中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年01月18日
そして井村雅代さんの手記の中で、わたしが特に「そうそう」とうなずいてしまったのは、井村さんが中国代表の女の子たちを、「中国はEUである」という認識で指導した、というくだりです。
井村さんは最初、出身地を全く考慮しないで中国の選手にキャプテン、副キャプテンを任命し、彼女らにチームのメンバーの指示を任せました。そうしたところ、違う出身地の選手はキャプテンの指示を全く聞かなかったといいます。その原因は、選手同士の強い「同省意識」でした。彼女らは同省出身同士の選手・コーチに親近感をいだく反面、他省出身の選手には強烈なライバル意識をいだいていたといいます。
そこで井村さんは、「中国は日本とは違い、省という国が集まったEUみたいな共同体である」と考え、自分が直接選手たちの輪の中に入り、各選手に指示したところ、指示を受けて成長した選手と同じ出身省の選手も刺激を受け、結果としてチーム全体の技術が向上したというのです。
この「中国は省が集まった共同体であり、省出身者同士が同じ連帯感を持っている」という考えは、日本ではなかなか理解されにくいところがあります。日本人は往々にして、「中国人は・・」という一くくりで考えてしまうのです。
日本のような、中国と比べて狭い国土でも「ケンミンショー」なる番組があって、県民の性格が紹介されるぐらいです。中国のような広い国土なら推して知るべしでしょう。同じ中国人でも出身地によって実にさまざまな性格の人たちがいるのです。
一番有名なのは浙江省の人たちの「商売好き」でしょう。また、上海人は中国人の中でも自意識が高く、孤立しがちであるというのも、中国人の間では有名です。日本人はもっと中国人のそのような事実に目を向けなければならないとわたしは思います。
そしてその井村さんが指導した中国人選手の「同省意識」に、わたしが常々いだいている「ウチ」と「ソト」という中国人の行動様式を再確認しました。
井村さんの体験は「コーチと選手」という上下関係のある環境における特殊なものだと考えられるかもしれません。しかし「同省意識」という中国人の性格を自分で気付き、「どのようにしたら自分の言葉を中国人に聞いてもらえるか」という問題を自分で試行錯誤して解決し、中国人との接し方を考え出す井村さんの姿勢に、わたしたち日本人は学ばなければならないと強く感じます。
そして井村さんは、自分流の「日本人と中国人の付き合い方」が間違いなかったということを体当たりで証明し、それを北京五輪という場で日本人の前に見せつけました。結果が全てである世界で出したこの「答え」は、日本の中国学の専門家が机上で行っている中国人論よりもよっぽど説得力があると感じます。
私たち日本人は中国人を理解するとき、井村さんのような環境で同じような体験ができるわけではありません。でも、少なくとも「外に出て行って」、体当たりで生身の中国人を感じ取らなければ、本当に中国人とわかりあうことはできないとわたしは思います。井村さんのような感覚を持つ専門家が日本には何人いるんでしょうか。