中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年01月18日
特に昨年初め以来、出稼ぎ労働者をめぐる状況は大きく変わりました。富士康での労働者飛び降り事件に端を発した労働者の賃上げ運動は全国に飛び火し、出稼ぎ労働者の賃金は4000元余りもざらという状況になりました。同時に出稼ぎ労働者自身の権益を守る機運が全国的に広がり、企業経営者の頭を悩ませることになりました。
賃金が高くなれば、当然人件費も跳ね上がり、経営体力のない企業は資金繰りも悪化することになります。加えて、富士康の様な社会現象は、出稼ぎ労働者にとって「より高い賃金を出してくれる企業」を選択する理由となり、必然的に高い賃金を出せない企業には労働者が集まらなくなっていきました。つまりは企業が出稼ぎ労働者を選ぶのではなく、出稼ぎ労働者が企業を選ぶ時代に突入したこと、これがいわゆる「用工荒」の現象が深刻化している理由の1つになっているのです。
さらには昨年下半期から社会現象化した、ディーゼル油不足に伴う燃料高騰や綿花価格の高騰、土地代の高騰など、企業経営者の頭を悩ませる問題が続出しました。これらのコストが逼迫すれば、資金的に乏しい中小企業は人件費を捻出するなど当然夢のまた夢です。こうして労働者が集まらない企業にはますます集まら なくなっていきました。
今年は経営不振に陥った製造業、サービス業の企業が、コスト削減のために多くの出稼ぎ労働者を、すでに昨年12月末に早めに帰郷させてしまっています。彼 らの人手は見込めない状態になっており、昨年以上に春節前の借り入れ時に深刻な人手不足に陥る企業が続出するのは確実でしょう。
そして・・生き残りをかけてこれらの企業は、アフリカ諸国などからの外国人の出稼ぎ労働者への労働力依存を強めていくことになるとわたしは見ています。実はこのところ中国沿海都市部には、アフリカや東南アジアなどの発展途上国からの出稼ぎ労働者が増加しています。
まだまだ国外の労働者の流入を制限している中国政府ですので、すぐに外国人労働者で中国の工場があふれかえるという事態は非現実的で考えにくいといわざるを得ません。しかし、企業が以前よりも外国人労働者の雇用に積極的になる可能性は十分あります。彼らはやはり安い賃金で中国国内で働いているケースが多 く、中国の企業が人件費を削減する上での格好の標的になるのは間違いありません。
しかし仮に外国人労働者の雇用の常態化が現実になれば、結果的に高騰していた出稼ぎ労働者の賃金は再度下落することになり、中国の出稼ぎ労働者は職を失って路頭に迷う結果になります。こうなれば社会不安は増大してしまうわけで、政府はこのような最悪の事態を何とか食い止めたいと考えているのでしょう。
国内の出稼ぎ労働者の労働意欲を促進することにより、この事態を打開したいと中国政府は考えているのでしょうが、人件コストの増加はそのまま製品価格に跳 ね返ってくるわけで、「安い中国製品」のメリットは薄れてきてしまいます。労働者の権益保障の整備と「安い中国製品」の両立化を中国政府がどのように図っていくか。これは今後注目すべき点になると思われます。
大企業の下請けを行っている中小企業が淘汰され、消えていけば、その国の製造業が屋台骨から崩れることになり、経済発展は望めなくなります。ましてや中国の中小企業は日本の企業と比べ、技術的な強みを持っているのはほんのわずかです。中国政府は出稼ぎ労働者が魅力的に移る労働環境の整備を急ぐとともに、中小企業の発展に力を注ぐことが大切になるのではないでしょうか。