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技術革新、石油農業、補助金の弊害=中国農業の今を読み解く―北京で考えたこと

2011年04月20日

中国の農民は実際どれほど食糧を作ろうとしているのか?(食糧価格上昇再訪-その2)

前回「バイオエタノールはなぜやめられないのか?食料価格決定権を失いつつある中央政府―北京で考えたこと」に引き続きまして、中国の「財経」誌4月4日号の記事から食糧生産に関する記事を「後篇」として紹介致します。今回の焦点はより食糧生産サイドから、農業、農民、農業企業、農業政策などなど様々な角度からです。(以下、財経誌記事の要約です。)


China / IRRI Images


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食糧の需給のバランスは引続きひっ迫している。品種別に言えば、コメ(特に「粳米」:ジャポニカ米、従来は黄河と長江の中間を流れる“淮河(わいが)”以北で生産)は長期的に供給がひっ迫。小麦は基本的にバランスを保っているが、トウモロコシは飼料用、深加工業用需要の増加によりひっ迫しつつある。

*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。


北移、輸入、石油農業=中国農業の現状

地域別に見ると、食糧生産の重点は南から北に移ってきている。国家糧食局科学研究院の丁俊声研究員によると、懸念すべきはコメ生産地分布の北への移動(「北移」)。この10年間で増産が達成されているのは河南、吉林、黒龍江、山東、遼寧の5省。食糧生産が北移して以来、灌漑水源の不足が先鋭化しつつある。食糧生産の中心は今や黄河、淮河流域であり、一方、水源が豊富な南方での稲作面積は日に日に縮小している。

20110420_farm1
*Farmers in rice fields at sunset, China
華南地域においては農村の水田が原風景であるが、その減少が始まっている。写真:Farmers in rice fields at sunset. Dongting Lake. Hunan Province, China ©Michel GUNTHER / WWF-Canonより


2001年WTO加盟以降、中国政府は国内食糧産業への刺激を緩和するため、過渡期的な施策として関税割当政策を実施している。コメ、小麦、トウモロコシの輸入割当量はそれぞれ532万トン、963万トン、720万トン。割当量の範囲内では関税は1%と低く抑えられるが、割当量超過分は65%もの高率関税を課している。政策的保護の下、海外からの食糧作物流入はある程度防がれているとはいえ、国内の食糧市場価格は国際市場価格の影響を強く受けている。

中国の農業はまだ「石油農業」である。化学肥料、農業用マルチ、農業機械などのコストは石油価格の上昇と共に高騰し、食糧価格を押し上げている。また、石油価格上昇は代替エネルギーとしてのバイオマスなどの開発を促進し、それがまた食糧供給を減少させ、多くの人が穀物からサトウキビやアブラナなどへと転作を進めている。農家も以前は春節前には作物を全て売ってしまっていたが、今では価格の上下変動もあり、3月でも6、7割の作物を抱えていることもある。これが短期的な市場供給を減らし、価格上昇にもつながっている。


7年連続の生産増が続く中国農業=農業技術の革新が原動力

2010年、食糧生産は7年連続の増産を記録した。国務院発展研究センター農村部によれば、増産の2/3は単収増(単位面積あたりの収穫量増加)により達成されたもの。化学肥料の投入増加などが貢献している。中国のコメ単収は世界トップクラス。小麦単収も世界平均に迫っている。ただし、トウモロコシはまだ世界平均からかけ離れた低い水準にある。各種作物の単収増を目指した政策として、「測土配方施肥」がある。

農業技術指導員の指導のもと、科学的に配合肥料を施肥するというものだ。しかし、「全土で推進する」というかけ声ほどには普及していないのが現状だ。測土配方施肥の国家財政補助が県単位で実施されているのに対し、南方では一つの県が十数郷鎮、耕地面積も十数万ムー程度にとどまるに対して、北方(例えば黒龍江省)では数十郷鎮、耕地は数百万ムーと広大。1県あたりの予算は同じでも、そのカバー面積は大きく異なる。現実的にはモデル地区を指定しての限定的な実施となるが、それでは目標通りの効果を上げることは難しい。

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*fertilizer
化学肥料使用は食糧増産に大きく貢献しているものの過剰施肥は中国での課題。写真はInternational Rice Research Institute (IRRI). (Photo by Isagani P. Serrano/ IRRI)より



中国政府の取り組み

政府の予算投入は年々拡大している。2011年の中央政府財政における「三農」関連予算は9884.5億元(前年比15.2%増)、うち、農業生産支援に3938.7憶元(約4兆9700億円)、主に水利などの農業農村基礎インフラ(1575.4億元(約1兆9900億円))、農業総合開発資金230億元(約2900億円)、農業扶貧開発資金306億元(約3860億円)等々。

4つの補助金(訳注:2004年から続々増え始めた農民対象の各種補助金)に関しては糧食直接補助金(「种粮农民直接补贴」)が151億元、優良品種補助金(「良种补贴」)220憶元(約2780億円)、農業機械購入補助金(「农机具购置补贴」)175億元(約2210億円)、農業生産資材総合直接補助金(「农资综合补贴」)860億元(約1兆900億円)と過去最高規模を示した。

2005年からは食糧作物生産量の多い県には奨励金を支給しているが、2011年には奨励金予算として225億元(約2840億円)が確保されている。こうした施策にもかかわらず、地方政府は農業生産に力が入れて取り組んでいないという問題もある。河南省のある県共産党委員会書記は、しっかりと農業・食糧生産に取り組むには、GDPなどで幹部の成績を判断する現在の評価基準を考えさなければならないと漏らした。


大規模農家形成への障害

また、農業生産に携わる農民に行きわたるはずの4つの補助金だが、請負農地使用権を譲り受けてできあがった大規模農家、専業農家には与えられていないことも問題だ。現在、中国北部地域における水田の請負地使用権を獲得には最低でも300~500元(約3790~6310円)/ムー。高ければ800~900元(約10100~11400円)/ムーが必要となる。畑地ならば260~300元(約3280~3790円)/ムー。高ければ400~500元(約5050~6300円)/ムーが必要となる。

農地の集約化にはコストがかかるが、大規模農家が優遇政策を享受できないという問題は、農業規模化の障害となっている。識者はこうした規模経営を志向する農家への支援策に加え、穀物生産地区への支援金や青年農家を育成するための基金設立などを提案している。

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【考えたこと】

内容盛りだくさんの記事です。どこを取り上げても大きな課題なので、まとめにくいのですが、ちょっと悲しかったのは「測土配方施肥」に関して。合理的な化学肥料使用を促すのみならず、肥料使用量削減、すなわち環境保全促進という側面もある政策だと思うのですが……。記事では無視されています。

測土配方施肥について、「生産量増加」が主目的と認識されているのだと感じましたが、環境に優しい農業を掲げるプロジェクト関連での仕事をしている自分としては少し寂しくもあります。その一方で、収量確保・増産が基本である中国農政の現実を再認識することもできました。安定供給「糧食安全」は、農政の基本中の基本なわけです。

2004年頃から始まった農民への補助金により、かなり多数の農家は何もしなくてもとりあえずもらえてしまう補助金に慣れ親しんでしまいました。補助金支給と増産の間に、きちんとした因果関係が得られているのか、研究者の中でも疑問の声が上がっています。本当に農業を行っている従事者を登録させる「農家登録制度」を提案する学者もいます(社会科学院の党国英など)。

華南地域で水稲播種面積が減少しているのは、農用地以外の土地利用や、より付加価値の高い経済作物に変えていこうという動きの表れでしょう。食糧生産地域が北に偏ってくると、次に問題になるのは、全国にいかに穀物をいきわたらせるかという流通の問題です。地産地消の逆を行く中国には、フードマイレージのような考えを入れてみたらすごい数値が出てくるかもしれません。論点が多いだけに、まとまりのないまとめとなってしまいましたが、財経誌の記事は大変興味深いものでした。


*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。

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