中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年02月03日
「エリート」のはずの大学生、肉体労働者よりも稼ぎが少ない?!
まずは上掲南方日報記事を一部紹介する。
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2010年11月に開催されたシンポジウムで、中国社会科学院人口労働経済研究所の蔡昉所長は、近年、大学生と出稼ぎ農民の初任給格差が縮小していることを明らかにした。
2003年、2005年、2008年のデータによると、大学卒業生の平均初任給は月1500元(約1万8800円)と変わらず。一方で出稼ぎ農民の給与は700元(約8800円)から1200元(約1万5000円)まで上昇している。「新卒の給与が出稼ぎ農民より少ないこともある」という。
宅配便従業員、技術を持つ建築現場労働者など一部の肉体労働者の年収は10万元(約125万円)を超えるケースもあり、エリートであるはずの大卒者と逆転しているケースも珍しくない。もちろんこうした状況は一般的なものではないが、情勢の変化を示すものではある。
かつては「無限に供給される」と言われていた出稼ぎ農民も、中国が「世界の工場」「世界の建設現場」へと変わるにつれ、中国工業が内地への移転が進むに連れ、不足するようになってきた。
労働者の給与上昇ペースは驚くべきものだ。2010年前半、フォックスコンでの連続飛び降り自殺事件、ホンダストライキ事件があった。その後、中国各地で最低賃金の引き上げが続いた。その上げ幅は30~40%に達する。
一方、大学卒業生の初任給は一向に変化しない。2011年の『中国社会青書』によると、2006年から2008年にかけ、4年生卒業生の初任給は微増にとどまった。2008年にはわずかとはいえ下落している。「985プロジェクト」に採用された有名大学の博士課程卒業生の初任給は2005年から2010年の間、ほとんど変化していない。修士卒業生の初任給だけが大きく上昇している。
この10年で中国の大学卒業生は年間100万人から6倍の600万人に膨れあがった。一般家庭出身者は月1000~2000元(約1万2500~2万5000円)ぽっちの給料をもらいながら、1平方メートル数万元の住宅購入を夢見ている今、「知識が運命を変える」という言葉は現実とは異なるものとなった。
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最初のキャリアを積めるか積めないかが勝負
出稼ぎ農民というか労働者のほうが、必死こいて勉強して大学に入った「エリート」大学生よりも給料高いのかっ?!なにかおかしくないか?!
というのは昨年、ずいぶんと騒がれたネタ。もっとも平均初任給が上がらないとはいえ、名門大学の人気学科では話は別。またキャリアを積めば最終的に出稼ぎ農民よりも大学卒業生のほうが待遇的には優位になるという。
問題はどうやってキャリアを積むか。仕事をしなければ、経験を積むことも出来ないが、大学卒業生の数が多すぎて、最初の入り口にたどりつくことも難しい。そのために初任給が安いのは当たり前。給料ゼロでもいいから働かせていただく、というケースすらあるという。
私立大学を潰してしまおう
こうした状況を変えるべきと中国人民大学就業研究所は驚くべき提案をしている(21世紀網、2011年1月28日)。すなわち、三本大学(中国の統一大学試験「高考」後の出願で第三期出願に分類されている学校。民間資本や自治体独自の出資による学校)を職業学校に転換し、高等教育の定員を縮小せよというもので、これまで拡大が続けられてきた高等教育の定員増の潮流を反転させる内容となった。
就業研究所の提案は、問題を民間学校のみに押しつけるものであり、とても実現するとは思えない。だが、大学定員の拡大(院生を含む)が社会のニーズから乖離していることは間違いない。かつて記事「「大卒はエリートなのか?」蟻族、教育大衆化の帰結―金ブリ浪人のススメ」で「蟻族」(2000年代後半以降急増している、大卒でありながら良い給料の職に就けない若年者層)の話を紹介した。
理想の仕事が見つからず、困窮を余儀なくされている彼らだが、「いつかは必ず成功する」と楽観的な者が多いという。だが、大学卒業生の数は今後も年々増え続け、職にあぶれた「蟻族」たちも増えていくだろう。キャリアを積めないまま、年齢を重ねていく「蟻族」の中には、成功できない者も少なくないだろう。そうした現実をつきつけられた「蟻族」の大群は、その時、どうするのか……。
というのがおきまりの話だが、キャリアを積めないまま、フリーターとして年齢を重ねている大学卒業生が大量に存在するという点では、日本のほうが中国よりずっと先行しているというべき。大衆化した大学と社会のニーズがミスマッチを起こした果てに何が起きるのか、それは中国の前にまず日本を見よ、というところだろうか。