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ネット掲示板にBL小説アップで腐女子逮捕=「わいせつ物伝播罪」ってなに?―中国

2011年01月10日

先日、ネット掲示板のBL小説を転載した中国の腐女子が「わいせつ物伝播罪」で逮捕された話を紹介しました(リンク)。コメントやツイッターでの反応を見ていると、「どういう罪?どういう法律?わけわからん」というものが多かったので、法律関係にはうとい身ですが、調べてみました。

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前回の記事内容を一部抜粋しておくと、
北京テレビ(BTV)の番組「法治在線」は7日、「わいせつ物伝播罪」で逮捕された丁さんに関するニュースを報じた。今は20代ですでに母親となった丁さんだが、2年前のまだ学生だった頃、ボーイズラブ小説(少年同士の恋愛をテーマとした小説)をネット掲示板に転載した。

転載された小説はネットで注目を集め、これまでに8万回以上閲覧されたという。番組の説明によると、閲覧回数が2万回を越えた場合、オリジナルか転載かにかかわらず、「わいせつ物伝播罪」の条件を構成する。こうして丁さんは逮捕、法廷の場に立つこととなった。
というもの。問題は「わいせつ物伝播罪」とは何かということになります。



・「わいせつ物利益罪」と「わいせつ物伝播罪」


わかりやすいように、まず日本の法律をご紹介。

わいせつ物頒布等の罪(わいせつ物頒布罪)
刑法175条は「わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金若しくは科料に処する。販売の目的でこれらの物を所持した者も、同様とする」と規定する。
ウィキペディア日本語版より
で、ちょっと面白いのが、中国ではこれに対応する法律が二つに分かれている点です(ネット百科事典・百度百科の項目「伝播淫穢物品罪」「製作、複製、出版、販売、伝播淫穢物品牟利罪」を参照)。

一つ目が「製作、複製、出版、販売、伝播淫穢物品牟利罪」(わいせつ物を製作、複製、出版、販売、伝播することによって利益を得たことに対する罪、長いのでわいせつ物利益罪と省略)。もう一つが「伝播淫穢物品罪」(わいせつ物伝播罪)です。前者があくまで「利益を得ることを目的とした者」に対する罪であるのに対し、後者は利益目的ではなくとも頒布したことのみで有罪になります。簡単にいうと、業者に対する罪と利益なしで頒布している個人の罪とをわけているわけです。

量刑は、「わいせつ物利益罪」が3年以下の懲役、あるいは勾留、観察処分。同時に罰金も科す。罪状が深刻な場合には3から10年の懲役及び罰金。罪状が特に深刻な場合には10年以上の懲役、あるいは無期懲役。同時に罰金または財産没収。

わいせつ物伝播罪の量刑は、罪状が深刻な場合には2年以下の懲役、あるいは勾留、観察処分。18歳未満の未成年にわいせつ物を渡した場合には厳しく罰する、と定められています。業者に対する罪と比べて明らかに個人に対する量刑が軽くなっています。また「伝播」が条件ですので、「個人所有や親しい友人の間で見せ合ったり」は、罪の構成要件とはなりません。


・罪にならない例外、刑罰を科されないケース

なお、わいせつ物利益罪、わいせつ物伝播罪ともに「科学・芸術関連はのぞく」という注釈つき。医学書や裸体画はわいせつ物にあたらないという解釈だそうで。どうりで、「人体芸術」(ヌード写真など)や「若い夫婦に伝える性生活の教えDVD」は堂々と売れるわけですね。

なにがわいせつかの線引きが難しいのと同様、なにが科学で、なにが芸術かの線引きも難しいですよね。「科学/芸術に見せかけたわいせつ」もやっぱりアウトになるとのこと。コンパニオンの裸体に絵を描くのはわいせつじゃないのか、そのネット動画はわいせつ物伝播罪ではないのか、不思議でしょうがありません(過去記事「エロじゃないです、アートです=モーターショーでヌードモデルのボディーペインティング・ショー」)

前回の記事で多くの疑問が寄せられたのは、「2万回閲覧で有罪」という部分。調べてみると、わいせつ物伝播罪の条文にある「罪状が深刻な場合には2年以下の懲役」というのがみそ。つまり罪状が深刻でなければ刑罰はないわけです。ネットでのテキスト閲覧の場合、2万回が深刻な罪かどうかをわける境界になったもよう。


・腐女子逮捕報道の背景


前回の記事は、BL小説転載で丁さんが逮捕されたというテレビ報道を受けてのものでした。では、なぜわざわざこの話が報じられたのかという背景を少し考えて見ようかと(番組映像はこちら。中国語。5分10秒ぐらいから登場)

中国ネット民には「分享」(シェア)という文化がありまして。海賊版の利用ともつながっているのですが、「いいものなんだから分け合おうぜ」という発想で、そこにはあんまり罪の意識がないのです。番組は事件を聞いての一般市民の反応も伝えていますが、「それで逮捕って重すぎるんじゃない?」「警告ぐらいがちょーどいいんじゃない?」というもの。

なので、わざわざ丁さんの裁判を番組でとりあげたのは、「利益目的じゃなくて、何の気なしにシェアしようとするのもね、犯罪なんだよ!」という法律啓蒙番組(?)「法制進行時」のメッセージなのでありましょう。

でも、本当は「芸術とわいせつの境界ってなによ?」「文学性の有無で決めるとしたら、誰がそれを判断するの?」といったことを考える番組が欲しいんですけどね。東京MXテレビと北京テレビ合作で「都条例とわいせつ物伝播罪を考える討論番組」とか作ればいいのに。


*記事についての情報や間違いなど教えて頂けると大変助かります!コメント欄か、メール(kinbricksnow●gmail.com、●を@に変えてください)でお願いします。

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 コメント一覧 (4)

    • 1.  
    • 2011年01月10日 21:54
    • つまり、わいせつだからというより著作権侵害の見せしめ逮捕の要素のほうが強いってこと?
      一瞬何の言葉狩りかと思ったけど、それならまだ納得出来るかも。
    • 2. 阿井
    • 2011年01月10日 22:20
    • 西単の本屋で世界BL妄想童話や多数の日本のBLコミックや『男の娘』漫画を見かけて結構引いたけど、今度から見つけ次第買おう。
      中国じゃいまネット文学の出版が流行っていて、恋愛小説にまぎれて『男の娘』っぽいテーマの小説も売られているけど、この件でそういうブームも低下するんだろうか。
    • 3. SY1698
    • 2011年01月10日 23:32
    • こちらでははじめまして。

      日本でも「四畳半襖の下張り」裁判とか、「チャタレー夫人」裁判とかで、最高裁判決で「猥褻物陳列罪」が成立しているので、冗談抜きでそこは当局の裁量になりつつあります。

      たぶん、ふだんは泳がせておいて、なにか思想的引き締めを行うときに使うんだろうな、と邪推してしまいました(邪推ではなくて、それが真相なのでしょう。日本と一緒)
    • 4. Chinanews
    • 2011年01月11日 00:34
    • >1さん
      著作権侵害というか、「オレが見つけた面白いBL小説、みんなも読んでよ!」が犯罪になるよ!ということの見せしめかと……。

      内容がわからないですが、相当ハードだったんじゃないかとは思います。


      >2さん
      大人買いキター!
      出版社がどのあたりのラインに「わいせつ」の自主規制ラインをしいているのか。興味ありますね。いや、日本の出版社もそのラインが日々変わっていそうですが。

      >SY1968さん
      どうもです!

      当局の恣意的な運用で適用が決まるのは勘弁して欲しいと思っています。日本、中国ともにそこの問題は一緒ですね。

      中国も、いざとなれば使える伝家の宝刀として、わいせつ物伝播罪が用意されたのだと思いますが(2000年成立)、ただ営利目的とは量刑が違うこと、単純所持に対する刑罰がないこと、の一定の規制があるのはちょっと驚きでした。

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