幹部専用の食糧生産基地が存在した先日、温家宝さんが国務院関係者との懇談会で、食品問題に言及しました。
温家宝、国務院参事、中央文央研究館官員と座談会(2011/4/21 新華網)近年、「毒粉ミルク」(メラミン入り粉ミルク)、「痩肉精」(豚肉に注入すると赤身が増える薬品)、「下水油」、「彩色饅頭」(売れ残ったマントウを着色)など、これらの食品安全事件が説明するように、信頼の喪失、道徳の堕落はがすでに深刻な段階に達している。資質の向上と、道徳の力が無ければ本当に強大な国にはなれない。
*南方週末の報道。
*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。
この温家宝発言が公表された後、一斉に部下どもが動き出しました。
国務院弁公庁「違法な食品添加の厳罰と監督に関する通知」(2011/4/21 新華社)
李克強「食品の違法な低コスト問題の改善を」(2011/4/22 財経網)
衛生部など5部門共同のメラミン含有量に関する公告(2011/4/25 国家工商行政管理総局 )
と、これまで以上に違法な食品添加を厳しく取り締まる姿勢を打ち出しています。
これで直るならとっくの昔に根絶されているのですが、温家宝も言うように信頼と道徳が絡んでますからそう簡単ではありません。人間はそう変われませんので。
南方週末が党幹部専用ファームの存在を報道
李克強も解決不可能な食品問題の責任を背負わされて大変だな、とちょっとだけ同情していたのですが、この報道で考えを改めました。
「こっそり」野菜を栽培(2011/5/6 南方週末)2メートル以上もある高い壁と鉄の柵に周囲を囲まれ、5人の保安員が警備。もし、地元住民が気付かなければ、「海関大棚」(海関は税関の意)という場所は探すのに困難を極めただろうし、ここが北京税関への提供を専門とする野菜基地だと気付くこともなかっただろう。
*南方週末の報道。南方週末の記者が厳戒の基地内にどう入り込んだのかはわかりませんが、基地内では化学肥料を一切使わず、農薬の使用もかなり制限した野菜が栽培されていました。洗わずにそのまま直に食べられるそうです。
各地に存在する食料基地この特別農場は北京市内ながら中心部から車で2時間以上離れた順義区にあります。北京税関専用農場以外にも各省に提供するためだけに作られた食料基地が各地に存在するんだとか。
野菜以外にも、豚、鶏、アヒルや魚の養殖などが行われる「基地」もあり、実際に従事しているのは周辺に住む農民。これらはすべて党機関や政府機関の食堂や、職員が自宅で使う食材用に育てられます。写真の基地は北京税関用なわけですね。
ある匿名の学者は、2年前に陝西省の高級法院(地方裁判所)の食堂でお昼を食べていると、同行していた関係者が「西安から30キロの場所に専用の農場がある。そこの野菜や果物は無毒無害だ」と教えてくれたといいます。
高級官僚専用農場まで!?「北京市には政府の高級官僚専用の農場もある」と話すのは、いわゆる事情通さん。農業部と北京市の環境測定部門による土壌や水質などの調査を経て選ばれた、巨山農場がそれなんだそうです。北京西山と呼ばれる、市内中心部とは段違いの環境にあります。
巨山農場は国家標準委員会から「国家農業標準化模範地区」に認定され、政府指導者クラスも視察に訪れたことがあるといいます。温家宝も李克強も自分用の安全な食品は確保した上で、社会の食品問題について、道徳がどーだ、信頼がどーだと言い散らかしていた事になります。
さて、この高級幹部用食品という特別措置は、最近になって食品安全問題の多発に驚いた胡錦濤があわてて始めた……わけではありません。中華人民共和国建国以来ずっと続いている優遇措置なのです。
「一番美味しいものをエラいさんが優先して食べているだけでも許しがたいのに、しかも自分だけ安全を確保しているのか」。
南方周末を読んだ読者は思ったのではないでしょうか。ちなみに、南方週末の記事はほどなく削除されました。削除すれば、やましい事をしていると自白しているも同然なのに。「民以食為天、食以安為先」(民の大事は食、食は安全第一)というスローガンが、いかに空虚なものかを教えてくれる幹部用農場の存在でした。
*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。*追記
南方週末記事を全訳した続報記事「政府高官専用の「安全農園」があった=潜入取材でスクープ―中国」を公開しました。