中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年01月28日
ジャスミン革命と「第三の波」
こうした民主化の波及というと、私はどうしても、ハンチントンが提唱した「第三の波」が思い出されます(シュムペーターのいう「第四の波」)。
「第三の波」とは、1970年代のヨーロッパから始まり(1974年のポルトガルの無血革命、1975年のギリシャの共和制移行、1977年のスペインでフランコ将軍の独裁の終了等)、1980年代のラテンアメリカ・アジアへ波及(1985年ブラジルの民政移管、1986年のフィリピンのマルコス政権打倒、1987年の台湾戒厳令解除、1989年の天安門事件)、そして1990年代初頭のソ連・東欧圏の崩壊・民主化と、世界中を襲った民主化の波を示す言葉です。
ハンチントンは「第三の波」の背景として、当該国の経済的失政や教育内容の向上、全世界規模のマスコミュニケーションの普及など様々な要因を挙げています。今回のアラブ諸国への波及については、インターネットに代表される情報技術発達の影響があると見られています。波及を恐れたエジプトは、反政府デモ参加者らの多くが利用していると見られるツイッターのアクセスを遮断したと報道されています(参考リンク:「エジプト:「ツイッター」遮断 当局が抗議拡大懸念か」『毎日新聞』)。
また、今回、民主化がアラブ諸国に波及した要因として、アラブ諸国に共通する長期(独裁)政権に伴う政府腐敗(王政、共和制といった違いはありますが)、政治的自由の制限、高い失業率などが考えられます。
独裁、腐敗、格差……アラブ諸国と中国の共通性
これらの要因を改めて見てみると、共産党独裁、根深い官僚腐敗、インフレ、貧富の格差の拡大などの問題がある中国も、ある意味、同じような状態に見えてしまいます。特に1989年の天安門事件を経験している中国政府にしてみれば、民主化の飛び火は他人事でなく、当然警戒を強めることとなります(参考リンク:「チュニジア政変 強権各国、ネット抗議の飛び火警戒"中国、分析・対応策急ぐ」『日本経済新聞 電子版』)。
ただ、経済発展を謳歌している中国が(それだけ現在の体制に、利益を受けている者が多いということを意味するが故に)、いますぐこうした体制危機を迎えるとは考えにくいことですが。
マスメディア不信とツイッターの相性
今回、エジプトで制限されたのがツイッターというのが大変興味深い点です(中国政府も既に制限しています)。これまではテレビ、新聞といったマスコミをコントロールしていればこと足りたわけですが、国民もいつまでも騙されてばかりいるわけもなく、こうしたマスコミによる報道が宣伝以外の何ものでもないことは既に広く知られてしまっています。
マスコミなど政府による「制度」を信じられない人々が何を信じるかと言えば、人と人との信頼関係に基づいた口コミ(コネ)です。たんなる口コミであれば、波及する範囲も限られており、影響力もたかがしれていました。しかし、口コミを信じる習慣が強いところでは、ツイッターが受け入れられるのも当然です。
「あの人が言っているのだから信じよう」という構図で、情報はまたたく間に広がり、大きな影響力を持つようになります(中国語は漢字だけなので、一般的に、同じ文字数であれば日本語の倍以上の情報が送信できると言われています。ツイッターという限られた文字数の通信手段にも中国語は適している側面があります)。
中国のコネ社会については、これまで悪い面しかこのブログの中では紹介してきませんでした。しかし、短所は時として長所となりうるもの。中国における口コミの威力とツイッターとの相性を考えると、中国政府がツイッターを敵視し、制限するのもある意味、理解できると思いました。