中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年01月30日
しかしご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、アバターの構想自体はジェームス・キャメロン監督自身が1994年にすでにつくり上げています。「アバター」が盗作であると言う主張が根も葉もない事実であることは、誰の目からも明らかでした。結果、北京市中級人民法院は周紹謀氏の主張を受理しない決定を下しました。
このように最近、「自分の作品を盗作した」として中国の作家が外国の映画や小説を訴える事案が増えています。
2009年6月には、中国の作家・周芸文氏が自身の作品「冒険小王子」をハリーポッターに盗作されたとして作者のJ. K. ローリング氏を訴えました。
この二つの訴訟事件で共通しているのは、訴訟対象が外国の、それも世界的に有名な作品であるいうことです。しかも訴訟を起こした時期が発表当初ではなく、有名になってからなのであり、不自然であることは一目瞭然です。このことから完全に、「著作権侵害」というもっともらしい名目の下でいいがかりをつけ、お金を無心しようとしている行為なのが分かります。
ここで作者のモラルや、著作権に対する知識の低さを非難することは簡単です。しかし、ここからもっと根本的な問題が見て取れます。それは中国国内と国外で、創作に対する作者のモチベーションに大きな違いがあるということです。
これまでの中国のテレビドラマ、映画、漫画等を見れば、その大部分が過去の作品の付け焼刃なものや外国作品をそのまんまコピーしたものであることがわかります。これは、日本や欧米の同業界と比べても対照的です。結果、中国の一般大衆は外国作品に目が行ってしまうのです。要するに、「新しいものを生み出そう」とする意識が中国国内の文化芸術産業全体にないのです。
中国人なら誰でも知っている有名な喜劇俳優・趙本山氏が、1年に一回行われている春節の夕べのコントにもう20年も出ずっぱりなのがそのいい例でしょう。
その理由に中国人作家、演出家、クリエーターの現在の興味の対象が「お金」なのであり、「創作」ではないことが挙げられます。日本やアメリカでは、売れればお金を含め、一般市民からの反響、賞、名声など相応に返ってくるものが得られます。他の同業者と高いレベルで切磋琢磨できる環境も整っています。
しかし、中国ではどんなにがんばっても作家やクリエーターが企業の社長さんなど企業家や、投資家以上の経済的な報酬をもらうことはないのです。なら、手っ取り早く起業してお金をかせいじゃおうかという話になってしまいます。また文化芸術産業は共産党に握られており、政策が共産党のさじ加減1つで変わってしまったり、言いたいこともいえない環境にあったりすることにもストレスを感じているのでしょう。
中国政府もクリエイティブ産業振興政策を打ち出したり、アニメ産業基地などを作ったり、日本からちばてつやさんらを招いて南京大虐殺記念館で日本の漫画家の合同展を開いたりして、努力しているようですが、あまり効果が上がっていないようです。
現在の中国人自身が創作の才能や技術がないわけではないのです。現にジブリ作品のエンドロールを見れば、多くの中国人アニメーターが参加しているのがよく分かります。さらに2008年には、中国人作家の楊逸さんが芥川賞を受賞しました。ポテンシャルはひょっとしたら日本人以上かもしれません。
問題は彼らの創作に対するモチベーションのみなのです。報酬の問題も含め、中国政府はもっともっとこの問題について真剣に、かつ優先的に考えてほしいと思います。
*当記事はブログ「中国語翻訳者のつぶやき」の2010年3月11日付の記事を許可を得て転載したものです。