中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年04月24日
出だしから数行は事実
事実、中国の地方の弱小新聞社ならともかく、新華社や人民日報が報じるニュース「自体」、つまり発生した出来事や事実に虚報はありません。これだけは、自信を持ってはっきりといえます。ですから少なくとも「ニュース記事の出だしから数行までは事実だ」という認識を持っておくべきです。
その一方で中国国内メディアには、「政府宣伝の喉舌」という日本のメディアと違う役割もあります。「報道」と「宣伝」は一体化しているというのが中国での考え方です。
とはいっても、「政府見解を宣伝するために」虚報を伝えることは報道倫理に反するので、国内メディアは現在発生している出来事に対して、「虚報以外」のあの手この手を使って政府の意向を人民に宣伝しようと試みるわけです。ここが、私たち日本人が「新華社は間違った報道をしている」と誤解する原因になるのでしょう。
報道タイミングをコントロール
その「政府宣伝手段」の1つが「ニュースを報じるタイミング」です。中国政府にとって不利なニュースや国民に知られたくないニュースをわざと伝えないというのは、中国メディアの常套手段です。逆に「今伝えて世論を形成しておくべき出来事」について、国内外情勢を見据え、適切な時期を選んで蔵出しするケースもあります。
ですから、中国メディアが「事実報道」を「いつ」伝えたかをしっかり見極めることで、今の中国政府の考え方を見ることができるわけです。
「ニュース自体を伝えない」ことが虚報に当たるかどうか、というのは各自の見解もあるでしょうが、「100人いたら全員が虚報と言うか」と考えれば、少なくとも全員「虚報だ」と答えることはあり得ないでしょう。そこをついている巧妙なやり方とも言えます。
また各国で見解が一致しないニュースについても、新華社や人民日報は「中国政府を代表して」報道しているわけですから、当然「政府見解に沿った形」の報じ方になります。
メディアから読み取れる政府の意向
例えば「南京大虐殺で30万人の中国人が死亡した」というニュースは日本では「虚報」になるでしょうが、中国では「事実」になります。だから中国のメディアは「事実に基づいて報道した」という論理になるわけです。これは、尖閣諸島問題についても同じだと言えるでしょう。このような報道に対して私たちは、安易に「中国メディアは虚報を伝えている」と憤るのではなく、「中国政府はこのニュースについてこう考えているのか」と発想を転換させることが重要です。
中国メディアのニュースに相対する場合には、中国の国外メディアの同じニュース報道にあらかじめ当たっておき、その対比を見ることで、「中国政府がこのニュースについてどう対処したいと考えているか」を読み取るようにすべきです。私たちにとって、中国メディアの真の活用方法はここにあると言えるでしょう。
*当記事はブログ「中国語翻訳者のつぶやき」の許可を得て転載したものです。