中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年03月27日
新型「痩肉精」の出現=大手メーカー製品からも検出
中国ニュースに詳しい方ならば、「痩肉精」という単語を聞いたことがあるかもしれない。豚に投与することで赤身肉の割合を増やすことができる薬品で、養豚業者にとっては売り上げをアップさせる魔法の薬。しかしその副作用から食中毒事件が多発し、中国では厳しく取り締まられている。このあたりの経緯については作家・福島香織さんのブログに詳しい。当サイトでも「中華料理=ドーピング?中国で豚肉食べた選手、ドーピング検査で陽性に」という関連記事を掲載している。
「痩肉精」というのは一般名称であり、中国当局は塩酸クレンブテロールやラクトパミンなど7種類の薬品を「痩肉精」類に指定している。ただこれまで問題となってきたのは塩酸クレンブテロールばかり。検査でもそれ以外の薬品については検査をしていなかったという。現在はラクトパミンが「新型痩肉精」として出回っており、検査の網をくぐりぬけていることが明らかとなった。
「『エアロビ豚』の真相」が放送された後、各地でラクトパミンの検査が始まったが、陽性を示す豚が続出。なんと中国食肉大手・双匯集団の製品からも検出された。2000トン以上の食肉製品をリコール。またラクトパミンを投与された豚1000頭以上の出荷が停止されるなど事態は拡大している。事件の推移については、ブログ「中国語翻訳者のつぶやき」の記事「またしても発生した食品品質問題」が取り上げている。
「痩肉精」は悪魔の薬品なのか?
中国では放射能パニック並に「痩肉精」パニックが広がっているが、興味深いのはこのラクトパミン、EUと中国、台湾では使用禁止とされているものの、米国では認可されている薬品。日本でも残留基準値が設けられており、絶対的に使用が禁止された薬品ではない(参考リンク「ラクトパミン残留基準値」)
塩酸クレンブテロールと比べ、体外への排出が早く健康被害の恐れが少ないのがポイント。中国メディアの報道では「最悪死にいたる可能性も」「300人の食中毒事件」などと煽っているものが多いが、現状、ラクトパミンが原因で発生した食中毒事件は確認されていないようだ。現在の騒ぎっぷりは過剰なようにも思えるが、被害の記憶があるだけにいたしかたないところだろうか。
日本に「痩肉精」導入の可能性も
とはいえ、人気がある赤身肉を「安全」かつ安価に生産できるのであれば、養豚業者が使用したくなるのも当然だろう。「くらしとバイオプラザ21」の記事「メディア意見交換会レポート「動物薬 塩酸ラクトパミンの事例から」には、「ラクトパミンの利用は生産者が決めるべきで、使ってみたい養豚業者もいる」「国際競争力を保ち、安全を守りながら生産性を改善するには、ラクトパミンは必要である」といった見解が紹介されている。
とはいえ、福島原発の事故で、「科学が保証する安全性」がいともたやすく「想定外」の事故で打ち崩されているさまを見たばかりとあっては、どうにも薄気味悪さが残ることも事実なのだが。