今回は誰もが陥りやすいことですが、何か一つの出来事や1人の体験から「中国とはこういう国だ!」と紋切り型に語ることの問題性をちょっと考えて見ようか、と。
浦西 Puxi (上海 Shanghai) / Jakob Montrasioきっかけとなったのは海外IT事情に詳しいライター・山谷剛史氏のツイッターでの問題提起。この問題提起はすでにブログのエントリーという形でまとめられている。
外国に対する先入観はメディアが作り上げる(中国リアルIT事情、1月4日)東京都港区をして日本を知ること(中国リアルIT事情、1月7日)
・「作り上げられた、かわいそうな中国人」=山谷氏の問題提起
できれば、山谷氏のエントリーを読んで欲しいのだけれども、自分の話にひきつけて少し引用させてもらう。
外国に対する先入観はメディアが作り上げる(中国リアルIT事情、1月4日)
中国は広い。百万都市がごろごろある。各省の人々は中国全体よりも地元の省や市の身近なニュースに興味がある。普通の人々が喜んでみる報道は地元の報道であり、そこには中央政府に対して以上の報道の自由がある。普段から人々は中国政府に興味はないため、報道に制限があるとは感じていないし、中国の真の姿を知らず哀れとは思っていない。
最初に書いた「大衆は報道を信じていない」にも「大衆は報道の自由を望んでいる」にも、前述の前提から「いや、地方ニュースをそれなりに信じてるし、中央の報道は見ないし興味ないし」ということで実際には、それは「日本や先進国民主主義国の人々が『中国人は報道の自由が無くて苦しいよね、ね?』」と言っているに過ぎない。
いつの間にやら「中国人は報道の自由が無くて苦しんでいる」というのが常識となった。そしてその先入観が前提となり、その上に新たな考察がされている。
(太字強調はChinanews)
・釣りタイトルが横行する中国記事
なるべく人の目をひきつけようと、釣り気味のちょっとどぎついタイトルをつけるというのは、よく行われていること。ただ、中国に関してはとりわけそのハードルが低いというか、ともかくどぎついタイトルがつけられていることが多いのではないだろうか
(私にもそうした傾向があることは否定しないです……。記事の中身での釣りは絶対にしないと誓っておりますが)。
例えば、1月2日付産経新聞の記事は「
【中国版新幹線】「パクリ号」戦略加速、国内建設44兆円投入 海外売り込みも着々」という激しいタイトル。ひょっとすると、紙版とは見出しが違うのかもしれないが、一応、「日本四大全国紙」の看板を背負っていても、ここまで俗なタイトルが許容されるのだなと改めて驚かされた。
ネット報道は、あるいは中国報道は「タブロイド紙的な扇情的報道が横行する世界なのだ」と、見る側が織り込んでしまえば問題はないのかもしれない。しかし、ツイッターを見ていたり、あるいは人と話したりしていると、本気で「中国は暗黒大陸やで~」「民は日々厳しい生活を送っているのだ~」「カムイ伝か、はたまた1984か」と思っている人も多いようで不安になる。
もちろん困ったことや辛いこと、社会問題は山のように存在するのだが、まず大前提として人が生きている。裕福ではない人も、それなりに生きる楽しみを見つけて暮らしているケースが多い。そもそも、そうじゃないと人間はなかなか生きられないのではないかと思う。
・「中国」を一つにくくれるのか?
そもそも広大な中国を、なにか一つの事件や1人の視点
(記者の視点であれ、誰かへのインタビューであれ)から描くことは難しいのではないか。過去記事「
13億人は日本のことをどう思っているの?「無関心」「あえて言えばキライ」―中国人民は日中対立をどう見ているのか?」でも紹介したが、中国で活躍するミュージシャン・ファンキー末吉氏と若手の論客として頭角を現している加藤嘉一氏が、中国の反日デモについて真反対の見方を示している。両氏はともに多くの中国人の友人、知り合いを持ち、中国の空気を肌で感じているはずだが、それでも全く違った感想を持っている。
また地域差や階層差といったことも重要なファクターだ。山谷氏は「
東京都港区をして日本を知ること(中国リアルIT事情、1月7日)」で、北京と上海だけを見て中国全体を語る論は、港区だけを見て日本を語るようなものと指摘している。同氏は雲南省昆明市の在住だが、その独特の切り口は経済後進地域に位置づけられる「中国西南地区」の視点も大きな影響を与えているのではないだろうか。
記事を読んだ山谷さんから以下の注釈。
自分の名刺にはIT & Travelライターって書いてあって、実は旅行ガイドブックも書いてるんだよ(笑)。どっかのガイドブックの裏に僕の名前書いてるから。だから毎年中国の南半分一巡するんだよ。
http://twitter.com/#!/YamayaT/status/24285908685557760
雲南にずっといるというと語弊あるんでそこだけ、ね。僕の記事の写真は、ほとんど他の地域の写真だよ。日本往復のときに寄るのだ。大連・瀋陽・北京・上海・成都・重慶・広州・深セン・武漢・青島・アモイetc。。。マイレージのおかげだよ。
http://twitter.com/#!/YamayaT/status/24286633792643072
もっとも
広大な国土を持ち、13億人が住んでいる中国を一つにくくれない。その内側にはさまざまな差異や境界があることを認識しよう!
で結論が出せれば楽なのだが、読者の視点に立てば「そんな細かく線引きされてもわからんし、追いかける時間的余裕がない。無理でもある程度の見取り図を書いてよ」となるのではないだろうか。となれば、
書き手は視点の限界性や全体のごく一部にしか目が届いていないことを理解したうえで、全体像を描く「蛮勇」が求められるように思う。その時に「一定の限界がありますけどね」という
書き手の謙虚さと、「この人はこう見たのね、こう考えたのね」とあくまで論が一人の発言者に属するものと割り引いて考える
読者の姿勢があるかないかで、価値ある記事になるかどうかが決まるのではないかと考えている。
*記事についての情報や間違いなど教えて頂けると大変助かります!コメント欄か、メール(kinbricksnow●gmail.com、●を@に変えてください)でお願いします。
山谷 剛史
ソフトバンククリエイティブ
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<過去記事>
【最終回】13億人は日本のことをどう思っているの?「無関心」「あえて言えばキライ」―中国人民は日中対立をどう見ているのか?中国が離島奪取計画を立案=朝日新聞報道に中国官制メディアが反論―政治学で読む中国「中国の博物館にある化石の95%はニセモノ」のウソ=中国の化石事情を考える―政治学で読む中国あの「立体バス」、来年から運用開始へ?!天下の朝日新聞様が釣られているッッッ【ニセモノのニセモノなのだ】ニセ卵騒動の真相=詐欺業者とメディアの共犯関係―中国
迷路人さんのところで時々出てくる「それは中国人の意見が代表できない」と言う話しはもう飽きるんだわ。
それは中国人全体の意見ではなく、「中国人はこんな意見もある」とわかってほしいね。
特に最近、中国人は「代表」この言葉に非常に敏感していると思う。やっぱり地方や個人や、個体として認識してもらいたいね。