否定(環球時報)
なんていう記事も上がっているぐらいです。
というわけで、正直、どうでもいいネタはずだったのが、「経済大国・中国に詰め込まされた各国記者たちのやる気が爆発」してここまで拡散したって感じでしょうか。「赤っ恥かいた!」と中国政府も怒っていたりして。ま、「ノーベル平和賞は間違っている。世界の多数の国々が批判している!」といけしゃあしゃあと言ってのけた面の皮の厚さがあれば気にならないのかも……。