中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年02月22日
広西壮族自治区の思的村は「毒米」の産地として80年代から知られていて、食糧市場が自由化していなかった当時、米を備蓄・流通用に購入する政府担当者も「あなたの村の米は毒があるから」と言い放ち、買い上げもせず、住民はその米を食べるしか他になかった。1986年時点で土壌におけるカドミウム含有量は7.70ミリリットル/kgと、国の基準の26倍の値であった。
稲作の水源は村を通る思的河、その汚染源はその河の15キロ上流にあった亜鉛鉱山。この鉱山は規模は大きくないものの1950年代から国営で採掘が進められ、カドミウムを含んだ廃水は灌漑用水として村民の耕地に流れていった。
地域的には華南中国により多く偏在
2007年、南京農業大学農業資源及び生態環境研究所の潘根興享受のグループが全国6地区の件クラス以上の市場でランダムに91の米サンプルを買い調べたところ、やはり10%程度がカドミウムの基準値を超えていた。同教授の研究によれば、中国の重金属汚染は南方の米(訳注:原文「籼米」)が多く、特に湖南、江西などは汚染が深刻である。南方の酸性土壌で植えているハイブリッド米は、通常の米よりもカドミウムを吸収し易いということが理由の一つとして考えられる。
【汚染米に関する分布図】(訳注:代表的な事例のみ)
中国科学院の研究者は「中国の耕地の1/5が汚染されている」といった一般に見られる見方には疑問を示しており、汚染地域はやはり10%程度であろうと結論付けている。汚染物質の中ではカドミウム、ヒ素が最も多く、それぞれ汚染耕地の40%でみられている。
「耕地は汚染されていると報告して欲しい」
中国では重金属に汚染されてしまった耕地での栽培を制限するルールは無く、今もそのままコメ生産が営まれている。政府が汚染米を流通段階で禁止しながら、栽培を禁止していないのは自己矛盾であるとの指摘もある。流通段階で取り扱いを嫌われるので、一般的には重金属汚染米が都市にまで来ることは少ないと言われているが、農村住民が豊かになる中、汚染米を売って、それより高いお金を出しても安全なお米を買いたいという農民も現れ、汚染米が都市部に紛れ込む可能性もにわかに増えている。
2005年には環境保護部、国土資源部が全国を対象に土壌重金属汚染に関する調査を行った。その結果は2008年には公表される予定であったが、今もって公表されていない。技術的な問題と言われているが、諸々の配慮を考えると、最終的には汚染土壌の全国的な概数の公表に止まり、個別の汚染地域、汚染源は公表されないとみられている。
対策も無いわけではない。ヒ素やカドミウムを吸収する植物を利用する方法や、稲がカドミウムを吸収しなくなるような特殊な栄養液の開発なども進められている。しかし、広く普及するには至っていない。潘根興教授は各地の地方政府に招かれ報告を書いているが、地方政府は耕地が汚染されていて修復不可能と書いて欲しいと希望しているという。そうすれば、土地用途を変更して都市建設に使えるようになるからだ。こういう状況で、地方政府に土壌汚染を修復するインセンティブは働いていない。(ここまで新世紀記事抄訳)
うちの省・市には「毒米」はありません!
この記事を受けてか、「镉污染大米」と検索すると、この数日の多くのニュースが出てきます。ニュースを伝えつつ、北京、上海を始め、特に地方紙・サイトは「うちではカドミウム米はありません」と懸念を打ち消すニュースが各地からみられます(例えば北京はこちら、上海はこちら)。今回の報道のインパクトと、消費者の懸念との裏返しなのでしょう。新浪微博(中国の最大手マイクロブログ)でも「何を食べたらいいんだ!」と怒りのコメントが多数。
日本でも、食品名や産地やらを公表して(しかもそれが誤解を含んでいたりして)大きな風評被害、波紋を呼んだことは「カイワレ大臣」のO-157などもあり有名ですが、今回未公表となっている土壌汚染調査の結果も、詳細結果を公表できないのは諸々な制約が予想されます。サーチナが行なっているカドミウム米のリスクに関してアンケート調査では、中国人のこの問題への見方は割れているようですが、全国調査の結果が公表されていないことなどは、やはり今後不安をかきたてることでしょう。「うちは湖南、江西の米は入れていません」なんて逆宣伝されてしまっている米どころの地方省には厳しい現実です。
中国の農業・土地制度と「汚染米」の因果関係
汚染自体も人為的なもの(鉱山の採掘)から始まっているとは言え、対策の方でも技術的問題に加えて、経済・社会的な問題が大きく絡んでいるのだなあと根深さを感じます。特にびっくりしたのは「汚染されていると報告して欲しい」という地方政府の反応。これまたこのブログでも何度か書いてきた、農地と都市建設用地の問題にもつながるのだと思い、農業関連環境汚染への対応の難しさを感じさせられます。地方政府が公益よりも市場経済な意味での「収益」に走ってしまっている様子が伺えます。
ただ、上記のように1980年代から問題は明らかになっていて、既にイタイイタイ病のような(まだ確実にそうという診断はないという、慎重な書きぶりですが)具体的な健康被害がこれだけ報道される中、こればかりはさすがに政府の強い措置が必要になってきている段階です。記事にもありましたが、各種の廃水を垂れ流していたのは多くが各地の国有企業、そうなると直接的にも国の責任がありますし、そしてそれを果たせるだけの体力もついてきた政府の役割を期待したいです。潘根興教授が本日付ChinaDaily紙インタビューでも語っているように、「都市の人はそれほど心配はいらない。結局最もリスクがあるのはその土壌でできた米を食べざるを得ない貧しい農民」なのでしょう。
*当記事は2月16日付ブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。