今、中国はタイムマシン経営全盛期を迎えています!
と唐突な出だしですいません。有料メルマガ「
佐々木俊尚のネット未来地図レポート(2011年4月18日号)」が、「日本のウェブ業界が得意としてきた「タイムマシン経営」が成り立たなくなってしまいました」というネタだったのですが、これを見て、お隣の中国はいままさにタイムマシン経営全盛期じゃないのと思ったので、簡単にまとめておこうかな、と。

iPed/Apad chinês - homescreen / CesarCardoso
タイムマシン経営とは?
そもタイムマシン経営とはなんぞや、ということについて佐々木氏のメルマガを引用します。
タイムマシン経営は90年代ごろには、ソフトバンクの孫さんがジフデイヴィスやヤフーに出資して日本にビジネスを輸入してきたように、「出資してその会社のビジネスを日本に持ってくる」という定義でした。どちらかというと積極的な意味で使われていたのです。この「タイムマシン」という言葉自体も、たしか孫さんがポジティブな語感で自ら使われていたような記憶もあります(ちょっとこのあたりは未確認ですが)。
しかしその後、90年代後半のネットバブルのころには「
アメリカで流行っているビジネスを真似て日本でも同じようなビジ
ネスを立ち上げる」
というような意味で使われるようになっていきました。
たとえばネット証券がアメリカで流行っていると聞けば、
日本でもネット証券を立ち上げる。
アメリカでショッピングモールが流行っているのなら、
日本でもショッピングモールに乗り出す。オンライン書店、
ネット広告代理店、ネットオークション、写真共有サービスなど、
同じようなかたちで日本に「輸入」
されてきたサービスは2000年前後のネットバブル期に雲霞のよ
うに現れました。
佐々木俊尚のネット未来地図レポート(2011年4月18日号)
タイムマシン経営が成り立たなくなった日本、全盛期の中国
さて、一世を風靡したたタイムマシン経営ですが、今ではツイッターやエバーノートなど米国発のサービスがそのまま日本で流行るようになり、最近ではぱったりうまくいかなくなってしまったとのこと。佐々木氏は複数言語共通の文字コードであるユニコードが普及したことで、米国発のサービスをそのまま日本で使えるようになったためとの指摘。ほぼ1年前の記事である「
もはや、日本でタイムマシン経営を成立させるのは無理か」(TechCrunch Japan)では、APIの解放により米国のサービスを日本人向けに提供するローカルサービスが作れるようになったためと分析しています。
さて、中国ではどうかというと上記の条件は共通ですが、今、まさにタイムマシン経営の全盛期。
ユーチューブ → 優酷、土豆網
フェースブック → 人人網、開心網
ドロップボックス → 115網盤、網易網盤
ツイッター → 新浪微博、騰訊微博
フォースクエア → 微領地
グーグルイーブックス → 百度文庫
と目立ったウェブサービスはほとんどすべて類似サービスがあり、本家を圧倒するユーザー数を獲得しています。
ネット検閲とコネが問題か?それとも……
中国でタイムマシン経営を成り立たせている要因は、第一にネット検閲とコネでしょう。
ユーチューブやフェースブック、ツイッターなどのサービスはネット検閲でアクセスできない状況です。検閲回避の技術を持つユーザーならば利用することができますが、圧倒的多数の中国人ネットユーザーには困難ですし、また類似サービスが有る以上、その必要性も感じません。
また、偉い人とのコネクションもきわめて重要です。例えば、最も初期のツイッター類似サービス・飯否は普及するきざしを見せていましたが、当局の横やりで一時サービス停止に。その間に、新浪微博など大手企業による後発サービスが普及。市場を失いました。
ただし、ネット検閲とコネだけがすべてとは言い切れない部分も。それがどこまで中国人好みの味付けになっているかという、いわゆるローカライズの問題です。例えば、ドロップボックス類似の115網盤ですが、アップロードしたファイル数に応じて、階級がランクアップするというシステムが採用されています。百度文庫やはネット掲示板にも同様のシステムが採用されています。射幸心を煽ってユーザーの積極性を促すというのが中国の常套手段と言えるかもしれません。
人権問題ではなく、ビジネスの問題としてのネット検閲
インスタントメッセンジャー・QQを擁する中国IT企業最大手・テンセントの時価総額は世界3位。検索エンジン中国最大手・百度の被利用回数は世界2位。なにせ世界一の人口と世界2位のGDPを誇る中国ですので、ローカル企業とはいえ、その実力は決して無視できるものではありません。大手B2Bサイトのアリババが米国進出を進めているように、中国企業が世界展開を目指す日もそう遠くはないんじゃないか、と。
そうなると「米国企業は中国に進出できないのに、中国企業は好き勝手に米国に進出できるっておかしい!」という反発が高まるのは必至です。昨年、グーグルが中国撤退を余儀なくされた時、オバマ政権は中国との対立を嫌って干渉しませんでしたが、いつまでも放っておくことはできないはず。中国のネット検閲が、人権問題ではなく、ビジネスの問題として浮上することになるでしょう。

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