中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年04月15日
中国本土からの批判
そして中国本土からの批判もある。12日付台湾紙・自由時報は、「日本首相の感謝状に「中国」の文字なし=中国ネット民は発狂」という記事名で報じている。(1)人民日報に掲載された感謝状には「中国」の二文字が入っていないのに、台湾の日本交流協会ウェブサイトにアップされた感謝状には「台湾」と書かれている。(2)感謝状のタイトル「絆」の訳が台湾版では「厚重情誼」(深い友情)なのに、中国版では「情誼紐帯」(友情の絆)という中国語としてはあまり通りがよくないものになっている。以上2点が批判点として挙げられている。
さて、日本の批判と中国の批判とを見比べると、不思議な矛盾に気がつくことになる。日本の批判は「中国の支援は具体的な内容が挙げられているのに」と怒り、中国本土の批判は「中国について一言も触れられていない」と怒っている。これはいったいどういうことだろう?
新聞広告版とウェブ版の違い
まず感謝状について簡単に抑えておこう。新聞広告は米国のウォールストリートジャーナル、英国のフィナンシャルタイムズ、フランスのル・フィガロ、中国の人民日報、ロシアのコマーサント、韓国の朝鮮日報、そして国際英字紙ヘラルドトリビューンの7紙に掲載された。選ばれた6カ国は安保理常任理事国プラス韓国という構成。台湾が抜けたことよりも韓国が入っているほうが説明がつかないようにも思う。
そして現在、在中国日本大使館ウェブサイトには、「絆」と題した感謝状が掲載されている。「あー、これが人民日報に載ったんだ」と思うのは早合点。なんと人民日報版「絆」と大使館版はタイトルは一緒でも内容が全然異なるのだ。同じタイトルで中身が違う感謝が存在すること、これが混乱の元となった。
フランス語やロシア語まで読む力はないのだが、英語版(インディペンデント掲載の全文)と人民日報版を比較したかぎり同一のもの。新聞掲載は7紙を完全に同一内容にしたのではないだろうか。そして大使館版、交流協会版は各国の具体的な支援に触れている(代わりに「一杯のスープが、1枚の毛布が、冷えた心と体を温めてくれました」云々の下りを削除)。
大使館版は「3月13日にただちに国際救援隊を派遣し、3000万元相当の物資及びガソリンと軽油各1万トンの無償提供」と中国の支援内容を列挙。交流協会版では「地震発生後、ただちに28人の隊員からなる緊急救援隊を組織し、400トンもの救援物資を提供。また多くの巨額の援助金と無数の激励と慰問をいただきました」とお礼しており、ウェブサイト掲載分を見比べたかぎり中国に対するものも台湾に対するものも、どちらも相手の支援に触れている。
何が問題だったのか?
となると、今回の感謝状で何が問題だったのだろうか。思うに「新聞掲載」という手法そのものに無理があったように思う。
上述したとおり、安保理常任理事国プラス韓国の新聞にだけ掲載するという理屈もよくわからないし、そもそも広告を打った国でもわずかに一紙のみ。その新聞を選んだ基準もよくわからない。例えば日本に感謝の広告を出す時、朝日と読売どっちかだけというのは難しいのではないか。ましてや中国の人民日報なんて一般人は読まない新聞だ。
もちろんだからといって、世界130カ国の主要紙に全部広告を出すことなどできない。ただ残念なことに現在、日本は国際社会の注目を集める存在。今回の感謝状も掲載費を払っていない新聞もすべて取り上げているはずだ。だとすると、最初から新聞広告にする必要はなかったのではない?プレスリリースを打って、各国大使館で記者会見をして、感謝状をウェブサイトで公開するだけで良かったのではないか?
あるいは今、流行りの(?)ツイッター、フェースブックを活用してもよかった。菅直人首相が動画メッセージで各国国民に感謝の言葉を言っても良かっただろう。ともかく今は日本の情報、メッセージは高いニュースバリューを持っているのだ。わざわざお金を払って、しかも公平感に欠ける新聞広告にする必要はなかったはずだ。
今回の感謝状について、もし日本政府の対応に問題があったとするならば、ちまちまと新聞広告を打ったことにあるように思う。やるならばもっと大々的にやるべきだったろうし、新聞を使わなくても(そしてお金を使わなくても)同等以上の効果を得ることはできたはずだ。