中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2010年12月26日
希望者は新会社で働き続けることもできるが(元記事には記載がないが、希望者全員が工場に残ることは出来ない、年金受給額が削減されるなどの不利な条件が盛り込まれていると思われる)、辞める場合には就労期間1年あたり正規職で2536元(約3万1700円)、契約労働者で1536元(約1万9200円)の一時金を支払うことで、新会社との関係は完全に断たれるという。20年働いた正規労働者でも約60万円の一時金しかもらえない。これではとても今後の生活が成り立たないと労働者は反発。経営譲渡が明らかになった今年6月から交渉が続いていたが、妥結しなかった。
12月17日、ついに陝綿九厰の労働者たちは実力行使に及ぶ。工場経営陣を軟禁し、条件を改善するよう迫ったという。19日早朝、警察が介入。数百人の警官が突入したが、軟禁の経営陣全てを救出することはできなかった。逆に警官数人が労働者に拘束されたという。
19日正午、警察は3000人以上の警官を動員。現地では暴力的な衝突事件となった。双方に負傷者が発生したという。さらにその後、従業員とその家族は市街地の道路を占拠。街中の交通がストップした。現場を目撃したある女性労働者は「現地史上最大規模の集団事件」だと話している。(集団事件の原語は「群体事件」。暴動など人が集まった騒ぎ・事件を指す中国独特の言葉。)
翌20日、街には多くのパトカーと警官が配備され、厳戒態勢が続いている。一方、労働者の多くは疲れ果て、出勤もできずに家で休んでいる人が多い。また、事件を伝えようと写真と文章がネットにアップされては削除される、いたちごっごが続いているという。
ある労働者は言う。彼らの月給はわずか700元(約8750円)余り。10年、20年と働いても何の保証もなく放り出されてしまう。「まるで何も食べるなと言われているようなものです。補償金も雀の涙なのに、喜べと言ってくる。威圧されているような気持ちです。」
今後、事態がどのように推移するのか。労働者の権利を守るために当局が介入するのか、わからないとその労働者は言った。彼らを助けるため、社会とメディアはもっと注目して欲しいと話している。
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GDP成長率だけ見れば、日本人にとっては「あこがれの的」である中国ですが、個別の企業は苦しい経営を迫られているケースも多々あります。今回の事件は紡績工場で起きていますが、今年の綿花価格高騰で原料コストがアップ。苦しい状況が続いているようです。
そも紡績や鉄鋼などの業種は明らかに生産過剰。プレイヤー過多が問題です。ライバルが多いだけに出荷価格も上げられないという構造不況が続いているので、設備が古く効率が悪い工場(創設60周年を数える国有企業にはいろいろと問題があるはず。ないほうがおかしい……)を合併、閉鎖、縮小するというのは当然の経営判断、政策判断ではあります。
が、個人の側から見れば、「安い賃金でがんばってきたのに、工場潰して、はいサヨナラかよ」と許し難い気持ちになるのもよく理解できます。しかも、国有企業なのに民間企業よりタチが悪いじゃないかという怒りもあるんじゃないか、と。また国有企業は大量の定年者を抱え、その福利厚生費も膨大なはず。記事には出ていませんが、新会社はそこも切り捨てようとしている可能性はありそうです。
さて、1990年代後半の国有企業統廃合でも多くの失業者が生まれ、市民の不満は蓄積されましたが、その時期と比較すると、現在は「金持ちはごろごろいる」状態であるため、そんな金があるなら俺たちのことをどうにかしろよと思うのも必然ではないか、と。
今後、中国当局はインフレ対策のために景気引き締め路線に突入するわけですが、そうなると経営悪化からこうした問題が続発することは間違いありません。企業の統廃合などを進めつつ民草の暴発を防ぐ。「雇用の手当てや年金の確保などの問題に当局はまじめに取り組んでいますよ!」との人々に信じてもらえるかどうかで、今後、混乱がどれほど広がるかが決まると思われます。
あるいは今回の騒ぎでも警官3000人が動員されましたが、今後同様の事件が多発することを見越して、武装警官を増員するというのも一つの方法でしょうか。雇用対策と暴動対策の一挙両得ということで。
*写真はネット掲示板で公開されたもの。