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中国の対外ODAってどんな内容?『対外援助白書』を読む―北京で考えたこと

2011年05月05日

中国はどれだけ対外援助をしているか?中国の対外援助白書を読む

「中国、援助」とキーワードを並べると、「日本の対中ODAのことでしょ!!」と反応される方が多いかもしれません。その議論とも関連することはするのですが、ちょっと違うテーマをご紹介します。

今、いわゆる「援助業界」では援助する側としての中国が存在感を増しつつあります。つい先日も、温家宝総理がインドネシアを訪問し、インフラ整備目的で100憶ドル規模の経済協力を約束しました(*国際在線が報道)。ただし、中国の援助については、不透明だ、どこからが援助でどこからが投資かわからないとも批判されています。


*中国とアフリカのつながりを深めるのにも大きな役割を担っている中国の対外援助。
「Africa Day 2010 in Dalian, China」Flickr、SoniaT 360より


*当記事は
ブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。


対外援助白書を読む

そうした批判に応える意味もあるのでしょうか。4月21日、中国国務院新聞弁公室は初となる「対外援助白書」を発表しました。中国共産党新聞網掲載分の方が図表もありわかり易かったので参考にしました。本報告書から何が読み取れるでしょうか?まずは主要ポイントを書き出しながら内容を見ていきたいと思います。

中国は途上国である、しかし長年にわたって途上国にも援助を行ってきた。その援助は1950年、すなわち新中国建国後すぐに始まっている(最初期は北朝鮮、ベトナムへの援助)。平等、互恵に基づき、実質的な結果を重視し、何も政治的な条件を押し付けず、時代に沿った形で、中国の対外援助は独特の特色を伴ったモデルとして勃興してきた。
中国は途上国、そして世界最大の途上国として途上国をリードしていくという立場は、かつて非同盟連帯の時代からの一貫した立場。一方、「政治的条件を押し付けない」「中国特色的援助」に対するこだわり、欧米各国とは違うというメッセージが見てとれます。

・改革開放後には援助の様式も拡大。これまでの支援プロジェクトの効果を確実にするため、被供与国に変わりプロジェクトをマネージしたり、ジョイントベンチャーなども行われるようになってきた。

・中国の援助は主に無償援助、無利子借款、優遇借款の3タイプ、前二者は国家財政より、優遇借款は中国輸出入銀行から提供される。累計で2009年末までに2562.9億元(約3.2兆円)を援助、うち無償1062億元(約1.33兆円)、無利子借款765.4億元(約9558億円)、優遇借款735.5億元(約9183億円)。
累計は分かったものの、近年の単年度規模、及びその伸び率が不明なことは残念。伸びていることは確実であろうだけに、現在の規模がどのくらいなのかが発表されなかったのはやはり意図的なのでしょう。

・援助は国家財政支出の一部から提供される。財政部の統一管理の元、商務部と国務院、その他の対外援助管理部門がそれぞれの所管に従って、援助予算を取り仕切る。無利子借款の償還期間は20年。優遇借款の利率は2~3パーセント、償還期間は15~20年(うち5~7年は償還免除)。

・援助プロジェクトには以下8つのタイプがある。パッケージプロジェクト、物資供与、技術協力、人材育成協力、医療隊派遣、緊急人道援助、ボランティアプログラム、そして債務免除。

---パッケージプロジェクト:無償援助や無利子借款などを用いて、中国側が全部もしくは部分的にプロジェクトを実施する。中国側が設計、測量などから始まる一連に責任を持ち、完成後に被供与国に引き渡す。これらにより各種インフラ建設を実施してきている。1954年以降、北朝鮮、ベトナムなどの復興を助ける形で始まった。中国の支援の主要なやり方で、現在の支援の40%はこの形式。

---人材育成協力:研修生、実習生受け入れ。1981年からはUNDP(国連開発計画)とも共同実施。2009年末までに4000期のトレーニングコースを実施、12万人を受け入れた。現在は毎年1万人程が中国で各種のトレーニングを受けている。
1981年から既に国連と一緒にやっていたと言うのはびっくり!確かに今はセクターを越えて多くの研修員(特にアフリカなど)を受け入れているのを目にします。

---債務免除:50カ国、380件、255.8憶元(約3194億円)の債務を帳消しにした。

【支援分野別】(ここは主に人民網からの表のみで失礼します。農業のところだけポイント抜き出しました。)

20110504_foreign_aid
人民網の報道。
基礎インフラ、工業開発関連の援助プロジェクト多し。体育施設や劇場なんていうプロジェクトは今の日本のODAでは恐らくやれないであろうプロジェクトですが、途上国におけるビジュアル的インパクトは大きいです。

・農業関連支援:ギニアビサウ水稲生産モデル建設、マダガスカル・ハイブリッド米開発モデルセンター、マリでのサトウキビ生産、チュニジアでの農業灌漑など。2010年国連ミレニアム開発目標ハイレベルサミットでも、中国は5年以内に途上国に30のデモンスレーションセンター建設、3000人の技術者派遣、5000人の農業関係者受入れを約束した。

【援助実施体制】
・商務部が対外援助の主管部門。国际经济合作事务局、国际经济技术交流中心、国际商务官员研修学院がそれぞれパッケージプロジェクト、物資支援、トレーニングプログラムの実施を担当する。他省庁の関連部門とも協力していて、2008年には外交部、財政部などとの調整機構を、2011年2月には部間(訳注:省庁間)の連絡メカニズムを「調整メカニズム」に格上げするなど、連携を強化している。
実施体制に関しては商務部がまとめ役であることははっきりしているのですが、実施機関としては日本のODA実施機関で言えば国際協力機構(JICA)にあたるような統一的な組織は無いようであることが見てとれます。今後規模が大きくなるにつれては、中国の各種の支援同士が統一の取れたものかどうかも問題になってくるかもしれません。この「調整メカニズム」がどう機能してくるでしょうか。

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【プラスで考えたこと】


今回の白書は国外の知りたかった中国の対外援助の実情に十分触れるものではなかったと思いますが、このような白書ができたこと自体はその透明化のプロセスとして大事な一歩です。数年前にベトナムで働いていた際、毎年行われている支援国会合でそれまで黙っているばかりだった中国が突然、「来年は2億ドル(約162億円)支援す
る」(これはその年の支援国・機関でも5位か6位の額だったと記憶しています)と公表して周りを驚かせたことがあります。あまりにビックリされて嫌だったのか、それともその後に「じゃあ2億ドルで何やるの?」と言う質問がうざかったのか(笑)、また翌年以降はだんまりでしたが、かなりの規模でやっているにもかかわらず詳細はわかっていないのです。

白書自体は比較的これまでの実績の羅列で、その意味で内容はそれ程面白くはなかったかも。今後はその他の外国向け白書のように、国際世論で言われていることへの「中国的反論」なんかがもっと出てくると面白いですね。(例えば中国の援助プロジェクトが「地元民を雇用せず中国人連れて行われている」「独裁政権のような国にもバンバン出している」ということなど)。

中国が他のドナーと連携して支援を行っていくまでは長い道のりでしょう。それでも、大きくなるドナーとしての中国の存在感はますます大きくなってきていくわけですから、まずはわかり合うことが必要ですよね。中国も最近は各種の国際機関に自らの援助について語るようになってきています。少しずつですが変化は出てきているのです。

*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。




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トラックバック一覧

  1. 1. 日本改造計画4/5 ~外交政策

    • [投資一族のブログ]
    • 2011年05月12日 21:10
    • 私は次の3点でODAはを平和創出の事業だと考えている。 まず、ODAは途上国の産業インフラ建設を促進するだけでなく、科学技術のレベルアップ、教育制度や医療 制度の整備、文化遺産の保存など、多方面にわたって国づくりそのものを支援することができる。また日本の 援助によ

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