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中国人研修生を救った佐藤充さんのエピソードはなぜ中国人を感動させたのか―翻訳者のつぶやき

2011年04月18日

佐藤さんのエピソードから中国人が学んだこと

皆さんも良くご存知かもしれませんが、東日本大地震による津波から中国人研修生を守った日本人佐藤充さんのエピソードが中国人の間で大きな反響を呼んでいます。

佐藤充さんは女川市にある佐藤水産株式会社専務。3月11日の震災時、宿舎に避難していた中国人研修生20人に「津波が来るのでもっと高台に行きなさい」と伝え全員を高台に避難させた後、家族の安否を確認するために宿舎に戻り、行方不明になったと伝えられています。


Aerial of Sendai, Japan, following earthquake. / Official U.S. Navy Imagery


*当記事はブログ「中国語翻訳者のつぶやき」の許可を得て転載したものです。

このエピソードが中国人の心に素直に入っていったのは、いわゆる中国語で言うところの「舍身忘己(自分を捨てて他人を助ける)」という美徳を佐藤さんに見たからでしょう。実のところ中国人は中央テレビなどで、「舍身忘己」の精神をたびたび目にしています。

例えば、自分のことは省みずに昼夜を問わず村のために働き、ついには過労で倒れてこの世を去った村長、堤防が決壊したのを見て危険を顧みずに懸命に堤防復旧に励み、町を守り命を落とした解放軍兵士――などなど「人民が模範とすべき」人物が、毎日のように中央テレビの夜の定時ニュースの「英雄模範の紹介コーナー」で伝えられているのです。

これらの人物を見て、中国の庶民が感動していたかどうかは定かではありませんが、多くの人が毎日このようなコーナーを目にして、「模範人物というのはこういうものなんだ」という刷り込みがされていたのは間違いないでしょう。

そこへ来て、自分たちが「鬼子」と呼んでいた日本人が英雄模範と同じ行動を取ったわけですから、彼らは驚きと賞賛をもって佐藤さんの行動を認識したわけです。逆に考えてみると彼らの「驚き」は、「『舍身忘己』のエピソードはテレビの中だけの出来事である」と皆思っていることを示しているともいえます。

ただこのエピソードは日本メディアではほとんど報じられていません。斜めに構えてこの事実を分析してみると、この報道自体、中国人の対日感情を改善したいとする中国政府の一種の戦略ではないかと私は思っています。

つまり日頃庶民が目にしている「英雄模範」と同じようなエピソードを持ってきて宣伝すれば、中国人の日本人に対する感情改善に劇的な効果が期待されるわけです。ここに中国政府の思惑も見え隠れしています。いわば中国人の対日感情の問題について、中国政府が「貸し」を日本政府につくろうと図った宣伝戦略だったとも考えることができるのではないでしょうか。

その一方で、日本の中小企業には特に今でも、「社員は家族と同じである」という認識が根強く残っています。このような認識、そして会社に家族のような団結力があったからこそ、戦後の日本は大きく成長したともいえます。いわば佐藤さんの行動は「家族を守る」という意識から来たものであり、佐藤さんからすれば当然の行動だったのでしょう。

その佐藤さんが、会社の瓦礫から遺体で見つかったというニュースをネットで目にしました。このようなとても残念な形ではありますが、中国人の対日感情改善に一役かった佐藤さん、そして佐藤さん自身の勇敢かつ心打たれる行動に敬意を表したいと私は強く思います。

合掌。

*当記事はブログ「中国語翻訳者のつぶやき」の許可を得て転載したものです。


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