ビンラディン殺害に対する中国の反応2
昨日5月2日、
ビンラディン殺害に対する中国の反応について書かせていただきましたが、今日はある意味その続きです。
Osama Bin Laden Dead / ssoosay中国外交部スポークスマンの姜瑜女史が、アルカイダの指導者ビンラディンが殺害されたことについて、記者からの質問に答えて以下のように答えておりました。(*
中国新聞網の報道)
*当記事は5月3日付ブログ「政治学に関係するものらしきもの」の許可を得て転載したものです。
我々は上記発表に注意しており、これが反国際テロ闘争において重要な事件であり、これにより新たな進展があると思っている。
テ
ロは国際社会の共通の敵であり、中国もテロの被害者である。中国は一貫していかなる形のテロリズムにも反対してきたし、積極的に反テロ活動に参加してき
た。中国は国際社会とともに更なる協力関係を強めること、共にテロを攻撃することを主張してきたし、中国は反テロは根本的な治療と局所療法を併せて行うべ
きで、テロリズムの繁殖する土壌を取り除くことに努力してきている。
反テロ戦争は中国にとっても好都合だった
昨日取り上げたネットユーザーの論調は大分異なることが見て取れると思います。ただ、中国政府がこうしたコメントを発表するのは至極当然のこと。それというのも、9.11がおこるまでは米中関係はかなり険悪な状態でした。1999年5月にはベオグラードにあった中国大使館をアメリカ軍機が「誤爆」し、中国国内では反米暴動が発生しましたし、2001年4月には海南島で米中の軍用機が衝突するという事件も起こりました。
9.11で険悪ムードは一転。人権問題などで中国を非難していたブッシュは、反テロ国際連携のために中国批判を中止したのです。国内に新疆ウイグル自治区のイスラム武装派を抱える中国は、アメリカと連携。「反テロ」という名のもとにイスラム過激派に対する弾圧の「正当性」を手に入れました。
この時期、米ロ関係が進展したのも全く同じ理由です。国内にチェチェン及びその独立を目指すイスラム武装勢力を抱えるロシアにとっては、アメリカと連携することで「反テロ」という名目を手に入れ、反政府勢力制圧を積極的に推進できたのです。
更に中ロに隣接する中央アジアは、多数のイスラム教徒が住んでいるという事情から、いつ国内に問題が波及するかわからないという状況がありました。ゆえに、中央アジアへのアメリカの進出は、中ロにとっても好都合であったとも考えられます。
ネットユーザーと政府の乖離
中国は現在も民族独立運動を抱える身柄。そのスタンスは基本的に以前と変わりません。というわけで、政府コメントの論調も米国の反テロ戦争に迎合的なままというのも当然です。
となると、昨日紹介したネットユーザーの書き込みと乖離してしまうわけですが、これも不思議でもなんでもありません。ある意味、日中関係とも同じ構図だと言えるのですが、中国政府は当然の如く日中友好をうたっても、中国のネット上には日本に対する悪口があふれています。
国としては自国の利益を守るための外交が最優先されるので、当然隣国との友好関係が重要視されるわけですが、一般国民はそんなことは関係ないので、思うがまま過激なコメントを書き込むという、ある意味どこの国にでもある構図となっております。
米国のダブルスタンダード、中国のダブルスタンダード
もう一つ、中国政府のコメントを見て感じたことを。通常、中国政府は内政干渉を最も嫌います。中東のジャスミン革命でも西欧が関与することについて批判しておりますし、リビアの空爆にも反対しております。今回、アメリカはパキスタンでビンラディン殺害作戦を実行したわけで、中国のいつものスタンスであれば、内政干渉云々という批判が出てきてしかるべき。しかし、今回は上述した2001年からの流れがあったため、アメリカの行為を正当なものと認めています。
中国は西欧のダブルスタンダードを常々批判しておりますが、今回の事件については、中国がダブルスタンダードの態度を示しているのではないでしょうか。ただ、こうしたダブルスタンダードは国際政治ではごく当たり前にあること。外交が自国の利益確保のための行為である以上、原理原則よりも自国の利益を優先するのは当然です。そのこと自体を悪いこととは私も思っておりません。ただ、自分もダブルスタンダードの態度をとるのならば、その点で他国を批判するのはいかがなものかと思った次第です。
*当記事は5月3日付ブログ「政治学に関係するものらしきもの」の許可を得て転載したものです。
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