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<中国ジャスミン革命>たった一つのつぶやきが中国政府を驚かせた=不思議な「革命」の姿を追う

2011年02月25日

「中国ジャスミン革命」(という名の「集会呼びかけ」)について、多くの記事が出ているが、詳細な経過を解説したものはないようだ。中国語ブログ「阿禅日記」の記事「一つの、美しい検閲ワード」、そして在米華人ジャーナリスト・何清漣のブログ記事「偉大なマジックリアリズム作品=2月20日ジャスミン革命」がきわめて明晰に紹介しているので、ご紹介したい。

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*画像は北京市の集合地点。博訊網の報道

・2月17日、最初の呼びかけ
不特定多数に対して、「中国ジャスミン革命」が呼びかけられたのは2月17日。ツイッターアカウント「mimitree」のつぶやきだ(なおアカウントは現在、すべてのつぶやきを消した状態となっている)。その内容は次のとおり。
中国‘茉莉花革命’初次集会日期已定,2011年2月20日(星期天)下午2時,全国各大城市集合地点将提前一天在博訊新聞網公告,希各周知。如届時情況有変不能及時通知,請自行前往各大城市中心広場。

中国「ジャスミン革命」、最初の集会の日時が決まった。2011年2月20日日曜日午後2時。全国各地の大都市での集合地点は前日に博訊新聞網で発表する。各自周知されることを希望したい。当日は変更があっても速やかな通知は出来ない。各自、それぞれの都市の中心広場に向かって欲しい。


完全匿名の「革命」呼びかけ

きわめて興味深いのは、この「mimitree」(ユーザーネームは秘密樹洞、秘密の木の洞)が個人アカウントではなく、「匿名つぶやき代行サービス」という点。「秘密樹洞」というウェブサイトにコメントを書き込むと、「mimitree」というアカウントが代わりにつぶやいてくれるという仕組み。日本語ならば「王様の耳はロバの耳」サイトとでも名付けるべきだろうか。

「中国ジャスミン革命」の呼びかけは完全な匿名で行われたばかりか、その後の呼びかけなど今にいたるまで「中国ジャスミン革命提唱者」というきわめて記号的な名前しか使われていない。「中国革命を起こす会」だとか「個別の十一人」だとかいうハンドルネームすら用意されていないのだ。なお匿名とはいえ、ウェブサイト「秘密樹洞」を訪問したIPは記録されている。「阿禅日記」によれば、警察が「秘密樹洞」の作者宅を訪問。サーバーログの開示を求めたという。

この「mimitree」経由のつぶやきは、それなりにリツイートされたとはいえ大きく広がってはいない。最初に人目を集めるきっかけとなったのは、17日、米ラジオ局「ラジオ・フリー・アジア」でつぶやきが紹介されたことだった(リンク)。中国メディアが報じない人権問題や民主化問題を伝える、米国政府の資金で運営されている同サイトを通じて、呼びかけは広がっていった。

何清漣によれば、その後、匿名のネットユーザーによりグーグルマップ上に「中国ジャスミン革命」の地図が作られ、さらに別の場で「私たちには糧が必要だ。私たちには仕事が必要だ。私たちには住みかが必要だ」というスローガンが発表された(スローガン全文は過去記事参照)。

最初のつぶやき、13都市の集会場所決定、統一スローガンの発表。そのすべてがウェブサービスを利用して、完全な匿名のもとに行われている。提唱者の素性がわからず、本気の呼びかけかどうかもわからない。それどころか、最初のつぶやきと集会場所の決定者が同一人物なのか、それとも全く無関係の便乗者なのかすらもわからない、不思議な「運動」が始まったのだった。


・2月19日、「革命」前日の呼びかけ
19日、過去記事「ネットで中国版「ジャスミン革命」の呼びかけ=ネット掲示板、ツイッター、フェースブックで反響広まる」で紹介した呼びかけが、博訊網に掲載される。これも「匿名の投稿を転載した」
というスタイルがとられている。

博訊網は、在米の華人ソフトウェア技術者であるワトソン・メイ(韋石)氏が運営する中国の人権・民主情報を伝えるニュースサイト。中国本土在住の市民記者の投稿により運営されている(参照リンク:「市民記者 真実発信 『壁』を崩せ」(東京新聞、2007年9月5日)。前述のラジオ・フリー・アジアと博訊網、それに香港の中国人権民主化運動情報センターがこの手のニュースが集まる御三家と言えるだろうか。

博訊網掲載の呼びかけを、BBC、ボイスオブアメリカ、それから産経新聞を皮切りに日本各紙、ついでに「KINBRICKS NOW」が報じるなど注目を集めていく。「釣られすぎだろwww」との批判する人もいたが、中東諸国で政府への抗議運動が激化する中、中国では「ジャスミン革命」を冠した活動の呼びかけがあれば、メディアが見過ごせようはずもない。

呼びかけ文に書かれた内容がいかに革命とはほど遠い内容であったにせよ、今の中国で革命が起きるとは信じられないにせよ、だ。各メディアともに「呼びかけがあった」という事実を短く伝える、抑制された報道だったように記憶しているので、「釣られた」批判には正直疑問を感じている。


・2月19日、中国政府の厳戒態勢
釣られたというならば、中国政府こそがそう呼ばれるにふさわしい。民主化活動家ら100人以上に対し、警察による自宅訪問や軟禁を実行した。上述したように、一切が謎に包まれた「中国ジャスミン革命」は、既存の民主化シンパとは全く違うルートで提唱されており、当局にマークされた民主化活動家らにしても、「いやいや、今回は俺らちゃうねん!」と叫びたいところだったのではないだろうか。

さらに中国最大のチャットソフト・QQでは、多人数のグループチャット機能が封鎖され、中国版ツイッター・微博でも「ジャスミン(茉莉花)」が禁止ワードに設定されるなど、ネット検閲も強化された。また、政府側に有利な見解を書き込む「五毛党」(サクラ)も大量動員され、やれ「中国ジャスミン革命」は米国の陰謀だ、違法だと大々的に宣伝を繰り返したという。


・2月20日、「中国ジャスミン革命」当日
大量の警官、私服警官、外国メディアが集合場所に集まる中、「参加者」らしき人はきわめて少数。あるいはほとんど見られず。多くの人がそう伝えている。

かくいう私も天津の集合地点を訪れたが(過去記事「<中国ジャスミン革命>天津よりツイッター実況=壮大な釣り?変革の兆し?」)、当初は全く同じ感想を持った。

北京は繁華街のマクドナルド前、上海は繁華街の映画館前と人通りが多い場所が集合地点に指定されていたが、天津はなぜかひなびた観光地である鼓楼に指定されていた。日曜日とはいえ、出店の数は申し訳程度。その周りにぱらぱらと集まる人々。いつもと全く変わらないのどかな風景に見えた。ツイッターをチェックすると、「天津の現場は誰も参加者がいないよ」とのつぶやきがある。

しかし、その世界は一瞬で変わった。大きな紙のポスターを手に男2人が走りでてきた。なにか訴えようとしたが、話す間もなく警官に取り押さえられる。騒ぎを見て、私もすぐにその場に駆けつけたが、周りを見ると多くの人々が現場を取り囲んでいる。

「野次馬」文化がある中国、こうした騒ぎがあると、すぐに野次馬が集まるのが常。「中国ジャスミン革命」のことなど知らない人がほとんどかもしれない。しかしその中には先ほどの「参加者がいないよ」とつぶやいたツイ民もいるはずだ。呼びかけを知りつつも、観光地をぶらついていたかのように見せかけていた人が含まれていたはずだ。何も知らない通行人と、何かを見るために集まりあるいは参加さえ考えていた人々との違いは、まったく分からなかった。


集合場所の妙

マクドナルド前、映画館前、ケンタッキー前、スターバックス入り口……。あまりにも俗な「中国ジャスミン革命」の集合場所。しかし、今、思えばきわめて合理的な選択肢だったのではないだろうか。たんに人通りが多く、通行人にアピールできるからではない。たんなる通行人と参加者がまったく区別しえない空間ができあがるからだ(その意味では天津の場所選びは完全に間違えている。繁華街にしておけば……)。

呼びかけ文によれば、20日の活動内容は次の通りである。

私たちはただ指定された場所に行くだけでいい。遠くから眺め黙々とついていき、もし状況がそうなった時に勇敢にもあなたのスローガンを叫ぶだけでいい。あるいは、その瞬間から歴史が変わり始める。
ただその場所に行けばいいだけ。そこにおいては、通行人と「参加者」を区別する手立てはないと言っていいかもしれない。


毎週日曜日は「中国ジャスミン革命」の日

24日、博訊網に27日の呼びかけ文が掲載された。最初の呼びかけ文に「もし今回集会が成功しなかった都市では、毎週日曜日の午後2時に訪問を続けよう。継続こそが勝利だ!」とあり、今後も呼びかけは続くのだろう。集合地点は前回より10都市多い23都市となった。

呼びかけ文のタイトルは「「ジャスミン」微笑革命、散歩継続の予告=23都市の集合場所を発表」と、「散歩」であることがより前面に打ち出されている。ただ集まってうなづきあい、ほほ笑みあい、見知らぬ人同士で物価や住宅価格高騰問題などについて井戸端会議をすればいいのだ、と。

これに対し、中国政府は厳罰をもって封じ込めを計るようだ。故意の参加者、あるいはネットで「中国ジャスミン革命」情報をつぶやいたり転載したならば、国家政権転覆罪を適用する方針だという(参照リンク)。ツイッターでのリツイート一発で懲役5年、というケースも考えられる事態だ。また北京市の集会地点であるマクドナルド前では謎の工事が始まったとか。場所そのものを集まれないようにしてしまおうという腹だろう。

不思議な呼びかけと当局の過剰なまでの反応。その先に何があるのだろうか。27日も20日同様、おそらく大したことは起きないだろう。「中国ジャスミン革命」はさまざまな局面で大きな影響力を与えているが、しかし最終的に何かを直接的な形で生み出す可能性は低いように思っている。

次回の記事では、今の中国で革命が難しい理由を考えてみたい。

<中国ジャスミン革命特集>
ネットで中国版「ジャスミン革命」の呼びかけ=ネット掲示板、ツイッター、フェースブックで反響広まる―中国、2011/02/19

<中国ジャスミン革命>革命という名の「散歩」=勤勉な中国当局と治安コスト、2011/02/20

<中国ジャスミン革命>天津よりツイッター実況=壮大な釣り?変革の兆し?、2011/02/20

<中国ジャスミン革命>本当に失敗だったのか?「残念」な革命が残した大きな影響、2011/02/24

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 コメント一覧 (4)

    • 1. アレックス
    • 2011年02月26日 02:27
    • この記事読むと、かなり手の込んだことをしてるんだなと実感。

      いきなり天安門とかでやったら露骨すぎますもんね(汗)。

      ただ、ここで勢いが付けば、ホントに天安門で実行しかねないなとも。次回の記事次第で考えが変わるかもしれないですけど(苦笑)。
    • 2. Chinanews
    • 2011年02月27日 18:04
    • >アレックスさん
      手の込んだというか、「不思議」というか。
      天安門にはならないと思うのですが、やる側のコストが安すぎて、忘れ去られるまでえんえんと続きそうだという……。
    • 3. 栗とリス
    • 2011年04月05日 22:29
    • 天安門事件から20年人災は忘れた頃にやってくる今ジャスミン革命が起これば中国政府も隠しようがないでも力で弾圧するから勝てそうもない。
    • 4. fitflop
    • 2013年10月08日 15:44
    • <中国ジャスミン革命>たった一つのつぶやきが中国政府を驚かせた=不思議な「革命」の姿を追う : 中国・新興国・海外ニュース&コラム | KINBRICKS NOW(キンブリックス・ナウ)

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