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紋切り型の中国論にどのように対するべきか?山谷剛史氏の問題提起に応えて

2011年01月09日

今回は誰もが陥りやすいことですが、何か一つの出来事や1人の体験から「中国とはこういう国だ!」と紋切り型に語ることの問題性をちょっと考えて見ようか、と。


浦西 Puxi (上海 Shanghai) / Jakob Montrasio


きっかけとなったのは海外IT事情に詳しいライター・山谷剛史氏のツイッターでの問題提起。この問題提起はすでにブログのエントリーという形でまとめられている。

外国に対する先入観はメディアが作り上げる(中国リアルIT事情、1月4日)
東京都港区をして日本を知ること(中国リアルIT事情、1月7日)

・「作り上げられた、かわいそうな中国人」=山谷氏の問題提起

できれば、山谷氏のエントリーを読んで欲しいのだけれども、自分の話にひきつけて少し引用させてもらう。

外国に対する先入観はメディアが作り上げる(中国リアルIT事情、1月4日)
中国は広い。百万都市がごろごろある。各省の人々は中国全体よりも地元の省や市の身近なニュースに興味がある。普通の人々が喜んでみる報道は地元の報道であり、そこには中央政府に対して以上の報道の自由がある。普段から人々は中国政府に興味はないため、報道に制限があるとは感じていないし、中国の真の姿を知らず哀れとは思っていない。

最初に書いた「大衆は報道を信じていない」にも「大衆は報道の自由を望んでいる」にも、前述の前提から「いや、地方ニュースをそれなりに信じてるし、中央の報道は見ないし興味ないし」ということで実際には、それは「日本や先進国民主主義国の人々が『中国人は報道の自由が無くて苦しいよね、ね?』」と言っているに過ぎない。

いつの間にやら「中国人は報道の自由が無くて苦しんでいる」というのが常識となった。そしてその先入観が前提となり、その上に新たな考察がされている。
(太字強調はChinanews)
・釣りタイトルが横行する中国記事

なるべく人の目をひきつけようと、釣り気味のちょっとどぎついタイトルをつけるというのは、よく行われていること。ただ、中国に関してはとりわけそのハードルが低いというか、ともかくどぎついタイトルがつけられていることが多いのではないだろうか(私にもそうした傾向があることは否定しないです……。記事の中身での釣りは絶対にしないと誓っておりますが)

例えば、1月2日付産経新聞の記事は「【中国版新幹線】「パクリ号」戦略加速、国内建設44兆円投入 海外売り込みも着々」という激しいタイトル。ひょっとすると、紙版とは見出しが違うのかもしれないが、一応、「日本四大全国紙」の看板を背負っていても、ここまで俗なタイトルが許容されるのだなと改めて驚かされた。

ネット報道は、あるいは中国報道は「タブロイド紙的な扇情的報道が横行する世界なのだ」と、見る側が織り込んでしまえば問題はないのかもしれない。しかし、ツイッターを見ていたり、あるいは人と話したりしていると、本気で「中国は暗黒大陸やで~」「民は日々厳しい生活を送っているのだ~」「カムイ伝か、はたまた1984か」と思っている人も多いようで不安になる。

もちろん困ったことや辛いこと、社会問題は山のように存在するのだが、まず大前提として人が生きている。裕福ではない人も、それなりに生きる楽しみを見つけて暮らしているケースが多い。そもそも、そうじゃないと人間はなかなか生きられないのではないかと思う。


・「中国」を一つにくくれるのか?

そもそも広大な中国を、なにか一つの事件や1人の視点(記者の視点であれ、誰かへのインタビューであれ)から描くことは難しいのではないか。過去記事「13億人は日本のことをどう思っているの?「無関心」「あえて言えばキライ」―中国人民は日中対立をどう見ているのか?」でも紹介したが、中国で活躍するミュージシャン・ファンキー末吉氏と若手の論客として頭角を現している加藤嘉一氏が、中国の反日デモについて真反対の見方を示している。両氏はともに多くの中国人の友人、知り合いを持ち、中国の空気を肌で感じているはずだが、それでも全く違った感想を持っている。

また地域差や階層差といったことも重要なファクターだ。山谷氏は「東京都港区をして日本を知ること(中国リアルIT事情、1月7日)」で、北京と上海だけを見て中国全体を語る論は、港区だけを見て日本を語るようなものと指摘している。同氏は雲南省昆明市の在住だが、その独特の切り口は経済後進地域に位置づけられる「中国西南地区」の視点も大きな影響を与えているのではないだろうか。
記事を読んだ山谷さんから以下の注釈。

自分の名刺にはIT & Travelライターって書いてあって、実は旅行ガイドブックも書いてるんだよ(笑)。どっかのガイドブックの裏に僕の名前書いてるから。だから毎年中国の南半分一巡するんだよ。
http://twitter.com/#!/YamayaT/status/24285908685557760

雲南にずっといるというと語弊あるんでそこだけ、ね。僕の記事の写真は、ほとんど他の地域の写真だよ。日本往復のときに寄るのだ。大連・瀋陽・北京・上海・成都・重慶・広州・深セン・武漢・青島・アモイetc。。。マイレージのおかげだよ。
http://twitter.com/#!/YamayaT/status/24286633792643072

もっとも

広大な国土を持ち、13億人が住んでいる中国を一つにくくれない。その内側にはさまざまな差異や境界があることを認識しよう!

で結論が出せれば楽なのだが、読者の視点に立てば「そんな細かく線引きされてもわからんし、追いかける時間的余裕がない。無理でもある程度の見取り図を書いてよ」となるのではないだろうか。となれば、書き手は視点の限界性や全体のごく一部にしか目が届いていないことを理解したうえで、全体像を描く「蛮勇」が求められるように思う。

その時に「一定の限界がありますけどね」という書き手の謙虚さと、「この人はこう見たのね、こう考えたのね」とあくまで論が一人の発言者に属するものと割り引いて考える読者の姿勢があるかないかで、価値ある記事になるかどうかが決まるのではないかと考えている。

*記事についての情報や間違いなど教えて頂けると大変助かります!コメント欄か、メール(kinbricksnow●gmail.com、●を@に変えてください)でお願いします。


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<過去記事>
【最終回】13億人は日本のことをどう思っているの?「無関心」「あえて言えばキライ」―中国人民は日中対立をどう見ているのか?

中国が離島奪取計画を立案=朝日新聞報道に中国官制メディアが反論―政治学で読む中国

「中国の博物館にある化石の95%はニセモノ」のウソ=中国の化石事情を考える―政治学で読む中国

あの「立体バス」、来年から運用開始へ?!天下の朝日新聞様が釣られているッッッ

【ニセモノのニセモノなのだ】ニセ卵騒動の真相=詐欺業者とメディアの共犯関係―中国

 コメント一覧 (7)

    • 1. マネ
    • 2011年01月09日 19:30
    • ありがたいや、ありがたいや、

      迷路人さんのところで時々出てくる「それは中国人の意見が代表できない」と言う話しはもう飽きるんだわ。
      それは中国人全体の意見ではなく、「中国人はこんな意見もある」とわかってほしいね。
      特に最近、中国人は「代表」この言葉に非常に敏感していると思う。やっぱり地方や個人や、個体として認識してもらいたいね。
    • 2. 泣いて和食を斬る
    • 2011年01月09日 21:38
    • そんなもん、万国共通で、同じでしょ。記事中の「中国」を「日本」に書き換えても、同じこと。

      議論に値することでは、ない。
    • 3. Chinanews
    • 2011年01月09日 22:48
    • >マネさん
      「被代表」の話を入れればよかった!
      記事書いている時にアドバイスしてくれたら良かったのにw

      >泣いて和食を斬るさん
      おっしゃるとおりで、中国固有の問題というよりは、モノの見方だったり、あるいは報道や出来事の取り上げ方という普遍的な話に属するか、と。

      ただ、他の国と比べると、中国にまとわりついている「偏見」は相当根強いんじゃないかなとも思いますが。
    • 4. 泣いて和食を斬る
    • 2011年01月10日 09:58
    • レスありがとうございます。

      そうした「偏見」を持った人間の一人ですよ?私は。過去の様々な積み重ねの末、尖閣の件で完全にキレました。

      個体としての人間。その認識力には限界があるのも解ってはいます。が、中国の人々が日本を正確に認識できているなら、本来なら反日デモも起きません。デモが愛国教育や共産党の指導だけが原因、とは自分の中では説明がつきませんし。

      人間は様々ですから。

      帝国主義時代を想起させる、嘗ての膨張主義や覇権主義で中国がこのまま行けば、いずれ衝突は避けられませんよ。

      中国がそれでも良いと言うなら止めませんが、日本に「過去の反省を」と言いつつ過去から学習しない国家と国民に、未来はないと思います。

      乱文乱筆、恐縮です。
    • 5. Chinanews
    • 2011年01月10日 14:57
    • >泣いて和食を斬る さん

      私の書き方があまりうまくなかったかもしれませんが、「偏見」「先入観」とは、実態とかけ離れた「釣り情報」を意味するものです。

      中国を実際にどうとらえるか、どうおつきあいするかは、この記事の射程から離れる話ですが、メディア(個人サイトも含めて)が作りあげた、一種虚像めいたものに怒っても仕方がない部分があるかと。

      同じ問題は中国側にも存在しますが。勝手に作り上げた「日本の右傾化」に怒ったり、日本の主権主張を一切虚偽のものと決めつけて、尖閣問題に対応する=日本の中国叩きと解釈されるのは心外です。

      うーむ、メディアの報じ方に議論を限定しようと四苦八苦してみたのですが、いまいちうまく書けなかったかもしれません。また稿を改めて自分の意見を表明したいと思います。
    • 6. ^@.
    • 2011年01月11日 12:25
    • 東京都港区をして日本を知るの部分は
      ハリウッド映画を見てアメリカ人は美男美女ばかりと思うなんて大間違い
      というのと似たような意味合いでしょうか?

      >「中国は暗黒大陸やで~」「民は日々厳しい生活を送っているのだ~」
      誰かの受け売りの可能性もありますが、実際に中国の暗黒面を体験しちゃった人かもしれませんよ?

      中国自身も経済・軍事大国と発展途上国の立場を使い分けていますし
      共産党政権だから色眼鏡で見られているだけ、ではないと思います。
    • 7. Chinanews
    • 2011年01月11日 18:47
    • >^@さん
      実際に「暗黒」なところを見てしまった人も多いでしょうね。

      ただ、その体験だけに頼って判断すると、間違えることもあるかもよということを提起したかった記事でして。

      中国共産党や中国に問題があることは確かですしね。それを否定するつもりはないです。

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