中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年03月09日
・翻訳のボランティアがいる
いくら日本のアニメや漫画が好きでも日本語までできる中国人は多くありません。しかし初音ミクが好きでも歌詞がわからなきゃ感動できないし、東方projectの二次創作漫画が好きでも漫画の台詞が読めなきゃ楽しめません。
だから視聴者はコメント機能を使って動画に中国語訳を書いてくれる《野性字幕君》を待っています。
野生の字幕君は字幕を動画の下部に載せることがほとんどですが、まれに台詞の隣につけることもあります(動画を保存していなかったため画像はなし。すいません)。
動画共有サイトへの漫画アップロードって、通常、一コマあたり10秒程度は字幕を表示します。ところがbilibili動画だと投稿したコメントは5秒程度で消えてしまいます。読めなくはないでしょうが、字幕を追うだけで疲れそうです。
また、あまりにも長い動画だと訳者が参ってしまい、後半になると何の字幕もない動画も少なくなりません。なので視聴者は『字幕君頑張れ!』や『怠けんな!』と叱咤激励して、字幕の続きを要求します。
以前は漫画とかアニメってちゃんと字幕が付けられてから(翻訳の精度はさておき)アップされていて訳者=投稿者という関係が多かったと思います。でも誰でも投稿できる環境と後付けが可能なサイトができたおかげで、投稿者がアップし続ける動画に訳者がひたすら字幕をつけるという上下関係が生まれて、両者の分業化が進んでいるんじゃないでしょうか。
今では投稿者に『○○さん翻訳頼みます』と指名されるぐらい有名になって、新作動画に欠かさず字幕をつけるという、野性なのにどこでも出没する字幕君がいるのも面白いです。
ちなみに放送したてで字幕が付いていないアニメは『生肉』と、字幕完備のアニメには『熟肉』と呼ばれています。
・水銀燈が銀様と呼ばれていない。
bilibili動画では大多数の投稿者は動画製作者とは異なります。ニコニコ動画で有名な
作品ならジャンル構わず投稿する人間もいるので、ローゼンメイデン関連の多少古い動画もたくさん上げられています。その中で水銀燈が主役のMAD『粉雪』があるのですが、主席というコメントが散見しました。
なんで水銀燈が主席なんだ?と少し考え込んでこんな予想を立ててみました。
水銀燈のファンは水銀党員と呼ばれ、彼女を支援する団体は水銀党と呼ばれます。その党首はもちろん水銀燈。中国で党首と言ったら主席を指すということかと(アンサイクロペディア中国語版「水銀燈」参照)。
ちなみに真紅のファンは真紅衛兵と呼ばれるらしいです。どっちも相手にしたくない。
・霊夢が恐怖の対象
中国でも人気の同人ゲーム東方projectの二次創作漫画、ニコニコ動画では《東方手書き劇場》と呼ばれている動画もbilibili動画には大量に転載されています。ニコニコ動画と同じ調子のコメントもちろん野生の字幕君が書き加えた字幕もあります。
そんな中、主人公霊夢が登場すると決まって流れるコメントがあります。
「城管来了」(「城管がやってきた!)とまるで鬼でも来たかのような反応。
「城管」(都市管理局、過去記事参照)とは路上で無許可に営業している露天商を取り締まり、時には暴力を振るって都市の秩序を守る公的機関です。中国人には妖怪を退治する霊夢の姿が城管と重なって見えるのでしょうか。ヒドイあだ名ですが城管になぞらえているのは言いえて妙だとも思います。
水銀燈を主席と呼び、霊夢を城管と形容するのはbilibili動画特有の現象ではありません。中国人オタクの間では既に常識となっている用語がサイトのコメント機能によってよりはっきり可視化されただけです。
しかし日本とは異なる見方がある以上、中国人オリジナルの新たな二次創作が生まれるんじゃないかなぁと想像できます。実際、bilibili動画上では中国人が描いた漫画もアップされていますし。ただし主席にかけて天安門広場の毛沢東の肖像画を水銀燈に差し替えたイラストなんか描けば、やって来るのは城管どころじゃありませんので扱うネタには注意が必要です。
・ブラックリスト
あと、以前ご紹介した黒名単(ブラックリスト)はまだあります。
相変わらず共産党とか法輪功とか胡錦涛とか操你媽とか物騒な言葉はNGのようですが(こんな言葉と同列にされて胡錦涛はどう思うんだろう)、127とか151とかの単なる番号までNGにしているのは何故か。QQ番号を書かれるのがイヤで、3桁以上の数字なら問答無用で禁止しているのでしょうか。
何の工夫もなくデザインまでTwitterやFacebookのパクリのSNSサイトや、優酷などの著作権無視な動画サイトが中国人ネットユーザーに受け入れられ、中国という排他的な立地条件の庇護の下収益を上げている現状もありますし、ニコニコ動画のコメント機能などを搭載したbilibili動画には思うところがあります。
しかし中国国内でニコニコ動画が見られなくなった今、bilibili動画は、市場には上らない日本の局所的なオタク・カルチャーが見られる数少ない場所でもあります。そうした釈然としない思いを抱えたまま、ボクは今日もbilibili動画を開きます。そして、あの動画も転載されないかなぁと日本にいたときの贅沢を思い出すのです。
*当記事はブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の許可を得て転載したものです。