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2011年04月20日
しかし業者と接触し、暴力団や違法犯罪集団とのかかわりなど、いろいろなことが分かってくると、彼に恐怖感が芽生えてきます。後になって怖くなり、彼は取り引きをやめると泣きながら業者に訴えました。しかし、業者は嫌がる彼を強制的に山西省につれてこさせて山西省臨汾市の小さな病院に強制入院させ、片方の腎臓の摘出手術を受けさせてしまったのです。
全人代、震災の影響で遅れた報道
この事件の一部始終については、初めにフェニックステレビによって2月24日に放送されましたが、中国国内ではそれほど大きな扱いで報じられることはありませんでした。
当初の全人大会議、そしてそれに続く東日本大震災と大きな出来事が続いたからともいえるでしょう。しかしそのような中、3月初めから、山西省の公安部門と衛生部門は臓器提供者本人を交えて事件の捜査・検証を始めます。
そして臨汾市衛生局は4月2日、腎臓摘出を行った病院の「医療許可証」や、摘出に関わった病院の看護長の「看護許可証」の差し押さえを発表しました。この時期を前後して、国内メディアでもこの湖南省の男性の臓器売買のニュースが大きく取り上げられ、注目されるようになりました。
社会での注目度の高まりを受け、衛生部はやっと重い腰を上げます。同部は4月18日に「人体の臓器移植監督管理業務を一層強化することに関する通達」を発表し、「人体の臓器移植に関わる医師やそのほかの医療関係者はいかなる利用であれ、移植専門以外の医療機関で移植手術を行ってはならない。同時に移植専門の病院や移植に関わる医療関係者に対する監督管理を強化しなければならない」と要求しました。
また全国的な範囲内で今年末までに人体の臓器移植に関する特別の取り締まりキャンペーンを実施すると発表し、違法な臓器移植がないどうかの検査を行うとしたのです。
取り締まりの措置自体は妥当です。しかし先の「强行取肾(腎臓の強制摘出)」事件が発生してから実に3カ月前後、事件をフェニックステレビが告発してから数えても2カ月経ってやっと衛生部が動いたわけで、正直遅きに失したことは否めないでしょう。日本で同じような態度を政府が取ったならば、たぶん批判の的でしょうね。
メディアが明るみにしてからやっと動く遅さ。ここに官僚主義、そして臓器売買に関して政府と業者の闇取引があると考えるのはうがちすぎでしょうか。
ともあれ中国の臓器売買は今回のケースだけではありません。全国的に多発しており、全国的に臓器売買の地下ネットワークができていると国内メディアは指摘します。
*北京で開催された臓器転売犯の公判。大紀元の報道。
臓器売買を取り締まれない理由
臓器売買を効果的に取り締まれない理由はいくつか存在します。
中国経済網は、「現在中国では未だに、刑法上で臓器売買の罪名で取り締まる方法がなく、司法機関は違法経営罪として犯罪容疑者を立件するしかない」と指摘するとともに、「各医療機関では身分確認面で抜け穴が存在し、臓器提供者が患者の親族を語って臓器を提供することも可能になっている」と明かします。
また中国経済網は、「移植として提供できる臓器が不足しているため、毎年わずか1%前後の患者しか移植の望みをかなえることはできない。ここに、臓器の違法売買者は大きな市場的余地を見つけている」とし、社会全体の臓器提供システムの見直しを訴えました。
先の湖南省出身の出稼ぎ労働者のケースでは、移植に携わった医師や医療関係者に対する処分は行われたようですが、売買に関わった業者に対する処分はまだ行われていないようで、臓器の違法売買問題の根深さを感じさせられます。公安部などが動いて業者に対する集中的な取締りを行わない限りは根本的な解決を望むことはできないでしょう。
*当記事はブログ「中国語翻訳者のつぶやき」の許可を得て転載したものです。