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中国レアアース規制、何が問題なのか?=ふるまいよしこさんの批判に応えて

2011年01月25日

先日、本ブログで公開した記事「尖閣事件で明らかになったレアアースの戦略的価値=中国は外交の切り札としての位置づけを強化―翻訳者のつぶやき」について、フリーランスライターのふるまいよしこさんからツイッターでご批判をいただきました。


Rare Earth / California Concrete Restoration Inc.


せっかくいただいたご批判を建設的な方向に向けていきたいと思いますので、長文になりますがよかったら読んでください。「Chinanewsの結論だけ知りたい!」という方は「輸出割当と輸出禁止、二つのレアアース輸出規制について」まで飛んでください。

議論の流れ


発端となった記事記事「尖閣事件で明らかになったレアアースの戦略的価値=中国は外交の切り札としての位置づけを強化―翻訳者のつぶやき」は、尖閣事件が中国にレアアースの戦略的価値を気づかせたのではないかと指摘。2011年の輸出割当発表では異例にも「通年の割当量は公表しない」「下半期の割当量を公表しないこともありうる」という中国商務部のコメントを紹介しています。

この記事に対し、ふるまいさんは次のように批判。

レアアースの輸出枠については中国は尖閣以前にすでに輸出引き締めを提起しており、尖閣前日に経団連も輸出拡大を求めて話し合いに失敗しています(これは尖閣前日の日経新聞でも報道)。尖閣で日本メディアにあおられて一般日本人に知られるようになった、が実情です。

参考までにこちらをご覧ください。きちんと書かれています。レアアースに手を焼く中国(ECO JAPAN)
ツイッターでのやりとり全体については、togetterのまとめをご覧ください。

そして、ふるまいさんの批判に応えた私の返答が以下のとおりです。

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お返事遅くなりました。記事「尖閣事件で明らかになったレアアースの戦略的価値=中国は外交の切り札としての位置づけを強化―翻訳者のつぶやき」ですが、尖閣以前の輸出規制についても触れておいたほうがいいですね。追記します。ご指摘ありがとうございました。

さて、せっかくいろいろつぶやいていただいたので、何点かリプライを。

(1)レアアース輸出規制はいつから注目されたのか
2008年、中国はレアアースの輸出割当を前年比1万トン削減。2010年にはさらに4割という削減を実施。すでにそのころから経済紙での報道はありました。米国、EUとの議題に上ることも多く、2010年8月の日中ハイレベル経済対話では主要な議題になったと報じられています。

(2)尖閣以後の報道
尖閣問題が深刻化(船長の勾留延長)後、日本向け貨物の実質的な輸出規制(通関許可を出さない)などがあり、報道が急増。ワイドショーなどで扇情的な報道も急増します。ですが、その後は雑誌などで落ち着いた報道も十分多く、レアアースの環境破壊問題、供給過剰による価格下落、中国のレアアース業界再編や乱開発・盗掘規制などバランスよく報じる記事が多い印象です。

ふるまいさんがおっしゃられている、日本メディアはこうした問題を報じていないというご指摘とはちょっと違った印象を持っています。

もっともこうしたしっかりとした分析は、ウェブにでることは少なく、紙メディアを見てねというスタイルになっていることが多いのが、日本の残念なところ。新聞もウェブと紙で書いていることが全然違いますしね。小額課金でいいから、ちゃんとした記事をウェブに上げてほしいと思います。

話がわき道にそれました。

(3)中国は戦略的にレアアースを扱っていないのか?
中国のレアアース輸出が本格化したのは1990年代初頭ですが、すぐに過剰生産による価格低迷という問題に直面します。いかにその是正をはかるべきかはずっと課題として存在してきましたが、ゼロ年代後半に動きが本格化したのは、中国の国際的地位の向上という側面と大きくかかわっていると見るべきだと考えています。

鉄鉱石や原油と同じく、いかに資源価格の発言権を得るかという経済界、政界を巻き込んだ動きの一部です。その中で先に述べたようい日中ハイレベル経済対話の議題となるなど、外交の焦点、外交カードの一部としても浮上しています。

尖閣以後もヒラリー・クリントン米国務長官がレアアース問題について言及しているなど、日中関係のみならず、米中関係にも影響する強力な手札でしょう。明天会更美好さんが指摘されている通年の輸出割当量を明らかにしないという発表は、下半期の割当量を増やす/減らすことが可能な外交カードとしても使えるという意味で、大変興味深い話のように思われます。

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ふるまいさんによるブログでのご批判

その後、明天会更美好さんは「レアアースの記事について」というエントリーで応答。

ふるまいさんは「ブログ「Kinbricks Now」レアアース関連エントリへの反論」というエントリーで、再度、ご意見を説明されています。

全文はふるまいさんのブログで読んでいただくとして、ポイントだけ引用させていただきます。
Kinbricks Nowさんからいただいたお返事の、(1)、(2)及び(3)という重要な視点についてはまったく異論はありません。おっしゃる通りだと思います。中国においてはエネルギー、資源、鉱物はすべて戦略的位置づけにあります。これは周知の事実であり、疑問の余地はありません。なので、このエントリで、そのうちの一つであるレアアースだけをわざわざ取り上げて「尖閣後に戦略的物質に位置づけられた」というエントリは矛盾していませんか?

Kinbricks Nowさんがおっしゃっている、わたしの「日本メディアは『こうした問題』を報じていない」の理解に誤解があります。

わたし個人は「レアアース」という言葉を知ってすぐにネットで検索し、尖閣事件が起こったのと同じ日のニュースでこのような報道があったのを知り、「輸出規制」が尖閣事件以前から存在していたのであれば、9月末の規制も必ずしも尖閣事件と関係あるとは思えない、と感じました。ならば、それを尖閣事件と結び付けるのであれば、少なくともその輸出規制が事件と関係があるという、明らかな証拠・証言を見つけなければならないはずだ、と思いました。
 
しかし、どんなに注意深く読んでも9月末のレアアース規制について報道する日本のメディアの論調には、それらしい証拠や証言を見つけることはできませんでした。つまり、わたしはずっと、「この規制は実は嫌がらせではなく、尖閣事件以前から中国が進めてきた規制の延長ではないか」という思いをぬぐえずに今に至っています。

Kinbricks Nowさんもおっしゃっているように今では「バランスよく報じ」ている日本メディアが、なぜ当時そのことに触れなかったのか? レアアースが輸出されずに一番悲鳴を上げたのが日本の自動車メーカーだったから同情した? それともそれが確実に「嫌がらせ」である確固たる理由をメディアはつかんでいたのか? その疑問に答える情報はいまだにありません。その答が出ないから、わたしはずっと「なぜだ? なぜだ?」と問い続けるしかありません。Kinbricks Nowさん(及び「明天会更美好」さん)はその答をお持ちでしょうか? お持ちならぜひご教示ください。


輸出割当と輸出禁止、二つのレアアース輸出規制について

「尖閣以前から中国はレアアース輸出規制を進めていた。尖閣以後の問題もその延長線上にあるものではないか」というふるまいさんのご指摘ですが、二つのレアアース輸出規制を混同してお話しされているのではないかと感じました。

輸出割当規制については確かに尖閣沖中国漁船衝突事故前から存在したものですが、もう一つの規制(?)については尖閣後に実施されたものです。中国のマスメディアで働いておられるHiroさんがその経過を整理してくださっています。(Togetherのまとめ

衝突事故は9月7日に発生。当初は中国政府もおきまりの批判文句を発表しつつも、あれほどの大騒ぎになる様相を示してはいませんでした。事件が一変したのは19日の船長勾留延長決定以後。21日、国連総会出席のため訪米中の温家宝首相は「われわれは(日本に対し)必要な強制的措置を取らざるを得ない」と発言。22日付ニューヨークタイムズは21日より対日レアアース輸出が停止したと報じています。

ニューヨークタイムズ報道を中国当局は否定。中国政府はレアアース輸出禁止を命じていない、あるとすれば民間が勝手にやったことだろうとコメントしています(参考リンク)。実際に各地の各機関が「自分たちでできる日本バッシング」を講じて日中友好イベントが中止されたりしていますので、中国政府の言い分が正しい可能性もないわけではありません。

ただ、輸出が再開されたのが横浜・アジア太平洋経済協力会議(APEC)での胡錦濤・菅直人会談の後ということを考えると、尖閣沖中国漁船衝突事故とそれにまつわる外交と密接にリンクしていると考えた方が自然ではないでしょうか。

当時の日本メディアの報道は過剰であり、かつバランスを欠いたものだったとは思いますが、一番問題視されたのは輸出禁止措置であり、また今後も日中の対立が深まればいつでも輸出禁止が行われるのではないかという点。その意味で、尖閣以前からの輸出割当規制が前面にでなかったことは理解できなくもありません(いや、本当のことをいえば、そこも踏まえた総合的かつ冷静な報道が欲しかったところですが)


尖閣以後、レアアース輸出割当は戦略的価値を持ったのか

さて、ふるまいさんのブログでは次のようなご批判もいただいております。

船積みされたレアアースが止められたのはなぜか、という疑問を「明天会更美好」さんがツイッターで呈しておられましたが、規制が行われる中でもしレアアースが中央政府の規制を無視して輸出された場合、中央政府は自国領海においてその輸出を差し止める権利を持つはずです。れは例えば、日本であろうがフランスであろうが、輸出が禁じられた美術品などがこっそり持ち出されることが分かった場合においても同じはずです。

世界貿易機関(WTO)加盟国の中国が、国際紛争において懲罰的に輸出品を規制することは禁止されておりますし、国外持ち出し禁止の美術品と同等の扱いはできません。

もし、それを「尖閣事件にまつわる嫌がらせ」と見るのであれば、事件がまだ熱気を帯びていた頃、確かに中国から日本、あるいは日本から中国に到着した貨物は差し止められて関係者が悲鳴を上げていたように、それらの引っ越し荷物や事務用品などと同じようにレアアースも差し止められていたと、なぜ見なすことができないのでしょうか?

この点については、ふるまいさんの疑問と明天会更美好さんの主張は対立するものではないでしょう。レアアース以外にも貨物差し止めの問題はありました。そうした中でレアアースがメディアの注目を集め、クローズアップされたことで、中国政府がレアアースの戦略的価値に気づいたという明天会更美好さんの主張です。

ツイートでも申し上げた通り、中国のレアアース輸出先は日本だけではありません。なぜ、そう簡単に「日本」がすぐに複雑な管理下にある「レアアース」と結び付いたのか。逆に言えば、輸出を規制して日本に嫌がらせをするなら、現実にレアアース以外にも日本が中国からの輸出に頼っている資源あるいは原材料、あるいは農作物などはたくさんあります。

まず、一つご指摘しておきますと、明天会更美好さんのエントリーは「中国がレアアースの戦略的価値に気づいた」と述べているのであり、それは日本に対してのみの戦略的価値とは書いていません。他国に対しても大きな価値を持つものです。

先にご紹介したレアアース輸出禁止措置では、日本への禁止からほぼ1カ月後に米国向け、欧州向けの輸出もストップしました。グリーン・ニューディールをかかげるオバマ政権にとっても、エコ製品の製造に欠かせないレアアースの輸出禁止措置は大問題でした。

2010年10月末、東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議直前にヒラリー・クリントン国務長官が海南省を訪問。戴秉国国務委員、楊潔篪中国外交部部長と会談しましたが、レアアース問題も議題としてとりあげられるテーマとなりました。

すなわち、日本だけではなく、米国、欧州。そしてなかなかメディアには登場しませんが、日本と同じく大口のレアアース輸入国である韓国に対しても、レアアースは大きな影響力を持つことがこの事件で鮮明になったことは間違いないでしょう。

こうした経過を経て、2011年の中国商務部による、含みを持たせた輸出割当量発表(通年の割当量を発表しない、下半期の量は発表しないこともありうる)があれば、そこになんらかの意図を感じるのは当然ではないかと考えます。


中国のレアアース規制、何が問題か?

明天会更美好さんのエントリーは、ふるまいさんのおっしゃるとおりレアアース問題全体を総括する全面的なものではなかったですし、中国各省庁の思惑の違いを分析しているものではありません。しかし、2011年に入ってからの中国政府の例年とは異なる動きを尖閣と結びつけて読み解くという試みがそう的外れなものではないと考えております。

ご批判は勉強になりましたし、転載させていただいたブログの管理人としてもありがたく受け止めさせていただきますが、

そのあまりにも大雑把な視点に驚き
明天会更美好」さんが、尖閣事件からレアアース輸出規制という「嫌がらせ」に発展する過程を、まるで一人の人間が一つの脳みそで判断したかのように簡単に考えておられることが想像できます。「レアアース規制は日本への嫌がらせ」という報道がある程度信じられてしまっている結果の後付け理論にもとれます。
というほど問題がある内容ではなかったと考えております。上記説明で納得いただければ、できればこうした表現は修正していただければと思うのですが。

さて、長々とリプライしてきましたが、私がレアアース規制について何が一番問題と思うかについて、少し。「議論の流れ」に引用した、私からふるまいさんへのツイッターでの応答にも書きましたが、環境破壊につながるような従来のレアアース採掘方法を改めよう、過剰採掘によるレアアース価格低迷を変えたいという中国の産業戦略に文句をつけることはできないと考えています。

「これまで安かったレアアース価格が上がって困る」というのが企業の言い分ですが、むしろこれまでは環境保全を無視した安い価格を享受していたのであり、それが高くなるのはむしろ正常状態への回帰と言えるでしょう。問題はその手法が産出量規制ではなく、輸出割当量規制であることです。つまり中国国内に進出すれば規制を回避できるというもの。中国国内企業(外資進出も含めて)と海外企業を差別するもので、WTOルールに抵触しています。

中国は2001年にWTOに加盟しました。当時はこれで中国も国際的な商慣行を受け入れることになるのではとの期待がささやかれていましたが、10年が経った今、中国の恣意的な政策運用が改まらなかったことが浮き彫りになりつつあるのではないでしょうか。

もちろん、レアアースだけが問題ではありませんが、昨年の懲罰的輸出禁止措置(中国政府は否定していますが)はきわめてシンボリックな事件でありました。今後、世界経済に占める中国の比重はますます高まることは間違いないでしょう。

WTO加盟認可という、中国に国際ルール受け入れを迫る絶好の機会を国際社会は逃してしまいましたが、今後、強大化し発言権を増した「大国・中国」に粘り強くルール受け入れを求めていく必要があります。
レアアース問題の解決は、その意味で、一つの希少資源にとどまらない重要な意味を持っていると考えています。

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 コメント一覧 (3)

    • 1. うがや
    • 2011年01月25日 22:43
    • サッカーの直前に記事をあげるとはタイミングがもったいない
    • 2. っっg
    • 2011年01月26日 00:12
    • 論争になったのかー。
      まあ


    • 3. Chinanews
    • 2011年01月26日 23:11
    • >うがやさん
      私もしっかりサッカー見てましたw

      視聴率30%代でしたっけ?すごいね。

      >っっgさん
      意見交換して、建設的に話がうごけばいいんですけどね。
      私の記事はちょっと長すぎるし、どうでしょう?

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