中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年03月04日
市が一般市民の外出状況を把握、携帯電話の位置情報を利用―北京市(レコードチャイナ、3月2日)
中国の首都・北京市が、大手携帯電話キャリアの中国移動(チャイナ・モバイル)からのデータを土台にして、一般市民の外出動向情報システムを構築しようとしている。
特定地域の人口分布や、時間帯に応じた人口の流動分布を調べ、交通渋滞対策など市政府の政策に反映させようというもので、将来的には個人にカスタマイズしたサービスに発展させる可能性もあるという。
交通渋滞解消が目的、か?
このシステムは、携帯電話基地局接続者のデータをリアルタイムで取得するというもの。マクロ的に見れば、どの地域にどれだけの人が住んでいるのか、時間ごとの人口動態などが一目瞭然になり、交通渋滞解消などに役立つデータを提供できる、という触れ込みです。
とはいえ、「中国ジャスミン革命」がなにかと騒がしい今、発表されたことを考えても、治安管理のための道具なのではないか、個々人の居場所まで特定されてしまうのではないかと不安になるのは当然。ある事件が起きた時に付近にいた人間は誰か、なんていう情報も簡単にしぼりこめるでしょう。
ハイテクの「革命」、ハイテクの治安管理
ツイッター革命だ、フェースブック革命だ!と情報技術の進歩が民主主義に寄与するという論も一部にあるようですが、一方で当局こそがハイテク技術を導入した「監視社会2.0」を形成しつつあることを注意するべきでしょう。
上述の携帯電話基地局によるリアルタイム位置情報監視システムは、これから導入が始まるものですが(とはいえ電話会社からのデータ提供とその処理システムだけなので、システム作成はそう難しいものではないのではないか)、現在バリバリ稼働中なのが監視カメラシステム。
2009年にAP通信が報じた数字では中国全土に275万台が設置されているとのこと。その後も猛烈な勢いで設置が続いています。2009年のウイグル暴動では監視カメラ映像を元に実際の参加者を割り出すという作業が行われていましたが、一般の殺人事件などでも監視カメラが事件解決の決め手になるケースが増えています。
独裁コストの削減を担う情報技術
「中国ジャスミン革命」に過敏ともいえるほどの反応を見せた中国政府。民主化活動家、弁護士を拘束したり、あるいは民主化シンパのツイッターユーザーを訪問したりと警察は大忙し。もちろん毎週日曜日の集会日ともなれば、各都市警察が大量に出動。現場に張り込みます。
さらに不都合な情報を取り締まるネット監視員の数も膨大です。一説には30万人にのぼるとも。とても信じられない数ですが、あるいは本当にと思わせるようなことも。例えば、動画共有サイトでは「規則違反」の動画がアップロードされるのを防ぐため、目視チェックを実施しているようです。なんともアナログ!
というわけで、中国の「治安管理コスト」は年々上昇する一方です。このコストを支払いきれなくなれば、独裁体制維持は困難となるでしょう。その意味でも「中国ジャスミン革命」は中国共産党にとって脅威ではないかと思いますが、あるいは情報技術が独裁コスト削減の切り札になるかもしれません。
集会場所に設置された監視カメラ。その映像をコンピューターが顔認識、携帯電話の位置情報と照らし合わせて個人を特定。毎回毎回集会日に来ていることが判明すればお説教。ついでにその人間のウェブ閲覧、チャット、メール履歴までぱっと表示できるようになれば、こりゃもう当局のお仕事も随分楽になるというものではないでしょうか。