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2011年03月26日
海賊版電子書籍流通プラットフォーム
以前にも記事「海賊版日本語書籍も落とし放題=「百度文庫」がおとがめなしの理由とは」で紹介しましたが、「百度文庫」についておさらいしておくと、「ユーザーがアップロードした書籍を共有できるサービス。全文検索ができてダウンロードも可能」というもの。これがまあ大変便利で大人気に。
システム的には、グーグルの電子書籍販売ストア「グーグル・イーブックストア」とよく似ているのですが、違うのはコンテンツの「獲得」方法。グーグルは本を売った代金は権利者に還元するという「本屋さん」サービスなのですが、百度は「ユーザーがドキュメントを公開」するサービスという位置づけ。自分の日記をアップしようが、海賊版書籍をアップしようが、中身にはノータッチという建前。
とはいえ、実際にアップされていたのは著作権侵害コンテンツばかり。というのもドキュメントがダウンロードされた回数に応じて、コンテンツを「提供」したユーザーにはポイントが入るという仕組みが取られていたため、多くのユーザーがこぞって人気の高い書籍の海賊版を提供していくという流れになりました。
「覇王」百度のやんちゃ
「中国ナンバーワンのIT企業が超絶便利で使い勝手のいい海賊版電子書籍流通プラットフォームを創造する」という大変な事態に困ったのが作家や電子書籍販売サイトの人々。抗議者グループにも加わった大手電子書籍販売サイト「盛大文学」によると、同サイトが保有するコンテンツの95%は百度文庫で無料で読める状態にあったとか。いやはや、これじゃ商売あがったり。
で、これじゃ困ると、作家グループと電子書籍販売サイト陣営は昨年からタッグを組んで百度に抗議を続けてきましたが、「覇王」百度はどこ吹く風。まー、それもそのはず。もともと百度がブレイクしたきっかけは、ウェブに公開されている海賊版MP3を探しだす「MP3検索」。
当然のごとくレコード会社に訴えられましたが、「うちは検索サービスを提供しているのみ。リンク先が海賊版かどうかなど知らない!」と主張し勝訴。今回も同じようにあしらえると思ったのではないでしょうか。テンセント(騰訊)と並ぶ中国のトップIT企業になりながらも、やんちゃさを失わない「覇王」っぷり、さすがです。
これがマスメディアパワー
しかししかし、今回の相手は書籍を作る人々。すなわちメディア陣営です。24日に百度と抗議グループとの工商が物別れに終わった後、全力で百度叩きに動き出します。人気作家・韓寒氏が「メシを守るために百度を糾弾する」と題したブログ記事を公開。他にも多くの作家、著名人、メディア関係者から批判の声が上がるなど、百度はフルボッコの状態に。
百度は「海賊版をアップロードしているのはユーザー。うちの知ったことではない」といういつもの弁明を繰り返したほか、「自動的に海賊版を検出するサービスを開発する」などと提案していたのですが、結局メディアの総攻撃の前に沈没。交渉決裂からわずか2日で謝罪声明を発表することになりました。「覇王」の初敗北ってところでしょうか。
ちなみに日本版の「Baiduライブラリ」も海賊版コンテンツがどっさりということで、かなり話題になりました(「あのマンガもこのマンガも全部タダ!バイドゥジャパンの電子書籍共有サービスが真っ黒すぎて怖い」)。その後、日本書籍出版協会など業界団体が抗議しています(参考リンク)。で、現状はどんなものかいなとのぞいてみると、なんかもうほとんどコンテンツが残ってない……。日本戦線でも敗退していたようです。
ナスダックにも上場し、世界の一流企業となった百度。そろそろやんちゃもしおさめというところなんでしょう。
でも百度文庫のシステムはすごい!
わたしは海賊版を認めるつもりはゼロなのですが、しかし百度文庫のシステム自体は本当によくできていました。テキストファイルもワードもPDFもエクセルもなんでも簡単にアップロードして公開が可能。しかも書籍という比較的品質の高い母集団の中で全文検索がかけられるので、ウェブを探し回るのよりもよっぽど楽にすばらしい情報を入手できます。
小説やマンガのようなコンテンツについては不向きかもしれませんが、専門書や辞書、報告書なんかを検索できるサービスがあったら最高ですよ。私は百度文庫で全文検索してヒットした書籍を図書館で借りたり、ネットショップで買うなんていうまだるっこしいことをしていましたが、お金払ってファイルを買えたら最高なのに……。
そう考えると、期待するのはやはり本命「グーグル・イーブックストア」でしょうか。著作権者への報酬と許可という問題をクリアして、日本や中国でも成功することを祈ってやまないのであります。