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2011年05月12日
深圳市が会場なのにゴールが北京という謎の聖火リレーも始まり、まだ開催3ヶ月前なのにえらく張り切ってるなと見ていたら、普段何をしているかよく分からない李克強さんが聖火に点火してたりと、盛り上がっちゃっているようです。
過剰すぎる治安対策
そんな深圳市、治安に危険を及ぼしそうな失業者や売春婦約8万人を市外へ追放したり、大会終了まで包丁購入時に実名登録を義務付けるなど、かなり過敏ともいえる動きを見せています。
(記事「【深圳ユニバ】これがスポーツイベントの準備なの?「8万人を追放」「集団陳情は厳罰との威嚇」参照)
市外へ追放だけでもかなりやり過ぎなのですが、それでも失敗したくないという不安が拭いきれないのか、問題を起こしたくない思いがストレートに出たのか、思わぬ本音が出てしまいました。
期間中の賃上げ交渉に刑事罰
・ユニバーシアード期間中の賃上げ交渉に刑事罰(2011/5/7 新華網)*記事は削除されています
4月27日に深圳市住宅建設局が出した「建築業の民工の給与支払い工作と共同で大会期間中の社会の和諧と安定に関する通知」によると、雇用主は如何なる理由があろうと給料の未払いを禁じています。違反した企業は深圳市のプロジェクトに3ヶ月間参加できないという罰則付き。これはいい。
問題なのはその次で、大会期間中は「給与未払いによる民工の集団陳情や組織する事をも禁止する」というもの。違反した民工にも厳罰が待っているというものです。
党中央からも批判され撤回へ
この通知が発表されると、対象となる民工はもとより、身内である深圳市内部からも「根本的な解決ではない」「都市と政府のイメージダウン」(王蔚明・市社会組織総会理論研究中心主任)、「真剣に検討していない」「法律的根拠がない」「行政が持つ権限を超えている」(劉輝則・市政協委員)と、非難が相次ぎました。
法的根拠を持ち出す身内も程度を疑いますが、身内より面倒なのが党中央様で、案の定、目を付けられてしまっています。
人民日報には「雇用する側に給与をちゃんと支払わせれば、集団陳情など起きない」、新華社には「安定のために集団陳情禁止とは南轅北轍」と反対キャンペーンを展開された深圳市は、事実上の撤回に追い込まれました。
深圳「民工の集団陳情禁止」に反論 言葉遣いに誤り(2011/5/10 人民網)
人民日報に目を付けられた深圳市住宅建設局の報道官は、記者会見で「言葉遣いに誤りがあった」「公文書の送付手順と審査チェックが甘かった」と認めると共に、「社会の関心と世論の監督に感謝」し、民工に謝意を表し、通知を撤回しました。
社会や世論というよりは、中央に問題視されたので撤回しただけなのではないかと。
失策でイメージを落とした深圳市トップ
深圳市トップである王栄市党委書記がどういった意識を持っているのかがわかる、格好の材料がありました。通知発表後の5月3日に、ユニバーシアード開催で深圳市を世界デビューさせようとしていた発言が『新聞1+1』で紹介されています。
深圳市、集団陳情禁止を撤回民工に謝罪(2011/5/10 央視網)
*したり顔で語る王栄党委書記。央視網の報道。
「どの都市で大会を開催しても、この機会に都市を見てもらおうという重要な目的があると思う」と、無理してでもいいところを見せようとする、かなり中央の評価を意識したコメントでした。
王栄は汚職容疑で先日死刑判決が下った前市長の後任として、蘇州からやってきた共青団、ということになっているのですが、こんな叩かれやすい通知を通すなど確かにチェックが甘かったといわざるを得ません。
しかも本人は自己顕示欲と出世欲丸出しで隠そうともしない。ユニバーシアードを大過なく成功させれば、来年の党大会でウヒヒという下心は誰でも持ってるでしょうけど、「法治国家を目指す中国」で率先しての法律無視。
深圳ではなく共青団のイメージダウンに繋がるだけでなく明らかな失策であり、王栄自身の人事にも影響しそうです。
*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。