中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2010年12月20日
今回の課税で影響を受けるのは尿素とリン酸アンモニウム。尿素への課税は2011年6月末まで続くが、その後の重要ローシーズン(10月末まで)の間は課税率が7%に下がり、また11月から110%に上げられると、中国国际金融有限公司の報告書が指摘しています。同報告書はリン酸アンモニウムにおいても今年12-来年3月まで関税額が上がり、その後6-9月までは7%に下がった後に11月から再び上がるとしているとのこと。
商務部関係者によれば、今回の関税措置は、国内、特に春に向けての化学肥料安定確保と、それによる食料品価格の抑制が狙いであるという。今年は自然災害などから来る国内需要減もあり、化学肥料の輸出量も過去最高を記録しそうな勢いであるという。(その一方、11月24日付国際商報によると、 中国の化学肥料輸入は今年度3四半期(1-9月)累計輸入量は520.7万トン、前年同期比49.6%増、9月だけでは59.1万トン。ここ2ヶ月ほど輸入量は多めという情勢でした。)
化学肥料業界は国内市場をもう一度を見直し、競争力を高めていく必要に迫られていると指摘される一方、上述CCMAのYuan氏は国内化学肥料産業は供給キャパが過剰気味で、今回の輸出関税引き上げは国内産業の整理にもつながるのではと指摘しています。(以上、ChinaDailyより)
これらマクロレベルの反応に対して、業界系の中国化工報(化工網)12月3日の記事では、「元々ローシーズンの12月は輸出が頼りなのに、この12月に輸出関税をかけられて、ただでさえ原材料やら電気代やらが上がっているのに、これじゃあ商売上がったりだ!」という中国肥料メーカーの声を紹介しています。恐らく業界を代表するであろうこういったメディアが国家への「嘆き節」を結構長めの報道。またある企業の声として「国は国内肥料の需給を過度に心配し過ぎ。以前は生産量が少なかったけど、今は過剰に生産しているくらい。その状況で輸出制限は理解できない」とも言っております。
業界とも折り合いがついていないようである中の今回の実施、幾つかのシナリオ・要因・可能性がある気がします。
①やっぱり資源確保、中長期的にはリン鉱石も重要な資源、これを確保するためにもリン肥料を中心として化学肥料も輸出抑制、そのためには業界の批判も構わず実施?(これが日本も含めて一般的な観方なのでしょうね、ですのでここでは逆にサラリとのみ)
②本当に実際の需給の関係を政府がつかめておらず、また国が物価高のために何かやっているというパフォーマンスも必要で実施?(さすがにこれは無いか・・・。)
③いずれにせよ過剰キャパの化学肥料業界を整理し、国際競争力ある肥料会社を育成するために、(業界の批判に対してはKYな振りをして)農産品物価高・原料物価高を盾に強行に実施して、国内業界同士での競争を促し淘汰を目指す?(こっちは結構あるかも。)
④実は食糧生産なども言うほど順調で無く、結構受給が拮抗している中、より多くの化学肥料を国内農業に投与して生産量を増やしたいという短期的な措置?(一応環境保全型農業を志向している自分の仕事から言うと、これが本当だったらきついが・・・)
中国人民大学の三農問題の権威、温鉄軍教授らがグリーンピースの委託を受けて書いた「窒素肥料の本当のコスト」という文書では、中国政府が化学肥料業界には多くの補助金を投じていることが触れられていました。それにより非効率な中小生産拠点も残っており、その生産過程自体の非効率がかなり温室効果ガス排出も含めて問題であるとも指摘されていました。このように政府と緊密であろう化学肥料業界と意見が割れるということは、政府の意図もそれなりに感じられるなあという予測で、上記③の要素は結構捨てがたいかと。これはまた、農業部やらと商務部などの部局間の意見も分かれるところでしょうし、深く読むとそういう政府省庁間の駆け引きもあるかもしれません。なかなか想像の域は越えられませんが。
以前のブログでも書きましたが、リンは日本でも「次のレアアースか!?」と報道があったもので、その意味では予兆はあったということでしょう。11月22日のブログでお伝えした国務院通知でも16か条の第4条で触れられていました。その意味では国内的にはあくまで農産品物価高、肥料原料物価高に対抗する措置という文脈での措置であり「いよいよ来たか」という感じはありますが、今回の(ほぼ)禁輸措置が今後どのような影響を中国国内、そして日本などの諸外国に出してくるのか、注目です。
⑤持続的経営よりも、一発当てて中国から逃げ出したい(経営者+中共中間)
⑥持てるカードを動員して世界経済に波を起こしたい(中共上層部?)
まあ、どんな思惑があるにしろ
レアメタルの件で世界の国々が感じた
「中国との取引はリスクが高い」に拍車が掛かることは確かだと思う