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中国の「不思議な統計」=失業率と就職率の読み方―翻訳者のつぶやき

2011年01月27日

「失業率」と「就業率」に潜む別のもの

20110127_Unemployment rate

記者会見する尹成基人力・社会保障部報道官

日本の厚生労働省に当たる中国の人力・社会保障部の尹成基報道官は25日、2010年の全国の就職状況について記者会見を開催しました。

この記者会見で発表された数字で最初に目を引いたのは2010年末時点の失業率です。尹成基報道官は、「2010年末時点の都市部における実質ベースの登録失業者数は908万人、都市部における登録失業率は4.1%となった」と発表しました(参考リンク:中国新聞網)。

*当記事はブログ「中国語翻訳者のつぶやき」の2011年1月25日付の記事を許可を得て転載したものです。

「登録失業率」の罠

これにより年末の失業率は2009年年末の比で0.2ポイント減となったことになります。2010年3月の全人代第3回会議では「都市部の登録失業率を4.6%以内に抑える」ことが目標になっていたわけですから、名目上ではありますが、当初の目標を達成できたことになります。

ただ、この数字はあくまで「登録失業者」の数から割り出した「名目上」のものであることを忘れないようにしなければなりません。

つまり、法に定められた労働年齢内で労働能力を持ち、就職の意向のある労働者が、自分の戸籍簿と身分証、身分を証明できる書類を現地の労働保健機関に提出して初めて「登録失業者」になれるのです(参考リンク、中国語)。労働者の大部分を占めている、農村戸籍を持つ出稼ぎ労働者にとっては、登録自体がかなり高いハードルです。登録しないケースも多く、この数字自体が信用できるものとはとても思えません。

さらには相当数いると思われる、身分証明書を偽造して都市部にもぐりこんだ労働者、悪徳業者による闇取引により都市部につれてこられた労働者、児童労働者など、中国の「暗部」を代表する労働者に関しても、この中には含まれていません。

また、都市部で職を失った出稼ぎ労働者が故郷の農村に帰って、職もなくぶらつくといったケースもあり、この場合の失業者も含まれていません。ですから、実際には報道官の発表した数の倍以上は失業者がいると考えるべきでしょう。


政府統計と実感の乖離=新卒大学生の就業率

この失業者数よりももっと驚いた数字がありました。それは尹成基報道官が同日発表した新卒大学生の就職率です。尹成基報道官は「2010年末時点の全国の新卒大学生の就業率は、前年末の87%と比べて3ポイント増の90.7%になった」と発表したのです。

事実、「現代快報」は「この統計数値に多くのネット民は反発している」と伝えました。無理もありません。わたしから見ても、当ブログでこれまで紹介した蟻族や新卒大学生の就職難といった状況と比べると、とても異質な数字に感じられます。「現代快報」は、民間の認識と統計数値がかい離している原因として、「就業の概念の捉え方の違い」を挙げています。

多くの人たちは国有企業や国家機関で働いて初めて「就職」と言えると考えており、「安定した職についている人」のことを指すと考えています。

しかし政府機関は統計の中で、これらの国有企業職員、国家機関職員のほかに、非国有企業の職員、創業している人たちや芸人、国家プロジェクトにより辺鄙な地域で職業訓練を行っている人たち、出国・留学している人たち、政府の地方プロジェクトに参加している人たちも「就業者」として数えているのです。

これが民間の認識と統計数値がかい離している原因の1つになっていると「現代快報」は分析しています。ほかに「現代快報」は功利のために大学側が統計を水増ししている可能性もあるとし、「これは公の秘密になっている」とまで報じました。

さらに「西安晩報」は、「たとえわれわれが『就業率90.7%』の真実性、客観性、正確性を認めたとしても、大学生の就業の実際状況について過度に楽観視したり、喜んだりすべきではない」とこの数字を冷静に分析するよう求めました。


大卒者の離職率、失業率が高い

その理由に大学生の就職後の離職率について触れ、国指定の重点大学を2009年に卒業した新卒生の半年以内の離職率は22%、2006年卒業の新卒生の3年以内の離職率は実に88%に達していると「西安晩報」は報じ、新卒生が就職した後により条件のいい職場を求めて離職するものの見つけられずに失業したままになっている現状を分析しました。

「西安晩報」は全体の失業率が4.1%であるに対して、年齢的・知識的強みを持つ大学卒業生に限っては9.3%に達しているとし、「このような高い就業率は喜ばしいことなのか?それとも憂うべきなのか」と疑問を投げかけています。

わたしは、これらの数値には大学生側と政府側の「思惑の違い」がはっきりと反映されていると考えています。政府は数字を出して、現状に対する責任逃れをしようとする。大学生側はその数値に反発しながらも、自分の能力を過信して「もっとキャリアを蓄積して自分の能力をつけてから大成しよう」という考えを持つことができない。両者ともに問題に気づかないことには永遠に解決できないのではないでしょうか。

数字の裏に潜むさまざまな思惑。中国の裏と表を読むのはわたしたちからしても大変だといえますね。

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*当記事はブログ「中国語翻訳者のつぶやき」の2011年1月25日付の記事を許可を得て転載したものです。


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