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2011年05月11日
中国植林政策の謎
2011年3月、北京市で開かれたある講座で、清華大学の于長青教授は、無意識のうちに中国の植樹造林の問題をふたを開けてしまった。
彼が聴衆に聞いたのは次のような問題だった。なぜ森林覆蓋率はこれほど増加しているのに自然環境の悪化は続いているのか?中国の植林面積は急成長を続けているが、なぜ造林地の保存率はわずか22.6%しかないのか?民の財産を注ぎ込んだ植樹造林ははたして本当に価値があるものだろうか?国務院の専門家や政府機関はこのことを考えたことがあるのだろうか?
于教授はすでに辞職し、内モンゴル自治区荒漠・草原研究所の責任者となることが決まっている。5月3日、同氏は南方週末の取材を受け、上述の問題に解答を与えた。
森林は増えているのになぜ自然環境は悪化しているのか?
第一に統計には大幅に水増しされているためだ。1987年出版の中国林業年鑑には、「高木の生長と林業の発展に適した土地の中国における総面積は253万平方キロメートル(天然林120万平方キロメートルを含む)」と記載されている。中国の全面積は960万平方キロメートル。もし好適地をすべて森林化したとしても、森林覆蓋率は26.3%にしかならない。
一方、『中国林業統計年鑑』によれば、2009年までに累計268万平方キロメートルが植林されたという。好適地の面積から天然林を除去した面積133万平方キロメートルを2回ずつ植林した計算となる。
植林は自然を破壊する
南方では1本の木を育てるのに5年が必要。その間には成長を阻害するような天然の灌木や草を刈らねばならないが、しかし、そうすることで天然の植生が失われ生物多様性も破壊される。こうなってしまった森林を「森林荒漠」と呼んでいる。
北方では干ばつ地域、半干ばつ地域には植林するべきではない。干ばつ地域の草原は大部分の植被が「木質化」(植物の表面が堅くなり、木のようになること)しており、木は伸びても20~30センチ程度。高木に成長することはない。また植林には灌漑が必要であり、干ばつ地域では大量の水を使うことになる。水不足に強いポプラであっても、川沿いに生えている。無理に植林すれば地下水の低下を招き、原生植物に深刻な被害をもたらすことになる。
今や森林再生は呪いのように中国人を束縛している。一部地域では代価を惜しまず小さな「モデル林」を作っているが、その結果としてより大きな破壊をもたらしている。
あるカザフ族の遊牧民が私に言った言葉だ。「あなたたちは木が生えてなくて、作物が植えてなくて、住宅も建っていない場所を見ると、そこを荒野だという。開墾するか植林するかしなければと言う。だが、そここそが私たちの草原なのだ。」
植林は国から金を引き出す手段
植林は中国にとってたんなる政治的スローガンに過ぎない。中国政府の林業部局は独占機構であり、植林は国から巨大な資金を引き出す手段であり、また官僚に大きな政治的功績をもたらすチャンスでもある。関連部局は管理者であると同時に最大の受益者なのだ。
植林のためにどれほどの金銭が浪費されているか。いや、それはまだいい。本当に胸が痛むのは、植林のためにどれほどの水が浪費されているのかを考えた時だ。
海外では事情が大きく違う。欧州では人工的に保護された林を「回復林」と呼んでいる。全生態系をよりよいものに変えていく。人間の力はその補助でしかない。生物多様性の増やしていくことが目的であり、直接的に林を作り出すことはしていない。