温家宝と薄熙来の論争温家宝と薄熙来に関するトピックについては、すでに以下2本のエントリーが報じています。
「文化大革命の負の遺産」重慶の革命歌教育を温家宝首相が批判―翻訳者のつぶやき中国情報に権力闘争の匂い(BLOG「獨評立論」) ここまでしっかりまとめられてしまうと、今さら私などの出る余地などなさそうですが……。

*重慶市党委書記、薄熙来。写真は人民網の報道。 *当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。
1949年生まれの薄熙来にとって、来年の党大会で政治局常務委員に昇格できなければ、内規の年齢制限で即引退が待っています。仮に今回を逃しても6年後の次がある汪洋とは必死さが違うのです。
勢いを増す薄熙来の「紅い」活動
太子党と呼ばれる二世政治家の1人、薄熙来が2007年に重慶市トップの党委書記に就任して3年半が経過しました。打黒(マフィア撲滅)キャンペーンを1年余りに渡って展開しましたが、その裏には、前任者にして現在は広東省トップの党委書記を務める汪洋のイメージダウンを狙う意図もあったと言われています。
薄熙来が二世政治家らしい面を存分に出しているのが、現在も続いている「唱紅」(革命歌教育)運動です。この「重慶の紅い活動」は何度か紹介してきました。
■【中国コラム】「赤い」ノスタルジアから読み解く中国共産党内部の権力闘争(2010年12月10日)
■赤い思想でつながる二世たち=習近平を支える権力グループ「太子党」―中国コラム(2011年01月13日)
■薄熙来は今日も紅かった(2011年03月03日)
3月には市民3千人を長城モドキの場所に集めて紅い歌謡祭をやってみたり、予備党員ら1万人を集めて真っ赤な集会を開くなど、勢いは衰えるどころが益々盛ん。


習近平が「赤い運動」を評価したのに続いて、今年に入ってからは呉邦国、李源潮なども重慶に駆けつけ、「唱紅」活動を賞賛。太子党の台頭と共に毛沢東時代への回帰は避けられない事態と言えるでしょう。
「
太子党は共青団や上海閥と対立する集団などではなく、太子党こそが中国共産党なのだ」との認識を新たにしたのは、
最近ツイッターを始められた矢吹先生の指摘によるところが大きいです。李源潮も劉延東も太子党ですし、彼らが繋がるのは10代の多感な頃の記憶ということになるのでしょうか。ちょうど彼らは紅衛兵世代なんですよね。
温家宝の太子党批判発言さて、問題は温家宝が呉康民という香港の元全人代代表香港特区代表の呉康民氏と会見した際の発言です。4月22日に北京の中南海、夫人を交えての昼食の席でのこと。香港の次期行政長官(現在は蝶ネクタイ長官ことドナルド・ツァン)の人選について水を向けたものの、温家宝は何も答えなかったと報じられています。
温家宝の嫁が出てくるのは極めて異例のこと。香港誌『開放』の金鐘編集長の解説も興味深いのですが、ここでは温家宝の発言に注目したいと思います。
温総理、呉康民と会見行政長官人選語る(2011/4/28 成報) 温家宝夫妻、香港左派代表と会見で様々な憶測(2011/4/28 博訊)香港紙にとっては蝶ネクタイ長官の後任が大事でしょうが、個人的には呉康民が明かした温家宝発言、すなわち「
政治改革を困難にしている「2つの勢力」」に興味深々です。2つの勢力とは、「封建時代の残滓と文革の残滓」であり、「この勢力の一部は真実を語らず好んで嘘を言う」と語ったと報じられています。
名指しこそしていないものの、文革の残滓とは薄熙来を指すことは明白。また、それになびく呉邦国や太子党全体に向けられた批判ともいえます。
温家宝発言は報道されず、なのに反論は報道
この温家宝発言は大陸メディアでは扱われず、「呉が次期長官選挙に言及したものの、温総理は何も話さなかった」という当たり障りの無い内容だけが報じられています。温家宝が汪洋と経済政策で軽く論争になった時は大陸メディアも普通に報じていたのですが、今回はテーマが思想に関わるからなのか、温家宝発言は大陸では無かったことにされました。
薄熙来、パフォーマンス批判を否定(2011/5/2 重慶晩報) ところが、温家宝の批判を念頭に置いた薄熙来の反論はしっかり大陸メディアが転載する事に。これまでも重慶が紅すぎるとの批判に、市長などの下っ端が何度か反論していたのですが、薄熙来が出てきたのは初めてです。
「打黒」は庶民を苦しめる悪の集団を倒す活動。「唱紅」は人材育成に必要な教材が紅いだけともっともらしい理屈付け。習近平のお墨付きもあり、「理想や信念の話をしたら、左扱いなのか、文革なのか」と言い放つなど絶好調です。
中国ナンバー3の温家宝発言が報じられず、格下である薄熙来の発言だけが報道されたのは事実ですので、久々のイデオロギー論争に発展するかもしれません。五一(メーデー)恒例の民草と触れ合うイベントから戻ってきた温家宝が、次はどんな発言をするのか、ちょっと楽しみにしたいと思います。
*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。黒田 健二
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