中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年04月24日
安過ぎるキャベツに自殺する農家
山東省済南市郊外の農村で、農家があまりのキャベツの安さに絶望して自殺したというショッキングなニュース(*新浪網)を新浪微博を通じて知ったのです。その価格は500グラムで8分(0.08元=約1円)という安さでした。このニュースでは「さすがに3毛(0.3元)/500グラムの価格は無いと元をとれない」と嘆きも紹介されています。
その微博(つぶやき)は1000回以上リツイート(転送)され、コメントも900以上(共に4月21日深夜段階)ついていますが、その中にはその不合理な安さを嘆き、農民に同情する声が多い一方、「うちの田舎ではもっと安く売り叩かれてるよ!」というコメントまで!中国の食品価格が上がっているという中で見られるこの現象はどう理解すれば良いのでしょうか?
1円/1キロの白菜
二つのニュースのあまりのコントラストにビックリして少し追ってみると、今年の野菜の全般的な低価格傾向のニュースが4月21日付21世紀経済報道にありました。ここでは農業部の数字で4月20日の野菜価格指数が178.9と、3月28日の182.2からの低下傾向と紹介。
そして、今年は特に山東省の白菜が安く、それは昨年秋に起きた韓国でのキムチ危機(*中国網日本語版の報道。)、それを受けて投機のために買いだめした白菜(の大量在庫)、更にはそれを受けて生産を拡大した農家(の大量生産)、二つの「大量」が一気に価格を押し下げて、今年春の市場価格は4-8分(約0.5円~1円)/500グラムにまで下がっていると言います。
*「農超対接」という、スーパーと農家を結ぶ産地直送の試みも、外資系スーパーをはじめ、多くのお店で始められている。
21世紀経済報道の分析は、やはり食料品流通過程の問題点にメスを入れます。現在は野菜生産-買取業者-地域市場-卸売市場-第二次卸売市場-小売と多い場合には6段階にまで増えてしまっている流通過程をより簡素化できれば、もっと生産者、消費者共に利益のでる形になるとしています。
国務院などの当局も流通簡素化を訴え、広東省では「価格調節基金」を利用して冷蔵施設建設、「平価商店」(訳注:流通プロセスを簡素化した商品を売るよう政府が補助金を出しているスーパー。中文ですがこちらFinancialTimes中文網の記事もどうぞ)などの取組もモデル的に行われています。北京工商大学経済管理学科の梁小民主任は、その他に市場での管理費徴収減免、高速道路の各種費用免除などを主張し「逆にそれら費用が価格に反映されてしまっている」としています。
「食品価格高騰」の背後の複雑系
中国の農民というと、もしかしたら純朴に田畑を耕しているようなイメージはあるかもしれませんが、農産品市場との格闘ぶりは激しいものです。上手く立ち回る農民は携帯をバンバン鳴らして、まるでデイトレーダーのように価格を見極め、時には買占め、備蓄をしながら最高の利益を出せるように行動します。
しかし、一方で市場に対して受身な農民は、やり手農家や投機資本の大きな動きに翻弄されたり、或いはそれらの動きに後発でついていってある作物の作付けを増やしたと思ったら値崩れするなど、痛い思いをすることも。買付をする業者との安定的な関係を作れていない農家が多い中、市場の変動に対する自己防衛のリスクの多くは農家が負っていると言って良いでしょう。
4月21日付南方週末紙のインフレに関する対談記事でも、あるエコノミストはインフレの要因に食品ばかりが出てくるのを疑問視しており、今後は食品・非食品それぞれがインフレを引っ張る形になるとの見方を示しています。
穀物価格は抑えるのに必至な中国政府ですが、一方、商務部は21日に野菜価格の下支えを図るために五つの措置を商務部ホームページ上で公開、「卖菜难」(野菜を売るのが困難)の問題に介入を始めています。野菜に関しては、生産者の販売価格を上げ、流通コストを下げ、消費者価格は下げるという方向への政府誘導、「食品価格高騰」と一言で言うには複雑過ぎる状況は、今後もしばらく続きそうです。
*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。