中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年02月01日
2010年を代表するネット炎上事件に
翌17日、ネット掲示板に事件を伝えるスレッドが掲載された。「官二代」(官僚の子息)の人の命をなんとも思わない傲慢な態度、とりわけ「オレの親父は李剛だぞ!」とすごむ、今やマンガにすら出てこなそうな典型的な「七光り頼みのボンボン」キャラクターが注目を集めたのではないだろうか。
ネットでは李啓銘と李剛の「人肉捜索」(ネットユーザーが協力して個人情報を暴くこと)が行われ、職場や資産(保定市市内に住宅5軒を所有!)を特定。さらに中国のネットには「オレの親父は李剛だぞ!」のパロディがあふれかえった。さらにテーマソング「オレの親父は李剛だぞ!」まで作られる始末。これがなかなかの名曲だ。
もしネット掲示板への書き込みがなければ、もしネット民がこれほど注目しなければ、事件は闇に葬り去られていたかもしれない。しかし、すさまじいばかりの盛り上がりがそれを許さなかった。李啓銘、李剛親子はテレビの取材で号泣してみせ、司法関係者は親が誰であろうとも、法に則って厳格な刑を下すと明言した。
ネット民は勝利したのか?
だが、ネット民は勝利したのだろうか?北村豊氏の記事「【続報】「俺の親父は李剛だ、文句あるか」(日経ビジネス)は、中国メディアの報道が禁じられる中、「謝罪、口封じ、解剖、弁護士解任、示談というお決まりのパターン」が着々と進められていると指摘した。
被害者の父親は示談に応じるよう強要され、被害者側弁護士は解任された。加害車両の走行速度も実際よりも低い鑑定書を警察が発行したという。「その結果として李啓銘に対する判決が軽いものとなるであろう」と北村氏は予測しているが、実際その通りの結果となったようだ。
1月30日、河北省保定市望都県人民法院で、「李剛事件」の一審判決が下された。裁判所は交通事故罪を認定。懲役6年を命じた。中国の刑法133条・交通事故罪の規定では、死亡事故後のひき逃げは懲役7年以上を課すと定めている。しかし裁判所はひき逃げ事件ではないとの見方を示し、「重大な交通事故事件」(懲役3~7年)と認定。示談が成立していること、李啓銘が改悛の情を示していることなどを理由に、6年と量刑を定めている。
特に悪質な交通事故では、「危険方法による公共安全に危害を加えた罪」が適用されることもあるが、裁判所は同罪の適用は意図的に公共安全を脅かそうとした場合にのみ適用されると指摘。最高人民法院の「酔っぱらい運転法適用問題に関する意見」(2009年)でも、「事故後に継続して運転し大きな被害をもたらした場合」と規定されているとして、適用を見送った。(以上、裁判については1月30日付新華社記事を参照)
懲役6年とはいえ、刑期の半分にあたる3年を過ぎれば仮釈放が認められる可能性がある。中国ネット民からは明らかに甘すぎる判決だとの批判の声が上がっているが、事件直後の2010年10月のような盛り上がりはもはやない。