中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年03月11日
幼稚園人気の高まり
元々中国では20年ぐらい前までは、子どもを幼稚園に入れさせる親はそれほどいませんでした。それにはいくつか理由があります。第一に経済的な理由でしょう。20年ぐらい前までは、中国社会も発展途中であり、教育にそれほどお金をかけられなかった現実があります。また多くの学校は公立で学費はほぼ無料だったため、「小学校まではがまん」という親が多かったといえます。加えて、三世帯が同居する家庭が普通だったこともあり、両親が共働きだったとしても、おじいちゃん、おばあちゃんが子どもの面倒を見ることが可能だったという事情もあります。
しかし1990年代後半、および2000年以降になると中国の家族事情も大きく変わります。経済発展で個々の生活水準も向上し、子どもの教育にお金をかけられるようになりました。
元々教育には非常に熱心な民族性を持つ中国人であり、生活水準の向上により、自分の世代にはできなかったことを子どもに託す親が続出しました。加えて、欧米や日本からの価値観の輸入により、中国人にも核家族化が進んだ結果、おじいちゃん、おばあちゃんが子どもを面倒を見ることができる家庭が減っていきました。
その結果、全国各地の都市部で、多くの親が子どもの就学前教育に熱を入れるようになり、都市部の公立幼稚園や私立幼稚園に殺到するようになります。中国の幼稚園は、全寮制で宿舎を備えていたり、日本の保育園で言う「保育」の役割を担っていたりするところも多く、これも、仕事を抱える多くの親が幼稚園に走った根本的な理由の1つと言えるでしょう。
幼稚園に入れない!待機児童問題
そしてまさに現在日本と同じように、都市部で多くの待機児童が出る事態になっているのです。広州市天河区を例に取ると、現在区内の幼稚園に入園待ちの児童 は2048人になっており、2013年には8754人にまで増えると報じています。多くのとして親のニーズに幼稚園の整備が追いついていないのです。
当然のことながら、この就学前教育ブームをビジネスチャンスと捉えている人間も増えています。広州では5日、外国語やバレー、テコンドー、ピアノなどの「エリート教育」を旨とした宿舎付きの超高級幼稚園が開園し、大きな波紋を広げました。この幼稚園は全寮制で1年に6万元(約78万円)、全日制でも1年に4万元(約52万円)と、日本の私立中学校、小学校なみの学費となっています。
広州のほかにも、上海、南京、長沙、西安などの大都市や地方都市にも超高級幼稚園が次々と作られています。しかも学費がこれほど高価でも、多くの高級幼稚園は定員いっぱいとなっていると言います。
お金に糸目をつけずに「子どもにいい教育を受けさせたい思い」「わらをもすがる思い」を持つ富裕層がそういう現象を引き起こしているのでしょう。
また、80年代に中国で「小皇帝」と呼ばれた世代が現在親になっていることもあり、金銭感覚がずれていることも原因の1つではないかと私は考えます。何はともあれ、一種の「教育バブル」になっているのが今の中国の現状なのです。
幼稚園から差がつく教育格差
ただ当然のことながら、中国では現在も所得格差が存在しています。先に挙げた広州の高級幼稚園の学費は、一般の中国人の年収の10倍以上にも当たるわけで、一般世帯の子供はやはり待機してでも町の公立幼稚園に入園を申請せざるを得ません。このため、「教育機会の不公平さ」が大きな問題になっているわけです。
これらの社会現象のひずみにはやはり、これまでの中国の「就学前教育軽視」の姿勢が原因にあるとおもわれます。幼稚園や託児所などの機関の学費や教育基準などは今でも法的整備が進んでおらず、早急に進めるよう今回の全人大会議で多くの代表が提案しました。
安く質のいい公立幼稚園を全国的に作ることができるか。そこが一番のカギとなるのではないかとわたしは思っています。
*当記事はブログ「中国語翻訳者のつぶやき」の許可を得て転載したものです。