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不透明な遺伝子組み換え問題=なし崩しに進む「普及」―北京で考えたこと

2011年05月15日

真実はどこまでか?中国・遺伝子組み換え作物の栽培の実態

これまでもこのブログで何度か取り上げてきている中国での遺伝子組み換えの話題。議論紛糾なことは既に紹介しましたが、同時に「米とかトウモロコシとかの遺伝子組み換え作物、本当はもう栽培しちゃっているんじゃないの?実際は出荷されているんでしょ、どうなのよ?」というのもお決まりの話題です。
(「揺れる遺伝子組み換え米問題=当局内部でも対立」「技術の問題、時間の問題?GM(遺伝子組み換え)作物と中国」など参照)

グリーンピースなど国際非政府組織(NGO)も、「すでに相当数が違法に流通している」と指摘しています。この問題に関する中国政府の取り組みも加速してきたようです。南方週末5月12日付の記事からご紹介します。

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*中国の農業関係研究開発はすごい勢いで進められている。遺伝子組み換え関係も大きなテーマ。写真は一般作物の施肥試験区の様子。

*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。

たび重なる調査、そして大規模調査団

「また来るの?面倒くさいなあ。」
それが山西省の農民、楊成功の最初の反応だった。「もう4、5回も視察やら調査やらが来ているよ。いつも聞かれる質問は同じだし。」しかし、今回は調査団の規模が違う。農業部、環境保護部、科技部、衛生部の4省庁合同調査団だ。

この大型調査団は山西、黒龍江、吉林、山東、広東省などを回る遺伝子組み換え生物安全連合調査チームなのだ。この中国初の大規模な調査は、中国政府が国内で遺伝子組み換え作物が違法に栽培されていると認めたことを意味する。
(訳注:「調査=事実を認めた」とのロジックは、政府のものというよりは南方週末の解釈と言うべきかもしれませんが。)


推進派と反対派の攻防


「調査によって一部の問題が明らかになった」とは発表されたものの、関係者は多くを語っていない。環境保護部担当官にインタビューしても「ノーコメント」という対応。南方週末は農業遺伝子組み換え生物安全委員会メンバーの多くにインタビューしたが、全員が詳細は知らないと答えている。ある匿名の関係者は、100名余りの学者が連名で昨年の全国人民代表大会(全人代)に提出した遺伝子組み換え水稲に反対する「意見書」が、今回の調査のきっかけになったと見ている。

2009年8月、遺伝子組み換え水稲種子2種類、トウモロコシ1種類が安全証書を得たことが明らかとなり、翌2010年3月の全人代での意見書提出へとつながった。農業部副部長は意見書に答え、遺伝子組み換え穀物の商業化・広域普及は許可してなく、商業ベースで遺伝子組み換え穀物は流通していないと否定している。

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*北米から大豆を輸入している中国。大豆油の多くは輸入した遺伝子組み換え大豆を使用している。

国務院食品安全委員会でも、遺伝子組み換え作物に関する会議が開催された。他に推進派・反対派両陣営を招いての討論会も開催されたが、両者が歩み寄る気配は無い。
(訳注:食品安全委員会は昨年2月の設立。ブログ記事「食の安全論議、再び加熱?」を参照。)

農業部科技委員会委員、山西省農業生物技術研究センター主任の孫毅氏は、食糧安全保障のためにも遺伝子組み換えは必要と言う。「遺伝子組み換え大豆が良い例だ。中国で栽培されないうちに、結局、全中国国民が食べている。アメリカ産の遺伝子組み換え大豆を、だ。」


謎のトウモロコシ品種「先玉335」とは?

今回の調査団にとって、遺伝子組み換えトウモロコシが主要課題の一つとなっている。2010年9月、山西省でネズミの急減、子豚の死亡増など異常現象が報告された。楊成功ら地元農民は新品種「先玉335」との関係を疑っている。先玉335は遺伝子組み換え品種なのではないかとの疑念もああがっている。山西省農業庁、農業部は遺伝子組み換え作物ではないと否定したが、疑念の声は消えない。

先玉335はすでに相当量普及している。作付面積は全国で3000~4000万ムー(15ムーは1ヘクタール)。単収500キロ/ムー(=7.5t/ha)で計算すると、収量は年2000万トンという計算だ。今年3月公表の「農業主要品種及び主要普及技術公布弁法」では、トウモロコシ26品種が普及推奨品種に選定されたが、収量が高いことで知られる先玉335が選から漏れたことが関係者の疑問を呼んだ。


排除され、それでも「大人気」の種子とは?


2010年、農業部は「史上最大」の種子関連法律施行状況一斉検査を実施した。調査対象となった種子会社の20%に期限内の業務改善命令、10%以上の営業許可証を没収した。同検査は初の遺伝子組み換え種子に関する検査であり、違法な試験の関係者が処分されている。

南方週末の調査によると、違法行為の処理はその後「内部消化」されていたという。2010年12月16日に農業部が発表した第1504号公告では、トウモロコシ27品種が排除されているが、うち登海3686、中農大236、中農大4号、鉄研124の4種は遺伝子組み換え品種だったと情報筋は明かしている。

遺伝子組み換え反対派の一人、農業科学院作物科学研究所の佟屏亜研究員は「事は農業大学の著名科学者や種子企業・登海種業社長にも及ぶもの。農業部官僚は事態を拡大しないように配慮している。全ては企業の利益と官僚の保護が一枚岩になっていることに起因している」と指摘する。

1504号公告は発効まで1年間あったことから、2011年の春節(旧正月)前の時点で、遺伝子組み換え品種の疑いがある上記4品種の種子は、東北、河南、広西などでよく売れていた。農業部種子管理部門も注目する事態となり、農業部担当官が登海種業社長に販売停止及び返品を「促す」に至った。


「違法」状態での蔓延はどこまで?

農業遺伝子組み換え生物安全委員会の一人によれば、中国の綿花は80%が遺伝子組み換え。パパイヤもほとんどが抗ウィルスの遺伝子組み換え品種だ。一方で、水稲とトウモロコシは安全証書は得たものの、商業化生産はされていない。

市場で売られている遺伝子組み換え米は全て違法である。研究者は開発した遺伝子組み換え米を外部に漏らさないよう管理する責任がある。しかし、現実には違法な遺伝子組み換え作物の蔓延が続いている。

【考えたこと】


諸々の報道などからみるに、事故か意図的かはともかく、一定程度の遺伝子組み換え穀物が栽培され、出回っているのは確実のようです。しかも、その多くが中国が独自に研究・開発した品種。企業名や品種まで具体的に報じた、この南方週末の記事は、業界に大きな波紋を呼ぶのではないでしょうか。

中国にとっては、農業は安全保障にもかかわるコア産業。その肝がとも言うべき種子が海外企業に独占されることには大きな危機感があります。遺伝子組み換え作物についても、「今後、食糧輸入が本格化すれば、どうせなし崩しに入ってくる。それならば、自分たちで作ったほうがいい」というのが研究者や農政官僚の本音かもしれません。国家予算も遺伝子組み換え作物の研究に相当額を投じている以上、実用化・商業化されないならば無駄金になるとの意見もあります。むしろ慎重な姿勢の研究者は少数派のようです。

記事で紹介された調査の直後、5月9日には湖南省長沙市で「全国現代農作物種子業工作会議」が開催されました。回良玉・国務院副総理も出席しています。新聞報道では触れられていませんが、おそらく遺伝子組み換え問題もトピックとなったことでしょう(主要テーマとして明記はされていなかったかもしれませんが)。

「基本的な自給」(=約95%の自給率と解釈されています)を国家目標とする中国農政。目標達成の手段として、遺伝子組み換え技術への期待は高まっています。しかし、一方で市民レベルでは拒否反応も多数。ただ、いずれにせよ、「違法状態」のまま、「うやむや」で普及してしまうのは、中国にとっても、そして、中国食品を食べる可能性がある他国にとっても良いことではないでしょう

読者の関心は高いのに、政府による積極的な情報公開はない。こういう状態が続くでしょうから、南方週末などジャーナリストにとっては、格好の活躍の場、いい記事ネタであり続けるのではないでしょうか。(日本の原発問題ではありませんが、)隠すことが更に疑念を呼ぶと言う悪循環。この問題に中国政府が気づき、対応を変える時が来るのでしょうか。それとも、この問題についても情報統制にこだわり続けるのでしょうか。

*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。

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