中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年03月11日
この大変な役をアヌパム・ケールが熱演する。ちょっとユーモラスで時に悲哀に満ちた表情に胸を打たれる。軽い徘徊をするようになり、にこにこしながら家に戻ってきた父を心配して怒鳴る娘。怒られてしょんぼりした父の手には野草の花束が・・・きょうは娘の誕生日だったのだ。そのことは忘れていなかったのだ・・・のシーンにはちょっと涙。この人の役柄の幅の広さは間違いなくボリウッドのトップクラスであろう。ウルミラも好演。彼女は本当にいい女優さんになったなぁ。
ダンスシーンはないが、芸術映画と言うほど難解でも堅苦しくもない。過度な演出がない分、シンプルにテーマが浮き彫りされている。そして家族の在り方にスポットを当てた作品と思いきや、最後にはインド愛に溢れてしまうところなどは、さすがインド映画である。
正直言って、こういう映画が撮れるということに驚いた。認知症になる可能性は誰もが持っているし、その家族になる可能性もある。その問題となるポイントが驚くほど日本の感覚と似ていて、これはもう絶対他でも上映してほしいと思った。がんばりすぎない、抱え込みすぎない、誰かに相談したり頼ることは悪くない、時には必要なことなんだ・・・と。
福岡国際映画祭で初代観客賞に選ばれたのは、この作品が日本人に受け入れられた結果だろう。500円ではもったいなさ過ぎるほど十二分に満足の作品だった。
*当記事はブログ「インド映画通信」の許可を得て転載したものです。