中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年05月11日
現在の中国の食品安全基準はどのようなものでしょうか?他国と比較してゆるすぎるのか?課題はどこにあるのか?南方週末5月5日号の記事をご紹介します。(以下、記事抄訳)
「国際基準」との差【考えたこと】
中国の食品安全基準と国際基準に大きな違いがあると、国民の疑念を呼び起こしている。南方週末の取材によると、中国の食品安全基準は他国と比べて少ないだけでなく、基準も非常にゆるいもの。ゆえに多くの貿易摩擦の元となっている。現在、コーデックス委員会が世界基準を公表している。食品で8000種類余り、残留農薬に関して3274種類、1005種の食品添加物に関して基準が設定されている。しかし、中国国内での適用はまだ始まったばかりだ。
(訳注:コーデックス委員会。詳しくは農林水産省ウェブサイトを参照。1963年に国連食糧農業機関(FAO)及び世界保健機関(WHO)により設置された国際的な政府間機関であり、国際食品規格の策定等を実施)
例えば、2006年制定の冷凍肉国家基準では、コーデックス委員会基準と一致していたのは、唯一オキシテトラサイクリンだけだった。ジエチルスチルベストロール(中文:「己烯雌酚」、環境ホルモンの一種)に関してはEUの残留基準が0.001ミリグラム/キロに対して、中国基準は0.25ミリグラム/キロ。250倍もの差がある。
中国科学院研究者によると、中国の農産品質基準において言及されている化学物質はわずか62種類にとどまるが、FAOでは2522種、アメリカは4千種、日本は数万種に上る。「緑色食品にはAA級とA級の等級がある。AA級は厳格だが、A級にいたっては途上国の基準を満たす程度。いわば「失業労働者が食って倒れやしない」レベルに過ぎない」と上述の研究者は話している。
(訳注:緑色食品は中国独自の優良野菜認定制度。この記述には緑色食品担当者が激怒しそうです。A級でも減化学肥料、減農薬農産物が義務づけられています。緑色食品より緩い基準に「無公害農産品」というのがありますが、そちらの方が「途上国基準を満たす程度」という表記に近いかもしれません。)
乱立する基準、改訂されない基準
もう一つの問題は基準同士の食い違い。中国には大きく分けて国家基準、業界基準、地方基準、企業基準の4種類があり、それぞれが違う主管部門で管理されている。例えば果物や野菜などに関しての業界基準では農業、林業、商業検査、商業、軽工業、供鎖の6部門が絡んでくる。
「以前の中国には全く食品安全基準はなかった。昨年から基準の整理が始まってきている。いわゆる安全基準は「衛生基準」という程度のもので、食品がきれいであることを目指す程度、科学的で基準ではない」と唐書沢教授は語る。1980年代末から制定され始めた各種の衛生基準、業界基準はおもに感覚指数及び浄化指標に過ぎなかった。最近5年間、2006年の農産品質量法、2009年食品安全法により整備が進んできた。
*写真は新疆ウイグル自治区北京事務所の果物売場より。「特供」(特別提供)と書かれた段ボール箱。「特供」に関しては記事「中国で一番安全でおいしい野菜!極秘の共産党幹部専用農場は実在した―中国コラム」参照。
現在、制定から10年が過ぎている基準が全体の1/4、中には20年間全く改訂されていないものまである。「標準化法実施条例」第20条では基本的に5年に1度見直すべきと定められているが、基準策定は農業部、衛生部、国家質検総局など多くの部門にまたがるため、調整に時間がかかっている。例えば家畜へのワクチンは既に140種余りの残留量基準が決まっているが、その検査方法が公表されているのは50あまりに過ぎない。
安全基準と企業・国家利益
「基準に関する争いは正に利益の争いである」と業界関係者は言う。基準を高くすれば淘汰される企業が多く出てくるからだ。2006年末に農業部など9部門が合同で発表した国家基準改訂計画では国際基準との合致率が23%から55%にまで上がったが、まだ国内外の差は存在する。衛生部も2011年4月に乳製品なども含めた新しい基準を公表している。
かといって、今すぐに基準をコーデックス委員会、EU或いは日本のレベルに引き上げるのに賛成する専門家はいない。「日本の基準がベストというわけではない。彼らだって自国の利益を考えて設定している。中国のうなぎにどんな薬を使っているかわかって検査項目を決めているから、必ず我々のうなぎは検査で引っかかる」と農業部漁業産品質量監督検験測試センターの呉成業主任は言う。逆の場合もある。例えばエビアンのミネラルウォーター、プリングルスのポテトチップスなど国際的に有名なメーカーの食品が中国の検査に通らなかったこともあった。一部基準は中国の方が厳しいこともあるのだ。(以上抄訳)