中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年04月28日
運転免許取得と同時にドナー登録を実施
その証拠に西安晩報の報道によると、黄潔夫衛生部副部長は先ごろメディアの取材に応じた際、「年内に自動車免許の取得時に臓器提供の意思について登録を行えるようにする」と述べ、今年年末までに臓器提供者の登録システムを整備すると表明しましたが、大きな波紋を呼んでいます。
この自動車免許取得の際に臓器提供の意思表示を行うというやり方は中国が最初ではありません。オーストラリアなど先進国でも行われており、日本では昨年に正式導入されたばかりです。ただ、このやり方が中国で通用するかは非常に微妙な状況です。
伝統的観念が臓器提供の妨げに
臓器提供の意思を表示するドナーカードですが、中国では2007年に創設されています。しかし実際に提供するにはドナーカードへの記入、家族の同意のサイン、自身の臓器が一定の基準を満たしていることなど多くの条件が重なり、結局初年度でドナーカード所持者が実際に臓器提供を行った割合は、実に1千万分の1に留まりました。
また中国人には「親からもらった体なのだから、死ぬなら五体満足で埋葬されたい(埋葬してあげた
い)」という伝統的な考えが根強く残っており、臓器提供には消極的な人が多かったのです。特に年配の方の抵抗感が強く、「家族(親)の同意のサイン」というのは実に高いハードルだったといえます。 このような背景下で、臓器の違法売買が蔓延するようになりました。
10万人の交通事故死亡者を臓器供給源に
衛生部が自動車免許に目をつけたのは、交通事故死亡者数の多さが要因でしょう。中国では毎年、交通事故による死亡者が約10万人に達しているといわれています。この10万人の何割かがドナーになれば、臓器の供給不足という問題は解決できるはず、ともくろんでいるわけです。
新民晩報記者が69人のネット民を対象に臓器提供登録に同意するかと質問したところ、6割のネット民は肯定的な回答だったそうです(新民晩報の報道)。
「家族の同意」は不要に、臓器提供ルールを改定へ
臓器提供の意思表示を行う上での最大のハードルとなる「家族への同意」について、先の黄潔夫衛生部副部長は「提供するかしないかは完全に個人の希望によって決める」と発言。家族の意思が入るべきではないとの考えを示しました。
その上で、黄潔夫副部長は、「臓器提供までの期間、および提供後には、提供者本人や家族に配慮できるような相応の措置を定める。措置には(生活)救済・保障政策などが含まれることになり、臓器提供者は物質的保障を得ることになる見込みである」と述べました。いわば物量作戦で提供者本人や家族の抵抗感を和らげようという目論見だと言えます。このような措置が効果的かどうかはまだ未知数でしょう。
提供臓器の分配システム整備も課題
上述の新民晩報記事によれば、提供された臓器を的確に現場に配分していく臓器分配システムの整備も、国の課題と指摘しています。黄潔夫衛生部副部長は、今年の9月までに▽国家臓器移植管理システム▽臓器提供者登録システム▽臓器提供・分配ネットワークシステム▽臓器移植臨床サービスシステム▽臓器移植科学登録システム――を全面的に構築することにしていると述べました。
「重大事件が発生したからやる」のではなく、数年、数十年単位でこのような取り組みを続けていくことが中国政府に求められているのではないでしょうか
*当記事はブログ「中国語翻訳者のつぶやき」の許可を得て転載したものです。