2010年12月10日、ノルウェー・オスロでノーベル平和賞の授賞式が行われた。受賞者は獄中にある中国の民主化運動家・劉暁波氏。受賞者不在のまま、式典は挙行された。
*写真はBBCの報道。
経済成長を背景に国際的発言力を増す中国。以前にも増して強硬な態度で国際社会の人権改善要求を突っぱねるようになり、また他国も中国の影響力の大きさから衝突を避ける傾向が目立つようになってきた中で、改めて人権問題がクローズアップされる場となった。
EUはアシュトン外務・安全保障政策上級代表が声明を発表。
劉暁波氏に10日、ノーベル平和賞が授与されたことを受け、欧州連合(EU、加盟27カ国)のアシュトン外務・安全保障政策上級代表(外相)は同日、劉氏の即時釈放を求める声明を発表。「中国の政治改革についての見解を平和的に表明したことで長期の懲役刑を言い渡された」と指摘した。
ノーベル賞:劉暁波氏に平和賞授与 EU、釈放求め声明(毎日JP、12月11日)
そして、米国。前年のノーベル平和賞受賞者であるオバマ大統領は、「劉暁波氏は私よりもはるかにこの賞に値する」との声明を発表した。その一部を紹介したい。
人類の権利は普遍的なものです。一つの国、地域、または信仰にのみ属するものではありません。アメリカは異なった国々の独特の文化と伝統を尊重します。我々は数百万人もの人々を貧困から救い出した中国の偉大な達成を尊重しています。同時に人権とは衣食が保証される尊厳であることも理解しています。
しかし、劉暁波氏は私たちに教えてくれました。人間の尊厳は民主の進歩、社会の開放、そして法治によってもたらされるのだ、と。彼が信奉する価値は普遍的なものです。彼の戦いは平和的です。すぐにも釈放されるべきでしょう。
America.gov(英語版)、(中国語版)
「改革開放以来数千万人を貧困から救ってきた中国の偉業をなぜ認めないのか?」というのが、人権問題で批判された場合に中国が言い返す常套句。オバマ大統領の声明は中国の主張に理解を示したうえで、その上で改めて人権改善を訴えたもの。
しかも、「民主、社会の開放(言論の自由)、法治」の3点セットは劉暁波氏をはじめ、中国の民主化推進者が望む内容で、英語版に続いてすぐに中国語版が公開されたこともあり、これを読んだ中国人の胸にはひびく声明だろう。十分に中国事情を理解している人物のアドバイスが反映されているのではと推測できる。
先日の尖閣沖衝突事故で中国の報復外交の矢面に立たされた日本人はよくよく理解するところだが、ある国をターゲットに据えて国の下から上まで動き出した中国はきわめて厄介な存在。今春の台湾向け兵器売却後の米国、2008年にサルコジ大統領がダライ・ラマ14世と会見した後のフランスも同様の報復外交にさらされている。
しかし、国際社会の大多数が同時に声を発するノーベル平和賞の舞台では、さすがの中国も報復することは難しい。となれば、普段はおどおどしている極東の島国も発言する絶好のチャンスであるように思われるだが……。
目を皿にして新聞各紙を読んでみたが、我らが首相の授賞式を受けてのコメントを見つけることはできなかった。この絶好の機会を逃せば、中国国民を失望させるばかりか、中国政府にまで侮られるだけだろう。
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